第四十二話 新たな出会い 二 vs ミズチ

「ちょっ! 話を聞け!!! 」

「ゴミ虫が」


 冷たい声がすると同時に刺突が飛んでくる。

 冷や汗を流しながらもそれを回避。

 くそっ! 背中の荷物が邪魔だ。


「跳躍! 」


 武技を使いその場からすぐに離れる。

 即座にかごを降ろして腰から短剣ダガーを構える。


「ワタシのお姉様を返してもらおう! 」


 オレが準備している間に彼女も近付いてきていたようだ。

 すぐに距離を詰められ細剣レイピアのどを狙ってくる。

 それに合わせて、短剣の剣先けんさき迎撃げいげきする。


 キィン!


 という音を立て、目を見開いている。

 点刺突てんしとつ、という技術の一つだ。


 キィン、キィン、キィン!!!


 何度もり返し攻撃してくるがそれを全て迎撃した。

 更に驚き、彼女は飛びのいた。

 これから何をされるかわからない。

 体中に魔力と気を巡らせ構え直す。


「ただの変質者じゃないようだな」

「そもそも変質者じゃない」

「お姉様を家に持ち込みあんなことやこんなことをするなんて! 」

「してない! 」

「お姉様に魅力がないだと! ぶっ殺す! 」


 こいつ、話が成り立たない!

 どこが可愛らしげがあるだ。

 小動物みたいなのは体格だけだろ……。


 キィン!


 点刺突で迎撃し、すぐさまふところに入ろうとする。

 細剣レイピアの弱点はリーチの長さだ。

 強力な一撃の突きが可能な代わりに懐に入られやすい。


 ちっ! もう構えに戻っていやがる。

 すぐに出そうとした手を引いて跳躍でその場から飛びのいた。


 観察。

 彼女は構え直して懐に入ろうとしたオレから身を護っている。

 彼女は恐らく精霊人形エレメンタル・ドール鋼鉄こうてつ以上の硬度を誇る人形だ。

 そもそも構えるだけでそれが鉄壁てっぺきの防御となる。

 これはホムラとの戦いで痛いほどわかった。

 だが弱点がないわけではない。

 ホムラとの戦いでわかったが、彼女達は武技を使わず魔法で代用だいようしている。

 つけ入るのならば、そこだろう。


 あらためてみるが——強い。

 ホムラと同種ならば強いのは当たり前なのだが、それでも異常な強さだ。

 彼女が踏み込んだせいで周りの土は陥没かんぼつしている。

 計算しているのかわからないが、おかげでオレの行動も阻害されている。


 それに殺気……。

 冷気をまとっているかのような殺気。

 それによりオレの体中から冷や汗が流れている。


 しかしホムラのように多様な技を使っている感じではない。

 むしろ攻撃が単調たんちょうだ。

 怒りゆえに単調になっているのか、それとも元から単調な攻撃しかしないのか。

 精霊魔法とやらを使う様子もない。

 何故単調なのか、精霊魔法を使わないのか分からないが、チャンスだろう。


 わずかに前に進もうとすると何やら声が聞こえてきた。


「どうした! 精霊の気配がしたぞ! 」

「「ホムラ?! (お姉様?! ) 」」


 オレ達が声の方を向く。

 そこには赤く燃えるような髪をした女性が走ってきていた。

 そしてその精霊の気配とやらの原因をさっしたのだろう。

 前にいる友人とやらの所まで走ってきた。


「ミズチ! 来ていたのか! 」

「はい! お姉様ぁ! 」


 すぐさま剣を収めて甘い声を放ちながらホムラの胸に飛び込む彼女。

 オレの時と大分態度が違うが……仕方ないだろう。

 軽く覗くとだらしない顔をしながら「げへへへへ。お姉様の胸ぇ」と言いながら頭をぐりぐりしている。


 へ、変態だぁ!


 ドン引きしていると話声が聞こえてきた。


「さぁ、お姉様。工房へ戻りましょう! 」


 お、良い事を言う。

 そしてホムラを元の場所に戻してくれ。

 面倒事ごと持って帰ってくれ。


「嫌だ! 帰らない。まだ見て回りたい! 」

駄々だだねないでください。帰って、ありのままの姿で、ワタシとのランデブーしましょう! 」

「私とミズチは恋仲じゃないだろ!? 」


 中々に、情熱じょうねつ的な精霊人形エレメンタル・ドールだな。

 ホムラを山の方向へ引っ張っている。

 しかし意地いじなのだろうか。

 ホムラは一歩も動かない。


 頑張れ変態。負けるな変態。


 今、この瞬間だけ応援してやる。


「……やはりそう言うことなのですね」


 ん? 何か変な雰囲気がただよい始めたぞ?


「そこの男がいるからいけないのですね」

「ち、ちが……」


 おいこら。言いよどむな。誤解を受けるじゃないか。

 ホムラがちらりとこちらを見た瞬間、ミズチとやらから全身をすかのような刺々とげとげしい威圧が放たれた。

 瞬時に短剣ダガーを構え直す。


「やはりこいつを殺さなければ! 」

「お、おい! ミズチ! 」

「水の精霊よ! 」


 そう唱えたとたんに彼女の周りに水が浮遊ふゆうした。

 そしてそれは量が増して行き、オレを襲う。


 結局の所ミズチが行動不能になるまで戦いは続いたのだが、行動不能になっても精霊魔法で攻撃してきたので、それをホムラが迎撃する羽目はめになった。


 何故問題ごとしか起こらないのか、とぼやきながらもやっと腰を降ろせたのであった。


 ★


「くっ! 殺せ! 」


 オレの正面で横たわるミズチがいた。

 オレも疲れて地面に座っている。

 ホムラが少しミズチに魔力を渡したようだ。声は出ている。

 しかし他の部分に回す魔力が足りないのだろう。

 地べたをいつくばる格好となっている。


 しかしどうしたものか。

 ホムラは帰る様子はないし、このミズチとやらは元の場所に戻りたい様子。

 赤い彼女をオレの家で抱えるとなると必然的にこの問題児もやってくるだろうことがわかる。

 なにかいい手はないか……。


 そう考えていると、ひらめいた。


「……ミズチとやら」

気安きやすくワタシの名前を呼ぶな! このゴミ虫めが!!! 」


 お、おう。ひどい言われようだ。

 だがここでくじけるわけにはいかない。


「まぁそう言うな。君に良い提案だ」

「どうせろくなことではないのは分かり切っている。ワタシをこうして行動不能にし、あまつさえお姉様を篭絡ろうらくて家にしばり付ける下郎げろうだからな! 」


 が、我慢だ。

 何せ彼女を放っておくわけにはいかないからな。


「なに。オレの家に来たらホムラと同じ部屋で住まわせる。そう言ったらどうする? 」


 ピクリ、とオレを罵倒ばとうする言葉が止まった。

 オレが言いたいことが伝わったのだろう。

 だが予想外にも反論してきた。


「そ、それならばワタシがお姉様を工房に戻しても同じだろう? 」

「いやいや。実はな。オレの家はあまり広くない」

「こ、このよこしまな奴め! 」

「そういうな。だが……そう、騒ぎをおこなさないでくれると約束するのなら、オレは君とホムラが同じ部屋に泊まることを家主やぬしとして許可しよう。そしてミズチ——君のホムラに対する行動は目をつむる用意がある。これは一世一代のチャンスとおもわないか? 敬愛けいあいするお姉様と、狭い部屋で、二人きり、だぞ? 」

「お、おい、ゼクト殿?! 私を売るのか?! 」

「いや、今まで通りの、二人きりの、生活だろ? 」


 そう言いながらニヤリと口角こうかくを上げてミズチを見る。

 すると彼女もニヤリと笑った。


「交渉成立、だな」


 オレはミズチの手を取るために立ち上がろうとする。

 しかし——


 ゴキリ!


「ギャァ! 」


 こ、腰がぁ!

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