第38話 アラン、全然反省してなさそうだね……

「電話だ。こんな時間に誰からだ?」


 今までの遅れを取り戻すために夜遅くまで必死に勉強をしていた俺だったが、突然机の上に置いていたスマホが着信音とともに振動し始めた。

 スマホの画面には知らない番号が表示されていたため、誰からかかってきた電話なのか分からない。そのため出るべきかどうか迷う俺だったが、もしかしたら知り合いかもしれないと思ったため出る事にする。


「はい、剣城ですが」


「快斗か、出てくれて嬉しいよ」


 声を聞いた瞬間相手が誰なのか分かった俺は無言で電話を切った。電話をかけてきたのは間違いなくアランだ。


「あれ? 確かアランはだいぶ前から着信拒否にしてた気がするんだけど……」


 着信拒否リストを開くとそこには如月アランという名前がしっかり表示されていた。もしかしたら他人のスマホからかけてきたのかもしれない。

 そんな事を考えつつ、俺は先程の電話番号も忘れずに着信拒否にしておいた。これでもう大丈夫だろうと考える俺だったが、すぐに甘かった事に気付く。

 勉強に戻ってから5分もしないうちに今度は非通知の電話がかかってきた。絶対またアランがかけてきているに違いない。

 そのうち諦めると思った俺は無視を決め込む。だがいつまで経ってもコール音が鳴り止む気配は無かった。


「……確か非通知も着信拒否にできたよな」


 とりあえず拒否という赤いボタンをタップした俺はスマホの設定画面を開き、非通知の着信拒否設定を行う。


「よし、ここまですれば流石にもうかかってこないだろ」


 そうつぶやいた俺は勉強を再開するが、なんとまた5分もしないうちに電話がかかってきたのだ。しかもさっき着信拒否に設定したはずの非通知からの電話だった。


「……えっ、さっき着信拒否にしなかったっけ?」


 混乱し始める俺だったが、すぐにそのカラクリに気付く。多分アランは公衆電話からかけてきているに違いない。

 俺が使っているスマホは公衆電話も非通知と表示されるわけだが、非通知の着信拒否対象にはならないのだ。


「……あいつ、よくそんな事思いつくよな」


 俺はアランの執念深さに少しだけ感心させられた。しかし、当然通話に出る気はこれっぽっちもない。

 そしてこれ以上アランの相手にするのも正直バカらしくなってきた俺はスマホの電源を切る事にする。


「初めからこうすれば良かった」


 スマホが使えなくなるのはちょっと不便だが、これでようやく鬱陶しい電話から解放される事ができた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「うわ、何だよこれ……」


 一夜が明けてスマホの電源を入れ直した俺だったが、通知を見て思わずそう声をあげてしまった。無数の着信履歴に加えて大量の長文メールが来ていたのだ。

 ちなみにメールの内容が気になったため興味本位でほんの少しだけ目を通してみたわけだが、エレンに対する誹謗中傷で埋め尽くされていた。

 一部俺に対する謝罪のようなものも含まれていたが、きっと同情を引くためのパフォーマンスか何かに違いない。


「……こんな事をしてアランの奴はマジで一体何がしたいんだろうな」


 俺はアランがなぜこんな事をやっているのか考えてみたものの、全く理由が思い浮かんでこない。もしかしたらアランも俺と同じようにどこか壊れているのかもしれない。

 そんな事を思いながら俺はアランからのメールを一括選択して一つ残らず削除する。悪いがまともに全部読む気なんて初めから無かった。それから素早く朝の準備を済ませた俺はエレンの家へと向かう。

 付き合い始めてから俺達は一緒に登校するようになっており、朝エレンの家へ迎えに行くのがここ最近の流れになっている。


「快斗君、おはよう。朝からめちゃくちゃ疲れたような顔をしてるけど何かあったの?」


「ああ、アランのせいで昨日の夜から色々あって……」


 俺はエレンに状況を説明し始めた。黙って話を聞いていたエレンだったが、だんだん呆れたような顔になっていく。


「アラン、全然反省してなさそうだね……」


「そもそも俺に電話したりメールするような余裕なんて今のあいつにあるのか?」


 両親からの最後の情けとして少なくない手切れ金を一応渡されてはいたらしいが、それもいつまでもつかわからないだろう。


「確かにそうだよね。中卒のアランを採用してくれそうなところがいっぱいあるとは思えないし」


「だよな……まあ、見た目だけは良いからそっち方向で稼いでる可能性とかも十分考えられるけど」


 もしかしたらアランは年齢を偽ってホストなどの夜の仕事に手を出しているのかもしれない。かなり癪だが女人気だけは無駄にあるため、正直需要は絶対にありそうだ。


「……これ以上アランの話を続けてても嫌な気分になるだけだし、そろそろ辞めましょう」


「そうだな。朝から2人で暗い気分になる必要なんて無いし」


 俺達は強制的にアランの話題を断ち切り、昨日見たテレビの内容などを話しながら学校へと向かい始める。そんな俺達の様子を遠くから見つめている茶髪緑眼の人物がいた事に気づいてなかった。

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