第二十六話 ホムラの副業

「と、言う訳で彼女——ホムラをよろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします! 」


 オレとホムラが多くの女性陣の前で頭を下げた。


 ここは村の集会場。

 定期的にもよおし事を行ったり、いざという時に避難する場所である。

 今日はホムラに外に売る用の手芸しゅげいを教えてもらいにここに来た。

 あとはこの村に馴染めるように女性陣との引き合わせ。

 オレとしては、可能なら彼女の手加減スキルが上昇してくれれば嬉しい。


「あらあら、この前の子じゃない」

「きょ、今日はよろしくお願いします! 」

「そんなに緊張しなくてもいいのよ」

「こっちいらっしゃい」


 周りに糸やら針やらがある中、村の女性陣がホムラを手招てまねきする。

 ホムラはオレと交互にみてくる。


「いってこい。オレは家で何か作ってるから」

「え? ちょっ! 」

「こっちよ、ホムラちゃん」

「ホムラちゃんは確か遠くの国から来たのよね」

「旅の事を教えて欲しいわ」


 人族に獣人族にドワーフ族など様々な奥様方に引っ張られながらオレの方に手を伸ばすが、ホムラのことは彼女達に任せよう。

 少しばかし苦労するだろうが、なんだかんだで教えてくれるはずだ。


 そう思いながらもホムラに背を向け、オレは扉を開けた。


 ★


「さて。何を作るか」


 オレは集会場にホムラを置き、家に戻っていた。

 朝に幾つか依頼をこなしているので、この時間——昼から夕方にかけては比較的ひまだったりする。

 大工としての用事がある時はこの時間帯に誰かが来るのだが今のところその様子はない。

 よって作業室で何か作ろうと考えたわけだ。


 圧倒的趣味の時間!!!


 そして目の前には……。


「大ぶりの木のえだが一本」


 るか?


 それも良い。

 オレの腕くらいの大きさの枝だ。りごたえがありそうだ。

 だが何をる?


 周りにモデルになるものが何かないか見てみる。

 しかし何もない。

 只々ただただ道具が整理されているだけの部屋。

 ま、男部屋だからこんなもの……なのだが、こういう時に困るのは確かで。


 ただ男が一人真ん中に腕を組んで座っているという残念な絵面えづら

 いつもならば特に何も思わないのだろうが今日はやけに寂しい気がする。


 ……。あぁ。今日はダリアもホムラもいないからか。

 思えば最近になって色んな事があった。

 ホムラに出会い、ダリアは……いつも通りだな。

 だが二人の相乗効果だろうか、オレの周りが騒がしくなったのは確かだ。

 

「エルフと精霊、か」


 そう言えばエルフ族やドワーフ族は精霊信仰が強いと聞く。

 本当に『いる』と知っているのかはわからないが、根強いらしい。


 その昔見た七つの精霊が集う絵画かいがを思い出す。

 そしてある程度想像を固め——


「よし、なら! 」


 思いついたままにオレは木をった。


 ★


「……オレはなぜこんなものを作ったんだ」」


 るのを終え、オレは後悔こうかいねんさいなまれていた。

 ちらりと前を向くとそこには人族の男性一人とエルフ族の女性が一人が手を取り、そして小さな精霊が二人の手を取っている姿が見えた。


「これじゃまるで——」

「帰ったぞー!!! 」

「うぉ!!! 」


 大声で叫んで帰宅を知らせるホムラの声が。

 瞬時にホムラとダリアが協力関係にあるのではないか、と疑っていたのを思い出す。


 まずい! これを見られたら!


 周囲を見回す。

 だが隠すところがない!


「あれ、開かない」


 今は家のかぎを閉じている状態。

 そしてこの家を紹介した時に見せた建物の一つがここ!!!

 ならばこの小屋に行きつくのは必然!!!


「そう言えば何か作るって言ってたな」


 早く隠すところを見つけなければ!


 ガラ……。


「お、ゼクト。いるじゃないか」


 ……後ろから……声がする。


「なに黙ってちぢこまってるんだ? 」


 こっちに足を進めている音がする。

 恐る恐る後ろを向くとやはりそこには——ホムラがいた。


「お、お帰りホムラ」

「ああ今帰った。家の玄関が閉まっていて驚いたぞ」

「作業するのに集中するからな。こっちにこもる時はなるべく家のかぎめてるんだ」

「なるほど。で、なに後ろに腕をやっているんだ? 」


 くそっ! やはり気が付いたか!


 大量に冷や汗が流れる。


 こんなもの見られてダリアに報告されたらたまったもんじゃない。

 すぐに「結婚ですね! 」と言い、すぐさま持てる力を振りしぼり周りを固めて結婚天国行きが成立してしまう。

 正直な話今オレがこうしてダリアをかわせているのは彼女がまだ「遊んでいる」からだろう。

 彼女の力なら、その気になればすぐにでもおりに入った動物のごとく身動きが取れなくなるのは必須!


 どうにかせねば。


 と、一瞬気を取られている間にホムラに後ろを取られた。


「お! ゼクトとダリアと精霊じゃないか! 」


 くそぉぉぉぉぉ!!!


 ★


「ははは、良いじゃないか。それで」

「よくない」

「何でだ? 結婚は人間にとって幸せなことじゃないのか? 」


 オレの家の広間にて。

 机の上に置かれた作品をホムラが興味深そうにいじりながら、オレに言う。

 確かにそうなのだが寿命差があり過ぎる場合はそうじゃない事をホムラに告げた。


「そんなに気にするようなものでもないと思うんだが」

「気にするだろ。普通」

「まぁ私達は結婚することはないからな。精々家族的な付き合いくらい、か」

「精霊にも家族という概念がいねんはあるんだな」

概念がいねんというか、同じ土地で生まれた精霊? という感じだ。だがそれが人のそれよりも強く出るだけで」

「同じ土地で生まれた精霊が、家族か」

「ま、人と同じでその土地で違うだろうが」


 こてこてと木彫きぼりを動かしながら少し微笑みホムラが言う。


「ま、問題があるのなら、この木彫きぼりの事は言わないでおいておくよ」

是非ぜひそうしてくれ」

「話したら話したで面白そうだが」

「それは止めてくれ」


 全力でお願いし、集会の事に話を移す。


「で、どうだったんだ? 手芸しゅげいは」

「ん~まぁまぁ、かな? 」


 コテっと木彫きぼりを元に戻して腕を組み、そう言うホムラ。 

 彼女のまぁまぁの具合ぐあいがよくわからないから判断のしようがないが、不安だ。


「何か物になるものは出来たのか? 」

「いや。流石にそこまでは出来なかった。精々せいぜいめる程度だった」

「十分だろ」

「村の人の出来を見ると少々へこむよ」

「やり始めはそんなものだろ? 」

「力加減がな……やっぱり難しいな」


 何をしてきたお前は!

 物凄く、物凄く不安になってきた。


「ま、「ホムラちゃんは今後に期待ね」と言ってくれたからその内できるだろう」

「……それはめ言葉なのか? 」


 何をやらかしたか不安になるも確かめる勇気がなく今日の所は木彫きぼりを作って終わるのであった。


———

 後書き


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