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僕の力がアンデッドに対して有効かどうか分からないし、事件に関わったとしてもきっとミューリエやタックに負担をかけてしまうだけ。それならここは無理に関わらず、先を急いだ方が得策かも。
――うん、そうだな。そうしよう。
「じゃ、すぐに旅立とうか? 久しぶりに宿のベッドで休みたかったけど、トラブルに巻き込まれるリスクを負うくらいなら先へ進んで野宿する方が無難だし」
「分かった。では、食材を買い込んだら出発するとしよう。エルフの小僧もそれで良いな?」
ミューリエがそう問いかけると、タックは静かに首を縦に振る。
こうして僕は先を急ぐ選択をし、レビー村を早々に立つことにした。早速、僕たちはラート共和国との国境方面の出入口に向かって村の中を歩いていく。
…………。
それにしても村の中はなんだか活気がない。歩いている人の姿は少なくて、しかもその顔は一様に沈んでいる。空気も重苦しいというか、淀んでいるような気がする。負のエネルギーに満ちているといった雰囲気だろうか。
それに通り過ぎた何件かの商店はドアが開いていたけど、いずれも営業中という雰囲気が感じられなかった。山あいにある小さな村という状況を考えたとしても、驚くくらいに静かだと思う。まるで時間が止まってしまっているかのようだ。
一応、僕たちが歩いているのは、シアの城下町方面とラート共和国の国境方面を結ぶメインストリートなんだけどね……。
しかも異質さを際立たせているのが、民家のドアや窓、壁などに貼付けられている護符のようなもの。見える範囲内にある全ての建物にそれがいくつも貼られている。きっとアンデッド除けの効果があるんだろうな。ひょっとすると事態はかなり深刻なのかもしれない。
…………。
……本当にこのまま通り過ぎてしまっていいのだろうか?
現状を目の当たりにしてみて、最初の決意が揺らぐ。心がモヤモヤとして気持ちが悪い。
「どうしたのだ、アレス?」
「えっ? ……あ……いや……」
不意にミューリエに声をかけられ、僕はアタフタしてしまった。自分だけの世界に入って深く考え込んでしまっていたらしい。
ダメだダメだ、少しは周りの状況にも意識を残しておかないと。こんなんじゃ、いざという時に判断が遅れる。余裕がなさ過ぎだ。
でもこれは簡単に決めていい選択じゃないような気がするのも確かだし、だからこそしっかり考えないといけない。
あぁ、複数のことが同時に出来たらいいのに。つくづく自分の不甲斐なさを痛感する。
「アレスよ、やはり村のことが気になるのか?」
「うん……。だけど僕には何も出来そうにないでしょ? それなのに関わっちゃってもいいのかなって」
「何を遠慮する必要がある? 私はアレスの選択に任せると言ったのだ。求められるならば協力だって惜しまない。それが仲間だろう?」
「オイラにもどんどん頼ってくれていいぜ~♪」
ポンと僕の肩を叩くミューリエとその横でクスクスと微笑んでいるタック。ふたりの温かな心が強く僕に伝わってくる。
嬉しくて僕は思わず泣きそうになってしまう。
「その代わり、逆の立場になった時はアレスが私を助けてくれ。良いな?」
「うんっ! もちろんだよっ!!」
僕は大きく首を縦に振りながら即答した。僕に出来ることなんて限られてるかもだけど、その時が来たなら全てをなげうって協力をする。絶対に!
あぁ……やっぱり仲間っていいな……。こんなに素敵な出会いを与えてくださった神様には感謝をしてもしきれない。
「それでアレスはどうしたいのだ?」
「僕、この村を放って先へ進みたくない。だって村の中にアンデッドが出るなんて、ただごとじゃないもん。困ってる人もたくさんいるだろうし。だから何かがしたい」
「そうか、分かった。ならば私もアレスのために力を貸そう」
「ありがとう、ミューリエ!」
僕はミューリエと視線を合わせ、手を握って感謝の気持ちを伝えた。そのあと、僕はタックに顔を向ける。
「タックはそれでいい?」
「もちろん! オイラもアレスに協力するぜ~☆」
「うんっ、タックもありがとう!」
そう言いながら微笑みかけると、タックは指で鼻のあたりを擦りながら照れくさそうにしている。
「よっしゃ、それじゃオイラは宿を確保してくる」
「僕は村長様に詳しい事情を聞いてくるよ。ミューリエは僕と一緒に来てくれる?」
「承知した!」
こうして僕はミューリエとともに村長様の家へ向かうことにした。
タックには宿で部屋を確保したあと、さらに情報を集めてもらうことをお願いする。
→125へ
https://kakuyomu.jp/works/16817330652935815684/episodes/16817330652939622608
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