第32話 クラン設立
「ログイン成功!」
丸1日かかったメンテが開けてすぐに俺たちはログインした。ゲーム内は夜。これでフルメンバーであの湖畔に向かうことができる。
だが、その前にやるべきことがある。
「とりあえずクランを立ち上げよう」
「うん! たしか冒険者ギルドに申請しなきゃいけないんだったよね?」
「そうだよ。早速行こうか」
3体の従魔には宿で待機してもらい、俺は妻と2人で冒険者ギルドへと急いだ。
「おう、嬢ちゃんたち。久しぶりだな」
「お久しぶりです、ガストンさん。今、ちょっと急いでいるのでまた後で!」
「わかった。またなー」
冒険者ギルドに入るとすぐに大剣を背負ったおっさん冒険者ことガストンさんが声をかけてくれたが、今は話している場合ではない。妻もそう思ったのか、会話を続けることなくギルドのカウンターへと移動した。
「夜分遅くにすみません、マーニャさん。頼みたいことがあるんですが」
「お久しぶりです、ハイトさん。それにリーナさんも。冒険者ギルドは昼夜問わず動いていますから気にしないでください」
俺はあまり冒険者ギルドに顔を出さないので、存在を忘れられていたらどうしようかと思ったのだが、その心配は必要なかったようだ。
「そう言ってもらえると有難いです。早速なんですけど、俺とリーナでクランを立ち上げたくて」
「2人だけでですか?」
驚いた様子のマーニャさん。一応、クランは2人から立ち上げられるはずだから問題はないと思うんだけど、やっぱり他のプレイヤーたちはもう少し大人数でクランを作るのだろうか。
「いえ一応、俺たちの従魔もメンバーとして登録します」
従魔やNPCもクランメンバーとして登録できるらしいので、マモル、すらっち、バガードもクランに入れようと思っている。
「そうですか。わかりました。では、必要書類を作成するので、私がする質問に答えてくださいね。まずは――――」
10分弱の質疑応答の末、クラン立ち上げに必要な書類は完成。冒険者ギルドにて受理されて俺たちのクランは設立された。
※クラン情報※
<アイザック一家>
プレイヤー:2名
ハイト・アイザック(ヒューム)★クランマスター
リーナ・アイザック(ダークエルフ)☆サブマスター
従魔:3体
マモル(骨狼)
すらっち(スライム)
バガード(一足烏)
「マモル今から出かけるよ」
駆け足で宿に戻ってきた俺たちはそれぞれの従魔に声をかける。
「すらっちもおいで」
「バガード、案内頼んだよ」
ファーレンを出た俺たちは案内役の空飛ぶ大烏を追ってペックの森へと入った。気配察知に多数の魔物が引っかかるが気にしない。レッサーコングが自分から襲いかかってくることはないからだ。
背の高い木々の間を縫うように走り、山へと差し掛かる。前回はここでレッサーコングキングに襲われたが、今日は大丈夫。一度倒したエリアボスと再び戦うためには2日のインターバルが必要だからだ。ボス素材を集めて装備一式をそろえるのに時間がかかるとプレイヤーからの不満が多くあがっているので、近いうちに修正が入るのではないかと言われているが。今日ばかりはこの仕様に感謝しかないけどね。
「全員、戦闘準備! 前方から魔物の気配がする」
邪魔な草ツルを掻き分けながら走っているとスキルが反応した。昨日はバガード以外の魔物と遭遇しなかったのに。運が悪い。
「いた、鑑定」
ブラックボア
黒毛で大柄な猪。レッドボアの近縁種ではあるが、こちらの方が少々手強い。特に突進の威力にはかなりの差がある。
「レッドボアの上位互換みたいだ。突進が強力らしいから、こちらから仕掛けて一気に仕留めよう!」
最初に接敵するのはマモル。パーティー最速の骨狼はその鋭い骨の牙で猪の足の付け根を切り裂いた。そこへすらっちによる溶解液。ユニークボス戦で確立された傷口に追い撃ちをかける戦法だ。今は称号<外道>の効果も発動するので以前より凶悪なコンボとなっている。
速さで劣る俺は頼もしい我が従魔のように距離を詰め切れてはいない。だが、それでも問題はない。
「スラッシュッ!!!」
俺が武技名を叫びながら、剣を横なぎにすると斬撃が発生する。それは寸分狂わずブラックボアの額を抉った。
「闇魔法、ダークバレット」
トドメとばかりに放たれた暗い闇の弾丸が己へ迫る光景に恐怖したのか、敵は逃亡を計ろうとする。
この距離だとギリギリ避けられるか?
カァ!
突然、バガードが一鳴きしたかと思えば、土の壁がブラックボアの左右に現れた。どうやら土魔法をあらかじめ唱えていたようだ。
左右の逃亡ルートを潰された魔物は傷ついた身体に鞭打ち、後退して逃れようと試みたが遅かった。
妻の放ったダークバレットが見事に命中し、その命は絶たれたのだった。
「解体だけ使って、すぐに先へ進もう」
ブラックボアの死骸に近づき、解体のスキルを発動させた俺は手に入ったドロップアイテムの詳細を確認せずにアイテムボックスへと放り込んだ。そして再びバガードに先導してもらい、山を駆け始めた。
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