第5話
俺は綾香と正面から向き合ったことで彼女の本質を思い出した。気位やプライドが非常に高い彼女ではあるが、決して傲慢なだけではなく自分の非を認める強さや実直さを持っていたことを……
しかしそんなことがあったのもつかの間、俺は再び不機嫌な彼女と対峙していた。
「綾香……?」
「会長と何を話していたの?」
「いや、大した話じゃないよ」
「なぜ、貴方が会長と?どういう接点?」
生徒会長との相談を終えた俺は教室へと戻ろうと思った矢先に綾香に呼び止められた。
声はいつもの淡々とした口調でそこからは感情が読み取れない。しかしその表情から怒りが見て取れた。
会長は綾香の体を気遣ってくれていた。しかしそのことを俺に相談していたと知ったらどうなるだろう?恐らく余計に意地になって彼女は生徒会の仕事を今まで以上にこなそうと自分を酷使するだろう。
それが分かっているからこそ、会長もこうして秘密裏に俺に頼んだはずだ。
「どういう接点って……何で綾香に俺の人間関係のことについてまで詮索されなきゃならないんだ?」
「ッ……」
俺はこれ以上追及されてはまずいと思い少し凄んだ。
彼女は何も言い返せず唇を噛んでいた。その表情を見て、彼女には悪いと思うがこれも彼女のためだ。俺は自分にそう言い聞かせた。
「それもそうね。あなたが誰と親しかろうと、私には関係ないことよね」
彼女はいつもの冷たい雰囲気をまとって一言そう告げると教室へと入っていった。
相談内容がバレなかったのは良かったが、折角改善されたと思った関係が余計に悪化してるような……
こんな状態では俺が生徒会の仕事を頑張りすぎないように言ったとしても聞く耳を持ってはくれないだろう。
これでは本末転倒か……しかしどうすれば良かったんだ?いったい俺は……
その後、俺は少し憂鬱になりながら授業をこなした。
そして放課後、俺は帰宅の準備をして教室を後にした。結局、今日はあれから一度も綾香とは目も合わなかったな。同じクラスで隣の席ともなれば、その存在を意識せざるを得ない。しかし、今日のことがあってから近くにいても彼女との仲が遠くなってしまったことを俺は感じていた。ちょっと言い過ぎだったかな……
教室を出て昇降口へと向かっていると、俺を呼ぶ例の生徒会長の声が後方から聞こえた。
「六角君、ちょっといいかな?」
「はい、何でしょうか」
「今、生徒会室が空いてるからちょっと一緒に来てくれる?」
「分かりました…?」
俺は促されるまま生徒会室へと入った。恐らく綾香のことについての相談か何かだろう。
「六角君、無理なお願いをしてしまってごめんね……嫌だったよね?いくら幼馴染とはいえ、彼女の行動を制限する何て嫌われ役を引き受けさせちゃって……」
「いえ、俺は嬉しいですよ」
「え?」
「会長が綾香のことを思ってくれているんだなって分かりますから」
「そう言ってもらえるとこちらとしても救われるよ…押し付けちゃう形になってしまったから……」
俺は嬉しかった。会長が綾香の体調に気遣ってくれることに対して素直に嬉しいと感じていた。
「ところで一つ質問なんですけど……」
「何かな?」
「何で俺が綾香の幼馴染だって知っていたんですか?」
俺は素直な疑問を口にした。なぜ会長は俺のことを幼馴染だと知っているのだろう。だって俺と会長は今日が初対面だ。綾香が言うはずもないし……
「冷泉さんに教えてもらったのよ」
「ええ?ほんとですか!?」
「ええ、いつもあなたのことを話してるよ彼女」
嘘だろ……知らなかった。当然ではあるが俺がいない時に彼女がどんな話をしているのか俺は知らない。
「一体、綾香は何て言ってるんです?俺のこと」
「う~ん、そうだね……」
何だ言いにくいことなのか?まあそれもそうか……俺に対する綾香の普段の態度を見るに良いことを言っているはずがないだろう……一瞬でも期待した俺はバカだ……
「あなたのことを取るに足らないとか冴えないとかかな……」
「メチャクチャ悪口じゃないですか……」
「最初は私もそう思ってたよ。冷泉さんあなたのこと嫌いなのかな?って、でも毎日あなたのことを話す彼女の姿を見てたらね……」
「見てたら……何ですか?」
「ううん……これ以上勝手なこと言ったら冷泉さんに怒られちゃうかな」
一体、何なんだ。悪口を言われまくっているという告白をされてしまった……しかし、あの気位の高い彼女が俺の存在を認知してくれているということか。大抵の人間は彼女の視界にさえ入ることすらかなわない。優秀な彼女にとってはほとんどの人間がモブキャラ扱いだ。興味の範囲外なのだろう。
その証拠に、彼女が誰かの話をしているのを俺は聞いたことがなかった。
誰かに俺の話をしているということはたとえそれが悪口であっても興味を持ってくれているということか。ポジティブシンキングすぎるが、認知してくれているだけマシと思うしかないな……
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