第6話 初めての戦闘


 骨狼にマモルと名付けた後、俺たちは安全にログアウトするために宿を探した。

 宿と酒場はそこそこ数があるみたいだったので、すぐに見つけられた。宿の中に入り、女将さんらしき人に声をかけると部屋ごとに料金を取っているから夫婦なら同室をオススメすると言われたので、その通りにする。ちなみにマモルは部屋の物を壊さないなら、という約束で入れてもらった。


「安く泊まれてよかったね」

「そうだな。でも、同性同士か夫婦とかカップルじゃないとこの割引は使えなさそうだ」

「感覚がリアルだもんね。このゲームで関係の浅い異性と同室はちょっと……って思っちゃうもん」


 雑談もそこそこに妻はログアウトしていった。なんでもリモートで打ち合わせがあるのだとか。


「よし、マモル。そろそろ夜だし冒険に出かけるか」


 マモルはブンブンっと尻尾を振っている。きっと返事のつもりだろう。


 日の沈んだ町は昼間とは少し表情が違う。酒場が大いに賑わい、楽しそうなおっさんたちの笑い声が聞こえる。それをBGM代わりに俺は冒険者ギルドまで歩いた。ギルドの中に入るとガストンが仲間たちと酒を酌み交わしているのが視界に入る。


「ん? お前は昼間にもきた来訪者か」


 あちらも俺に気づいたらしく声をかけてきた。


「どうも。これから魔物を狩りに行こうと思いまして」

「これからってお前、夜は強い魔物が出やすい時間だぞ」

「そうなんですか? でも、俺の従魔が太陽苦手みたいなので」

「骨狼か……それなら仕方ないな。まぁ、ファーレンの周りには骨狼が苦戦するような敵は滅多に出んから安心しろ」


 やっぱり骨狼って強い魔物なんだ。ステータスを見るだけでも十分わかっていたが、先輩冒険者がそう言ってくれるとより信じられる。


「わかりました。マモルに迷惑をかけないように努力します」

「おう、そうしろ。じゃあ、がんばれよ~」


 バシバシと背中を叩かれるという激励を受けた俺は、掲示板前に移動してブロンズランクでも受けられる依頼をいくつか選ぶ。そしてカウンターで手続きを終え、ついに町の外へと出た。


 ――――穏やかな草原。そう呼ばれているここは、ファーレン東部に位置する。依頼の手続きをしてくれたギルド職員によると、ここは町の四方を囲むフィールドの中で最も敵が弱いらしい。初めて外に出る人にオススメのフィールドだそうだ。


 視界の悪い中、マモルとともに歩みを進める。足元に茂っている草々が風に揺られる音がやけに大きく感じた。


「っ!? マモルどうした!!」


 突然、マモルが駆け始める。見失いそうになったので慌てて背を追う。しかし、ステータスの差があるからか中々追い付かない。


「キュッ」


 小動物の鳴き声のようなものが、微かに聞こえた。やっとの思いでマモルを視界に捉えると、そこには角の生えた兎の首に骨の牙を突き刺したマモルがいた。


「魔物を見つけたから走ったのか」


 しばらくするとマモルは角の生えた兎をぺっと吐き出す。


「死んだってことか?」


 返事の代わりに尻尾が左右に揺れる。


「てっきり倒した魔物は消えて肉や皮とかのアイテムになると思ってたんだけど、違うみたいだな」


 生き物の死骸をそのままにしておくのもどうかと思ったので、ひとまずアイテムボックスで保管することにした。その際、アイテム名が一角兎の死骸となっていたので、魔物の名前が判明した。


「マモル、ルールを決めよう。今度から魔物を見つけたときは、尻尾で軽く俺の背を2回叩いてくれ。そしたら俺はマモルについて行くから」


 それから十分も経たないうちにコンコンと背が叩かれた。

 俺の言ったことを理解したマモルは、すぐさま行動に移したようだ。俺がマモルを見ると先程よりもゆっくりとしたペースで走り出していた。たぶん俺のついてこれるペースに合わせている。速さの差にも気づいているのだろう。


「おっ、ここまでくれば俺にも見えたぞ。今回は自分で戦ってみるからマモルは待機だ」


 今度の敵も一角兎だ。あちらはまだ俺たちに気づいていない。


 音を立てぬように背にある鞘から剣を抜く。本来、剣の扱いなどわからないはずなのに、どういうわけかそれっぽい構えが頭の中に浮かんだのでマネをする。きっとこれが剣術(初級)の効果なのだろう。


「ふぅ――――」


 一度、大きく深呼吸をする。


 そして一直線に一角兎へと走った。


「くらえっ!」


 声を出したことで相手もこちらに気づいた。しかし、俺はもう剣を振り上げている。横っ飛びに逃げようとする一角兎の背を木の剣が叩く。


「キュキュッ」


 鳴き声を上げながら、転がる一角兎。まだ倒せているかわからないので、すぐさま追撃する。



<見習いテイマーのレベルが1あがりました。SPを2獲得>


 倒せたのか。念のため、木の剣の先で一角兎を突いてみるが反応はなかった。すぐにアイテムボックスへ収納して、ステータスを確認する。




ハイト・アイザック(ヒューム)

メイン:見習いテイマー  Lv.2

サブ1:見習い錬金術師  Lv.1

サブ2:見習い戦士    Lv.1

HP:60/60 MP:60/60

力:12(+6)

耐:12(+3)

魔:13

速:13

運:13

スキル:テイム、錬金術、剣術(初級)

称号:―

SP:4




 サブ職のレベルは上がっていない。もしかしてメイン職の方がレベルアップしやすいとかあるのだろうか。気になるところだ。


<骨狼のレベルが1あがりました>


 続いてマモルのレベルアップがアナウンスされたので、ステータスを見る。




マモル(骨狼)

Lv.2

HP:140/140 MP:45/45

力:35

耐:15

魔:19

速:43

運:13

スキル:骨の牙、気配察知、暗視

称号:<闇の住人>




 今更だが、スキルの詳細も見ておこう。




骨の牙……かみついて攻撃する際の威力があがる。また骨の牙が折れた場合、HPを消費することで再び生やすことができる。


気配察知……生き物の気配に敏感になる。


暗視……夜や暗い場所でも視界に制限がかからない。




 視界が悪い中、どうしてマモルばかり獲物を見つけられるのか疑問にもっていたのだが、どうやら気配察知と暗視のおかげのようだ。こうなると索敵は引き続きマモルへ任せた方が良さそうだな。


「俺もある程度戦えそうだし、もっとバンバン狩っていくか。索敵、頼むぞマモル!」


 よし、今日は夜明けまでがんばろうか。


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