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このままだとタックが可哀想だ。こうなったら僕の護符を渡して元気になってもらおう。
僕自身は護符がないことになっちゃうけど、きっとなんとかなるさ。いざとなったら戦わないで逃げればいいんだし。
僕はタックの肩をポンと叩き、優しい眼差しで彼を見つめる。
「タック、僕の護符をあげるよ。だから安心して」
「っ!? それはダメだッ! アレスが危険だっ! だったらオイラは護符なんていらねぇ!」
「でも……」
「いいんだ。アレスの気持ちだけ受け取っておく。ありがとなっ」
タックは指で頬を掻きながら、照れくさそうに微笑んだ。どうやら少しは元気を取り戻してくれたみたいだ。やっぱりタックには明るく朗らかな方が似合ってる。
まぁ、もしもの時は僕が全力で彼のサポートをするし、敵と戦う覚悟だってある。絶対に見捨てるもんか。だって僕たちは大切な仲間同士なんだから。
もちろん、それはタックだけじゃなくてミューリエに対してもだけどね。三人で助け合って旅を続けていきたい。
でもそんな僕の想いとは裏腹に、タックはミューリエの方を向いて舌を出す。
「ミューリエのバ~カ! 少しはアレスの優しさを見習えってんだ!」
「うるさい! それにアレスもやけにエルフの小僧の肩を持つのだな? 私は非常に不愉快だ。もうふたりで勝手にするが良い」
ミューリエはすっかり機嫌が悪くなり、ひとりで家を出て行ってしまった。その際に激しく閉められたドアは壊れんばかりの衝撃と悲鳴を上げ、その後に長い沈黙が流れる。
僕は頭の中が真っ白になって、しばらく呆然としてしまう。
「……っ! ま、待ってよ、ミューリエ!」
ようやく我に返った僕はこの場をタックに任せ、慌てて彼女の後を追いかけた。こんなことでパーティがバラバラになるなんて絶対にイヤだ!
息が切れるけど、足も疲労が溜まっていくけど、僕は夢中で走り続ける。もしここで彼女を見失ってしまったら、二度と会えなくなってしまうような予感がしたから。根拠なんてないけど、とにかくそんな予感が心の中を支配して消えなかったんだ。
幸いにもしばらくして前方に見えてくるミューリエの背中。それは少しずつだけど大きく見えるようになってくる。
「ミューリエ! ミューリエェーッ!」
ようやくミューリエに追いついた僕は、息を整えるのも忘れて必死に彼女に謝った。機嫌を直してほしいと懇願した。
いつの間にか僕は涙を流していて、乱れた呼吸も相まって嗚咽のようなものも漏らしていた。
そんな僕を見て、ミューリエは不意に小さく笑みを漏らす。
「ふふっ、泣き虫め。分かった分かった。アレスの涙に免じて機嫌を直す。それに私も少し大人げなかった。許せ」
「……う……うん……うんっ! てはは、なんか安心したら全身から力が抜けて動けなくなっちゃった」
「ははは、仕方のないヤツだ。肩を貸してやるから、宿までもう少しだけ頑張れ。エルフの小僧は放っておいてもそのうち勝手に戻ってくるだろう」
こうして僕はミューリエとともになんとか宿へと戻った。そしてアンデッド騒ぎに関しては、日を改めて臨むことにしたのだった。
NORMAL END 8-2
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