第41話 快斗君、大好きよ
「嘘だ嘘だ嘘だ!?」
私では無く快斗君を刺してしまった事に気付いたアランは半狂乱になって声をあげていた。自分がしでかしてしまった事の重大さをようやく認識し始めたらしい。
そしてあろう事かアランはその場から走って逃げ出してしまった。だが私はそんなアランを無視して救急車を呼んだ。快斗君はかなり出血していて既に意識も無いため事態は一刻を争う。
「快斗君、しっかりして。こんなところで死んじゃ駄目だよ」
何も専門知識の無い私は救急車が到着するまで快斗君の手を握る事くらいしかできない。1秒が普段の何十倍にも感じられ、救急車が到着するまでは本当に生きた心地がしなかった。
ほんの少ししてからようやく到着した救急車に私は同乗すると、そのまま一緒に病院へと向かい始める。
救急車の中で救急隊員から詳しい状況を聞かれたため私は取り乱しながら包み隠さず全てを話した。それから病院に到着すると快斗君はそのまま手術室へと運ばれていく。
やはり快斗君は重体だったようで、これから緊急手術が行われるらしい。私が手術室の前で祈っていると快斗君の両親が蒼白な表情を浮かべて現れる。そして私の存在に気付くと快斗君のお母さんが詰め寄ってきた。
「エレンちゃん、快斗に一体何があったの!?」
「……快斗君は私を庇ってアランにナイフで刺されました」
私は快斗君の両親にも起こった事をありのまま話す。快斗君を刺した犯人が実弟であるアランのため酷く罵られる事も覚悟していた。だが快斗君の両親は私の事を一切責めなかったのだ。
「そっか、快斗はエレンちゃんを守ったヒーローなのね。本当に凄いわ」
「俺だったら絶対真似できないよ。そんな凄い事ができたんだからきっと快斗は大丈夫だ、今は信じて待とう」
逆に快斗君の両親からそう励まされてしまった。それから私達は3人で快斗君の手術が無事に終わるのを待ち始める。
時間は先程救急車を待っていた時よりもはるかに長く感じられ、まるで1分が1時間くらいあるように感じてしまった。永遠にも感じられた手術の待ち時間だったが、ついに終わりが訪れる。
「手術は予定通り終わりました。かなり危険な状態でしたが、何とか一命は取り留めました」
手術中のランプが消えて中から出てきた外科医はそう告げた。その言葉を聞いて私達はそれぞれ安堵の表情を浮かべる。どうやら手術は無事に成功したらしい。つまり快斗君の命は助かったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エレンを庇ってナイフで背中を刺された俺だったが、目が覚めた時には全てが終わっていた。だからかなり危険な状態で緊急手術をした事も、アランが殺人未遂で逮捕された事もエレンに教えられるまで何も知らなかったのだ。
ようやく病院を退院した俺は再び元気に学校へと通い始めていたわけだが、ここで新たな問題が起きていた。
「また長い間入院したせいで春休みの補習に追加で大量の課題まで提出しないといけなくなったからマジで大変なんだけど……」
「仕方ないよ。そうしないと3年で卒業できないんだから」
そう、新たな問題とは授業の出席日数だ。ただでさえ統合失調症で長期間休んでいたというのに、ナイフで刺されて入院なんかしたせいで余計に足りなくなってしまったのだ。そんな愚痴をエレンに聞いてもらいながら俺は帰り道を歩いている。
「……ねえ、快斗君。この間した今日の約束って覚えてる?」
「忘れるわけないだろ。だから母さんが家にいない今日を選んだんだし、そのための準備もしっかりしてるんだから」
今日はこの後エレンと重要な約束があるのだ。しばらくして2人で雑談をしながら歩いているうちに目的地である俺の家へと到着した。
そのまま2人で部屋にあがった俺達はゆっくりと身に付けている物を全て脱ぎ始める。
「……やっぱり背中に傷跡が残っちゃったね」
背中を見たエレンは悲しそうな表情になるが、俺は全然気にしていない。むしろエレンを守るためにできた名誉の傷なのだから誇らしさすら感じている。
そんな事をエレンに話すと思いっきり笑われてしまった。やっぱりエレンは悲しそうな顔よりも笑っている顔が一番だ。
それから下着まで全て脱ぎ終わり、俺達はお互いに生まれたままの姿になっていた。エレンの裸を見るのはこれが初めてだが本当に綺麗だ。そんな事を思っているとエレンは顔を赤ながら口を開く。
「恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないで」
「……ごめん、あまりにも綺麗だったからつい見惚れちゃってさ」
そう謝罪するとエレンはさらに赤くなってしまった。しばらくの間黙り込む俺達だったが、エレンがその沈黙を打ち破る。
「じゃあそろそろしよっか」
「ああ、そうだな」
俺はベッドの下に隠していた避妊具の箱を取り出す。今日の日のために恥ずかしさを押し殺してドラッグストアで買っていたのだ。
「快斗君、大好きよ」
「ああ、俺もエレンの事が大好きだ」
そのまま俺とエレンはベッドの上で一つとなり、お互いの初めてを捧げ合った。
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