二、この壺を壊してくれませんか?
「
どん、と思いの外強く押されたその軽い身体は、押した者から離され、そのまま地面に尻餅をつくように後ろに倒れた。咄嗟に目の前に立ち塞がったその白髪の青年の後ろ姿を、紫色の怪しい煙が覆っていく。
手を伸ばして名を呼ぼうとしたが、その次の瞬間、ぽん、という間の抜けた音が耳に届き、辺りを覆っていた紫色の煙が、どこからか吹き荒れた強い風で宙に散った。
「
慌てて立ち上がり、
風が完全に止むのとほぼ同時に、そんなふたりの前に、ゆらりと黒い影が舞い降りた。
こうなってしまう前、ふたりに何があったのかというと――――。
「触れると運が奪われる壺、ですか?」
白蛇姿で
(見るからに怪しいひとだな······、見た目で判断するのもあれだけど、)
と、その小さな青銀色のつぶらな眼を怪訝そうに細める。
「仙人様、どうか私を助けると思って、この壺を壊してくれませんか?」
「壊すなら、棒などでご自身で叩き割ればよいのでは? その壺を壊さずに何とかして欲しいわけでは、ないんですよね?」
もっともである。
うんうんと
「それができないから頼んでいるのです!」
「は、はあ······ではどうして、できないんです?」
「話を聞いてくださるのですね!」
五十代半ばくらいの背の低い男は、いつまでも道袍の袖を離してはくれず、本当か嘘か、涙目で必死にこちらに訴えかけてくるのだ。
店の片隅に置かれているその壺は、とても見事な白磁の壺で、店主の言うような呪物には思えない。両の手の平に乗るくらいの小さな壺で、特になにか悪い気を放っているわけでもなく、所謂、骨董品の高価な壺にしか見えない。
「この壺、粉々に壊して捨てようが、土に埋めようが、次の日には元通りになって、このいつもの場所に戻って来てしまうんです」
そんなことが本当にあるだろうか、と
遠回しに断っているつもりだったが、それでも必死に頼んでくる店主に同情心が生まれる。
そもそも、困っているひとをそのままにしておけない性格の自分に、どんなに怪しかろうとも、"断る"という選択肢など初めからなかったのだ。
「····わかりました。では本当に壊してもいいんですね? あとで元に戻して欲しいと言われても無理ですからね、」
「むしろただで差し上げますので、好きにしてください! その代わり、二度とこの店の前に戻って来ないようにしてくださると、約束してください!」
店主はひと月ほど、その壺の異様さに悩まされていたのだという。できることなら二度とその壺を見たくないのです! と全力で拒否していた。
その目の下にできた浅黒い部分が、このひと月余りの店主の苦悩を物語っているようだ。
「そういうことなら、私に任せてください!」
その
この二年間ほどで溜まった
余命はあと約三年しかないというに、
(まあ、九割こうなると思ってたけども····)
呆れるでもなく、それを引き受けたことにどこか安堵している自分も、だいぶ
そんな変化を嬉しく思いながらも、
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