第71話 たった1つ
イベント限定の魔物がテイムできるのかどうか検証し終えた俺は妻とその従魔たちの元へと向かう。
気配察知を頼りに彼女たちを見つけたとき、丁度サクラボアが討伐される瞬間だった。
「リーナ、どんな感じ?」
「あっ、ハイト。3体くらい倒してドロップアイテムは全部皮だったよ。そっちはテイムはできた?」
やっぱりレッドボアやブラックボア同様、肉はレアドロップらしい。桜色のボア皮が防具素材として有用なら集めようと思うが、おそらくレッドボアの皮の色違いというだけなのでいまいち手に入ってもありがたみがないんだよなぁ。
それでも肉が欲しいからこれからたくさん倒すつもりだけど。
「残念ながら無理だった。テイム条件が違う可能性があるけど、俺はテイム不可に設定されてるんだと思うな」
「そっか~。テイムできたら、かわいい色をした従魔を増やせるチャンスだったのに……」
サクラボアはそこまでかわいく感じなかった。だが、スライムなんかはピンクバージョンなんかがいたとすればかわいいと思うし、テイムしたくもなるか。
「そういえば魔物に色違いっているのかな?」
「えっ、急にどうしたの?」
「いや、イベント限定の魔物以外にも通常個体とは色が違う魔物っていないのかな~って」
「なるほどね……怨嗟の大将兎なんかはそうじゃない?」
そういえば怨嗟の大将兎ってエリアボスの大将兎のユニーク個体で体毛の色も違うんだっけ?
「たしかエリアボスの方は白い大兎なんだっけ?」
「みたいだよ。名前もただの大将兎らしいし」
今のところ遭遇したユニークが怨嗟の大将兎のみなのでなんとも言えないが、今後他の個体と遭遇することがあれば答えが分かるかもね。
「あっ、思いついたんだけど……テイムした従魔をユニーク個体にすることってできないのかな?」
「えっ、それはマッドサイエンティスト的な禁忌の術でうんぬんかんぬんみたいな話?」
そうだとしたら、今なかなか恐ろしいことを口にしてるよ?
「違うよ! がんばって育てて何回も進化させた結果、ユニーク個体に至るみたいな展開ないのかなーって話!!」
「あー、そういう感じか。てっきり俺にスライムを錬金の釜にぶち込んで錬金術をさせようとしているのかと思ったよ」
「私がそんな怖いことしてってお願いするはずないでしょ……」
実はこの方法、前々から魔物の合成方法として存在するのではないかと考えていた。ただ、自分の従魔をそれに使うのは流石に精神的にムリなので手を出せずにいる。
妻も俺と同じくその可能性に気づいたのかと思ったが、そうではなかったらしい。
せめてゾンビとかのアンデッド系かゴーレムなどの物質系の魔物でないと試そうとは思えない。マモルは骨狼でアンデッド系に含まれるが、かわいいのでそんな実験には使わない。
「ごめんごめん。もう言わないから」
勝手に妻を危険思想人物扱いしたことを詫びる。
「いいよ。別に怒ってたわけじゃないし」
「ありがとう。それじゃあ、またサクラボア狩りする?」
「もちろん! お肉がゲットできるまで諦めるわけにはいかないもん」
この後、俺たちは夜明け前までひたすら気配察知でサクラボア見つけ出しては狩る、見つけ出しては狩るを繰り返す。結果、総討伐数は28体となりイベントポイントは俺も妻も280ポイント貯まっていた。
戦い大好きなマモルも大満足の戦闘数である。
「サクラボア肉……全部でどのくらいドロップした?」
「全部も何も、1つしか落ちてないよ」
「えぇ、あれだけがんばったのに」
一晩中狩りをしてから山を越えての経営地への帰還。ゲーム内とはいえ、流石に疲労が溜まっている。いつもは元気いっぱいの妻も地面でへにょ~んとして液状化したスライムみたいになっていた。
「流石にレアなだけあってドロップ率が低いな」
約30回に1回だから、3.3%くらいか。
ソシャゲの最高レアを引ける確率よりちょっとマシなくらいだけど……課金でガチャを回すのではなくアバターの肉体でがんばらないといけないのが辛いところだ。
「もうちょっと優しい仕様にしてくれないかな。運営さん」
「どうだろうね。今回は初のイベントだし、いろいろプレイヤー側の反応を見て今後の調整に生かしてくれるんじゃない?」
「そうだといいなぁ」
でも、プレイヤーたちが望む調整とは真逆のアップデートをして、毎回非難の嵐を浴びる某バトロワの運営なんかもいるからね。たぶんあそこは要望を取り入れるよりもシーズンごとのメタに少しでも変化をつけることとゲームの寿命を延ばすための調整をしているんだろうけど。やろうとしていることは理解できるが、今シーズンの調整はもう少し手心を加えてくれてもよかっただろうとは思った。
逆に要望を取り入れたり、参考にしてくれるプレイヤーに寄り添った運営も少数だが存在する。
現時点でこのゲームの運営元がどちら寄りかは定かではない。なので、妻の要望が叶うかどうかはもっと先にならないとわからないだろう。
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