ジェリアの戦場

「……来るぞ」


 避難民が第二講堂に入り始め、しばらくして。


 予想通り魔物が押し寄せてきた。ここに近い魔物発生ポイントは二ヶ所。それだけ魔物の数も多く、強力な魔物が多かった。


「戦闘準備! 避難が終わるまでここを死守せよ!」


 避難が終われば、結界と防御陣で避難所を堅固にし、部隊員の迎撃態勢を整えることができる。そこまで至れば、ボクが別動隊を率いて魔物発生ポイントを直接攻撃するのがその後予定された作戦。


 しかしそこに至るためには、まず今の防衛を完璧にやり遂げなければならない。


「先頭はボクが引き受ける。全員ボクに歩調を合わせるように!」


 もう一度魔物の群れを眺めた。


 まず、多い。塀を越えて、花園を踏みにじり、時には自分たち同士でも踏みしめながら近づいてくる数々の魔物。方向は一ヶ所だけだが、そちらをすき間なく詰めて押し寄せる様子は十分脅威的だった。


 しかし、恐怖はない。少なくともボクには。


 ――狂竜剣流〈竜の咆哮〉


 巨大な魔力砲が群れの先頭を吹き飛ばした。


 普通の獣なら、これだけでも機先制圧できただろう。しかし、魔物はまだこの程度では怖がらない。〈竜の咆哮〉で粉々になった奴らの破片を踏みにじって、新しい魔物が急速に押し寄せてきた。


 ――『冬天』専用技〈冬の回廊〉


 長くて巨大な氷壁を魔物を防ぐためではなく、通路を作るために形成した。


 避難所に魔物を来させないだけでは意味がない。避難はまだ終わっていないし、ここ以外にも他の避難所や防御ポイントが多いからな。ここで魔物の接近を阻んでも、行き場を失った奴らは他の所に向かうだけだ。


 ここの奴らをここで一匹も残さず殺すこと、それだけが唯一確実な防御策だ。


「殲滅せよ!」


 広いが一直線の通路にもう一度〈竜の咆哮〉を撃って道を開いた。その道を先頭に立って走り、剣と体に激しい魔力の嵐をまとった。


 ――狂竜剣流奥義〈竜王撃〉


 解放された嵐が数十頭の魔物を粉砕した。だが、〈竜王撃〉の真価は絶え間ない攻撃の流れ。自由自在に動く嵐がボクの突撃と剣撃を補助し、攻撃をするたびに十匹以上の魔物が粉々になった。しかし、ボク一人で全滅させるには純粋に頭数が多い。


 もちろん一人で全部引き受けるつもりはない。


「テニー、ラウル! 魔道具を起動せよ!」


 命令を出しながら、一度の跳躍で後方支援部隊まで後退した。ボクと一緒に前方を担当した彼らも全員退いた。直後、後方支援部隊が巨大な魔道具を起動させた。


 轟音と共に魔力を吐き出したのは、計五門の大砲。激しく振動し魔力が集束される間、魔物たちは怖がることなく〈冬の回廊〉を疾走した。しかし、奴らがボクたちの目の前までたどり着いた瞬間、五門の大砲が一斉に火を放った。


 轟音、そして閃光。


 特別な能力はない、ただ単純で強いだけの魔力砲だった。だからこそ火力だけにすべての魔力が集中したそれは、ボクの〈竜の咆哮〉よりもさらに強い威力で回廊内を一掃した。


「……凄まじい威力ですね」


 後方支援部隊を指揮していたテニーが畏敬の念を呟いた。


 テニーは戦闘員ではない。彼を助けているラウルも同じだ。しかし、二人は魔道具の扱いには一見識がある。そして後方支援部隊は直接的な戦闘よりも各種術式と魔道具で前方を支援するタイプであり、激しい戦闘の傍で人々の避難を誘導する役割も果たすことができる。だから参加したいと、二人が自ら志願していた。


「これが騎士団の砲撃兵器ですか。こんなことを支援してくれた永遠騎士団とケイン王子殿下に感謝します」


「非戦闘員の役割拡大と兵器活用を主張したのは君だったな、テニー。団長であるボクとしては君にも感謝すべきことだ」


 本来なら、一生徒が騎士団の兵器を貸与することは不可能だ。手続き的な問題も多いが、何よりも悪用と安全問題があるためだ。


 表面的に兵器貸与は王子であるケインが直接交渉し、テリアもオステノヴァ公爵令嬢として交渉に関与した。オステノヴァ公爵があの兵器の開発者であり供給者でもあるから。しかし兵器そのものの必要性や運用の信頼性、そして保険格措置をまとめてくれたのはテニーだった。


 後方支援部隊にはアカデミーの警備隊の中でも魔道具兵器に長けた者と共に、永遠騎士団から派遣された監督役もいる。彼らの参加をはじめ、具体的にどのように兵器を運用するかまでテニーがすべて企画した。ケインはそれを利用して騎士団と交渉を進め、最終的に兵器支援を承認された。


 率直に言ってケインとテリアが王侯貴族の権限で押し付けた感はあるが、それでもテニーの合理的な提案がなかったら通じなかっただろう。


「ですがこの兵器、威力は強いですが充電がかかりすぎます。連続では使えません」


「ボクも覚えてるぞ。予定通り兵器の充電時間中はボクと突撃隊が魔物を相手にする。そして充電が完了したら、できるだけ多くの魔物を引き込んで吹き飛ばせ」


「そして充電している間、後方支援部隊は突撃隊に強化をかけるか、支援射撃をします」


 計画を再確認して整備する間、次の魔物が押し寄せ始めた。


「ずっとこうなるといいのですが」


「簡単なのは初めてだけだ。すぐこんな単純な戦術では手に負えない奴も来るだろう」


 今押し寄せてくるのはまだ相手にしやすい奴らだけだが、ますます強い奴らが出てくるだろう。テリアの情報にもあったが、あえてそれを考えなくても時空亀裂による魔物大発生はそれが基本だ。


「もう一度行くぞ。まずは魔物たちの状態が変わるまでは今のまま進めよう」


「はいっ!」


 元気な返事を背にして、ボクは再び魔物たちの方へ突撃した。


―――――


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