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 適度に休憩したあと、僕たちは移動を再開させることにした。あまり長居をし過ぎると動くのが億劫になっちゃうからね。足の筋肉だって動きが悪くなる。


 だから僕は座っていた岩から立ち上がり、腕や足を軽く伸ばすなどしてから歩き出そうとする。


 その時――


「っ!? ……っ……」


 突然、目まいがして視界全体がグルグルと回った。それと一瞬だけど全身から力が抜けたようになって、危うく倒れてしまいそうになる。幸いなことに今はなんとか踏みとどまれたけど……。


 ただ、途端に全身から冷や汗が吹き出してくる。足が震えていて、立っているのがツライ。呼吸も苦しくなって、肩で息をするようになる。


 膝に手を当てて屈んでいないと苦しいというか、体重を支えていられない。




 はぁっ……はぁっ……っ……っは……はっ……。


 もしかしたら、かなり疲れが溜まっているのかな? おかしいな、でもほんの数秒前まで何ともなかったんだけどな……。


「どうした、アレス?」


 僕の異変に気付いたのか、ミューリエが駆け寄ってきて心配そうにこちらの顔を覗きこむ。


「あはは、少し……目まいがしてさ……っ……はぁはぁ……で、でも……はぁはぁ……だ、大丈夫だよ……」


「大丈夫なわけがなかろう! そんなに呼吸が乱れ、しかもその汗の量は尋常ではないぞ!」


「はぁ……はぁ……」


「ここ数日の疲労が一気に出たのかもな。済まぬ、気付いてやれなくて。もう少しペースを落として進むべきだった。まだ明るいが、今日は無理せずここで野宿をしよう」


 ミューリエは肩を貸してくれて、僕はその場にゆっくりと座った。おかげでわずかだけど体が楽になる。


 そんな僕たちの様子を見て、タックも慌てて駆け寄ってくる。


「なんだなんだ? どうしたんだ?」


「アレスは体調が優れないらしい。だから今日はもう移動をやめて、ここで野宿をしようと私は思っているのだが」


「そうだったのか……。アレスには思った以上に試練の疲労が溜まってたみたいだな。休憩したことで緊張の糸が緩んで、自分でも気付かなかった疲れが一気に吹き出してきたのかもしれねぇ」


「私は野宿の準備をするから貴様はアレスを診てやってくれ」


「おうっ、承知だっ」


 ミューリエは僕たちのところから離れ、焚き火や寝床作りの準備を始めた。


 一方、タックは僕の額や首、手足など全身の触診をしたり診察魔法――医療魔法の一種らしい――というものを使ったりして僕の体調を調べていく。


 エルフ族は風土や動植物に密着している種族だから、薬の知識や技術もあるんだろうな。ミューリエはそれが分かっているからタックに僕の診察を任せて、自分は野宿の準備をすることにしたのかもしれない。適材適所ってヤツだ。


 やがて診察を終えたタックは難しい顔をしながら首を傾げる。


「んー、原因は分からないが、肉体と精神に大きな負担がかかってるっぽいのは確かだな。こりゃ、回復魔法は効果が薄そうだ。食事をして薬を飲んで、しっかりと休息をするのがベストだと思うぞ」


「う……うん……」


 回復魔法が効きにくいなんて、僕の症状は思った以上に深刻だったみたいだ。そんな自覚はないけれど。


 僕も詳しくは知らないんだけど、回復魔法というのは魔法力によって自己治癒能力を高めて怪我や体調不良を癒すんだそうだ。つまりそれが効きにくいということは、僕の生命力事態が弱っているということになる。


 もちろん、高位の神官さんになると外部から生命力を分け与えて治療するというタイプの回復魔法も使えるらしいけど。


「おい、ミューリエ! オイラは薬の材料を森で調達してくる。しばらくアレスのことを頼む」


「分かった。だが、寝床が出来るまでもう少しだけ待っててくれ」


 ミューリエの返事を聞いて頷くタック。


 その後、完成した寝床で僕は休ませてもらい、それを見届けたタックは森の中へ消えたのだった。




 こうしてその日は街道の脇で野宿をして過ごすことになった。日没まではそのまま寝床で横になって休み、そのあとはミューリエが作ってくれた温かい鍋料理でお腹を満たす。そしてタックが作ってくれた薬を飲んでからは、いつの間にか眠ってしまっていたみたいだった。


 目を覚ました時には夜が明けていて、眩しいくらいの明るさ。頭上では小鳥たちが歌を奏でている。


「――調子はどうだ?」


「ミューリエ……」


 横を振り向くと、そこにはにこやかに微笑むミューリエの姿があった。清涼感のある香りのハーブティを淹れ、それを静かに啜っている。すでに朝食を終えているような感じだ。


 それに対してタックは少し離れた位置で何かの葉を石で磨り潰し、それを煎じている。もしかして僕の薬を作っているのかな?


 あ……。そういえば体がすごく楽だ。疲れもほとんどないし、体の奥から力が湧いてきている。筋肉痛はまだあちこちに残っているけど、歩けないほどじゃない。


「ミューリエ、ありがとう。休ませてもらったおかげですっかり体調が良くなったよ」


「そうか、それはなによりだ。では、すぐにアレスの朝食を用意してやろう」


 ミューリエは立ち上がると、夕食の鍋料理の残り汁を使って雑炊のようなものを作り始める。


 するとそれと入れ替わりにタックが歩み寄ってくる。


「起きたのか、アレス! 今、薬を煎じているから朝食のあとに飲んでおけよ」


「ありがとう、タック。昨晩の薬がよく効いたみたいだよ。今はすっかり元気になった」


「そうかそうか! でも病み上がりなんだから、無理は禁物だぞ」


「うんっ!」


 その後、朝食をとって薬を飲んでから、再び街道を進み始めた。今日は前を歩くミューリエがしっかりとペースの管理をしてくれていて、昨日よりもかなりゆっくり歩いていく。


 僕としてはもう少し早くても大丈夫だと思ったんだけど、あんなことがあった翌日だからその気持ちをグッと堪えないとね。無理しない中でもさらに慎重に。自分でも気付かない疲労がまだ残っているかもしれないから。



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https://kakuyomu.jp/works/16817330652935815684/episodes/16817330652938950467

 

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