二、君がくれる感情は、言葉は、いつも。 ※注
夢から覚めた時、自分の頬をつたう涙をそっと拭う指先があった。ぼんやりとする頭は、視界に映るものさえ曖昧にして、その行為を拒否するという選択肢すら思い付かないようだ。
あたたかいその身体に抱かれて、優しい指先に触れられている。完全に油断していた
「急に起き上がったら、危ないよ?」
「あ、あれ? 私、どうして········君、もしかして、なにか、してませんよね?」
昔の夢を見ていた気がする。すごく嫌な夢。でも、いつの間にか心地の良いものに変わって、気付けばあの黒い靄のような感情が晴れていた。
目を覚ました
起き上がろうとした時に止められてしまったため、今もその体勢のまま動けずにいた。彼の右腕が自分の肩の辺りを支えていて、左手は先程まで頬をつたう涙を拭ってくれていたが、今は
衣を握りしめたままの
「なにかしてない、とは言えないかな?」
言葉に詰まって、
「と、とりあえず、この体勢をどうにかしたいのですが······」
「俺はこのままでかまわないよ。地面は岩だらけで冷たいし固いから、ゆっくり眠れないでしょ? 倒れたんだから、休まないと」
もっともらしい理由で
涙の痕を見つめて、
「私は、きっと、疫病神なんです」
だから、ひとりでいるのが一番良いのだ。
この強運は、自分だけに齎されるため、周りの人間は逆に不幸になってしまう。
「それは、違うと思うけど?」
このたった数年の間に、たくさんの人々をその手で救ってきた。そこに小さいも大きいもないが、その誰もが最後は笑顔になっていた。
誰も不幸になんてなっていない。
それに、あの日、森の中で再会した時のことも。
そのきっかけも。
あれは自分の幸運と、
「あなたは、俺にとって光だよ」
その言葉を、初めて聞いた気がしなかった。
「私がどうして地仙のまま、地上に留まっているのか······訊かないんです?」
「前にも言ったけど、あなたが話したくなったら話してくれれば、それでいい」
本当は、もう、夢の中で見てしまった。あの悲惨な光景が、
優しい
それに天界に戻れば、その原因となった神に会うかもしれない。
天帝は
呪いを解くためとはいえ、天仙になって天界に昇ることは、
「
その言葉と表情に、
優しい言葉。優しい声音。その穏やかな笑みも。全部。
自分だけのものになればいいのに――――。
再び、左手で
まだ冷たいままのその頬は、
そんな感情を見透かすように、
「口付けすると思った?」
「からかわないでくださ········」
言い終わる前に塞がれた唇は、こうなることを求めていたかのように緩く開かれ、受け入れてしまっていた。
あの時のように貪るような激しいものではなく、優しく気遣いのあるそれに、
無意識に右手が
この感情を、なんというのだろう?
考えるだけで、胸の鼓動が速くなり、頭が痺れてくる。
君がくれる感情は、言葉は、いつも。
自分だけに向けられているのだと、知っている。
嘘偽りのない、その想いは、きっと――――。
ゆっくりと目を閉じた
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