第10話(3)潜入調査

「そ、そんな……」


 言葉を失う朱雀をよそに日光が話を続ける。


「貴様らが連中のことをどうしてそんなに恐れているのかが俺にはいまいち分からん」


「だって、超能力組だよ! 超能力者の集まりだよ⁉」


「落ち着け、玄武。貴様らしくもない」


「む……」


 日光が玄武を落ち着かせる。


「それくらいは俺も承知している。だからそれ以上の情報が欲しい」


「それ以上の情報?」


 白虎が首を傾げる。


「ああ、向こうのことを知れば知るほど、それだけ不安も少なくなるだろう?」


「なるほど……それが不安要素を取り除くことにつながるのですね」


 日光の言葉に青龍が頷く。


「そういうことだ」


「し、しかし、八角さんを潜入させるのは危険だ!」


 朱雀が声を上げる。日光が答える。


「所詮は学生のやることだ。たとえ捕まったとしてもまさか命までは取られまい」


「そ、それはそうかもしれないけれどね……」


 朱雀が再び黙る。


「花火ちゃんはそれで良いの?」


「任務には従うまでだ……」


 玄武の問いに花火は冷静に答える。


「任務ってよお……お前さんはいつから仁子の部下になったんだ?」


 頭をかきながら白虎が花火に尋ねる。花火は顔色を変えずに答える。


「……部下になった認識はない」


「は? どういうこったよ」


「この2年B組をより良いクラスにするために志を同じくする『同志』だと、拙者の中では認識している」


「ど、同志……⁉」


「そこまで言うのですね、八角さん……」


 花火の言葉に白虎は面食らい、青龍は半ば感心したように頷く。


「善は急げと言います。早速C組に接近したいと思います」


「そうか、気をつけてな、無茶はするなよ」


「はっ、失礼!」


 花火はその場から消える。朱雀が軽く頭を抱える。


「授業はきちんと受けた方が良いと思うのだけれどね……」


「……ふむ」


 広い敷地を持つ能研学園、ボロボロなB組の校舎とは反対側に位置する立派な造りの校舎群の中でもひと際立派な校舎がある。ここがC組、いわゆる『超能力組』の生徒が通う学び舎である。そこに花火は潜入した。もちろん、大手を振って正面から堂々と入っていったわけではない。天井裏などを伝って、各教室の様子を伺う。


(この校舎にはいくつかの使われていない教室がある……その内の一つが“奴”の根城だ)


 花火は空き教室を重点的に探してみることにした。校舎の造りは頭に入っている為、移動は容易いことだ。


(無茶はするなよ)


 花火の頭に先ほどの日光の言葉が頭をよぎる。かすかな笑みを浮かべるが、すぐにそれを打ち消す。ある程度の無茶をしなければ、有益な情報は得られないだろうからだ。


(……この先だな)


 花火は匍匐前進をしながら、天井裏を進む。目当ての教室まではあともう少しだ。


「……さて」


「つーかまえた♪」


「⁉」


 花火が驚く。明るい髪色をしたミディアムロングの女子が壁を半分すり抜けて、花火の忍び装束を掴んでいたからである。女子は笑いながら告げる。


「潜入調査が自分だけの専売特許だと思った?」


「ちっ!」


 花火は女子の手を強引に振り払うと、中腰の体勢になって走り出す。気配を逆に察知されるとはとんだ失態だ。とにかく今はこの場から逃れることだ。背後から女子の声がする。


「待ってよ~」


 そう言われて待つ馬鹿はいない。排気ダクトが見えた。あそこからなら外に出られる。細い穴だが、自分なら造作もなく通り抜けられる。花火は躊躇なく飛び込む。


「はっ!」


「ウエルカム~♪」


「なっ⁉」


 抜け出た先の地面に、大柄で筋骨隆々とした、カーリーヘアの褐色の女性が満面の笑みで待ち構えていた。このままだとマズい。地面に着地する前に、空中で方向転換を試みる。


「そうはさせないよ~」


「くっ⁉」


 ミディアムロングが花火の下半身をがっしりと掴む。これでは方向転換が出来ない。


「喰らえ!」


「がはっ……!」


 大柄な女性がバットのように振る木の枝を喰らい、花火の意識は飛んだ。


「……少々やりすぎではありませんか?」


「あーしは抑えていただけです。やったのはナオミでーす」


「ナッ⁉ ワ、ワタシのせいか⁉」


「……うっ……」


「あら、起きますね、案外タフなようで……」


「こ、ここは……?」


 花火が目を開くと、教室の中のようであった。両手両足が縛られ、床に転がされている。視線をキョロキョロと動かすと、先ほど相対したミディアムロングの女子とカーリーヘアの女子が左右からこちらを見下ろしている。


「……お前がこそこそ探していた場所に連れてきてやったぜ」


「‼」


 低く威圧感のある声が教室に響く。花火が声のした方に視線を向けると、短い金髪に顎髭を生やした男性が椅子にドカッと座っている。相当着崩してはいるが、ブレザーの制服姿から能研学園の生徒であることが分かる。男性が花火に尋ねる。


「俺が誰か分かるよな?」


「2年C組クラス長、織田桐天武おだぎりてんぶ……」


「天武“さま”でしょう……?」


 天武の傍らに立つ、黒髪ロングで蝶の髪飾りをつけた美人の女性がにっこりと微笑む。顔は笑っているが、声色は明らかに笑っていない。天武が笑う。


「美羽、そんなことはどうでもいい」


「これは失礼しました……」


 美羽が優雅に頭を下げる。天武が花火に視線を戻す。


「聞くまでもねえことだが、一応聞いておく……誰の差し金だ?」


「……」


「黙秘するか、まあ当然と言えば当然だが……お前もかわいそうにな」


「?」


「俺がお前のことを突き出しても、ヘタレなB組は知らんぷりを決め込むだろうからなあ」


「……!」


「お? 怒ったか? 恨むならヘタレを恨めよ」


「……同志のことを悪く言うな……!」


「はははっ! 同志ときたか。その同志は今頃震えているんじゃねえか?」


「生憎だが俺はバイブ機能など有していない……」


「!」


「なっ⁉」


 日光の登場に花火と天武が驚く。

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