4.いつ電話しても話し中ってそれ着拒だから


「なんかさぁ、最近稲沢さんのスマホ調子悪いみたいなんだよね。電波障害は起きてないみたいだから、機器の問題なのかなぁ」


 Aのぼやきに俺はまたB子の話題かと顔には出さずげんなりした。

 こいつの頭の中どうなってんの? 一人のことばかり考えまくって飽きねぇのかな……俺は毎日似たようなストーカー的思考を聞かされて飽きた。飽きすぎて悟りをひらけそうなほど飽きた。


「ふーん」

「ずーっと通話中なんだよ」


 え、こいつB子個人の連絡先知ってんの? 地味にそっちが驚きだわ。


「ほら、今も」


 スマホを取り出して、B子個人に向けて電話をかけてみたA。

 するとハンディフリーにしたスマホからツーツーと確かに話し中の音が聞こえる。

 しかし、これは……


「寝る前に稲沢さんの可愛い声を聞くのが日課だったのに」


 俺は悟ってしまった。

 そして面と向かってAに残酷な現実を突きつけた。


「や、いつ電話しても話し中ってそれ着拒だから」


 俺は友達として教えてやったのだが、Aは「そんな訳ないだろ!」と反論してきた。

 つうかお前、交際している訳でもない、交際目前でもない女子に毎日電話してたんか。それは……迷惑がられて着信拒否されても仕方ないと思うぞ。


一度真っ正面からAを振ってみたらどうかとB子に言ってみるべきなんだろうか……いや、そうしたらAが逆上して、とんでもないことをしでかす可能性が……


 へそを曲げたAを放置して、俺は教室内をぼんやりと眺める。

 するとぱちっとB子と目が合った。

 彼女は俺からさっと目をそらすと、青ざめた顔をしてぷるぷる震えていた。


 俺は自分がしでかした事じゃないのに、申し訳ない気持ちになった。


「あっ! お前、稲沢さん見てるだろ! やめろよ、稲沢さんが汚れるだろ!」


 B子と俺の気を知らずにふざけたことを抜かすAの頭を平手でぶったたいた。

 お前本当大概にしておけよ。

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