契約
夜のアカデミーは静かだ。
王都タラス・メリアの夜景は華やかで美しい。魔力の灯火などを使えば夜も明るい光を得ることができるから。前世の都市が電灯で幻想的な夜景を見せてくれたように、この国でも夜景は一つの見どころだ。
でもアカデミーだけは例外だ。
アカデミーの本分は教育。夜間クラスとかもあるけど、その数は少ない。そのため、ほとんどの建物の灯火が消えており、夜間授業をする所や夜も仕事が終わっていない教授研究室のような所だけが灯火がついた程度。アカデミー敷地が前世の普通の大学敷地よりもはるかに大きいこともあるので、空から見ればまるできらびやかな王都の真ん中に巨大な黒い穴があいたように見える。
そんなアカデミーのある建物で、私は他の人たちを呼び集めた。
「珍しいな。人をこの時間に集めるのは」
話したのはジェリアだったけれど、ロベルとアルカも同意するかのように頷いた。
ジェリア、ジェフィス、アルカ、リディア、ロベル。それにケイン王子とガイムス先輩とシドまで。今までアカデミーで結んできた縁の中で、『バルセイ』と関連のある人々全員がこの場に集まった。
まだ日は過ぎていない。でもあえて昼間に集まった時じゃなく、この時間に再び集まった理由がある。
「秘密に話したいことがあってね。ひょっとして漏れてはいけないのよ」
――紫光技〈夜の支配者のカーテン〉
私が使える結界の中で一番セキュリティが高いものを。ケイン王子レベルの結界使いやガイムス先輩のような空間能力者が心から決心して破壊しようとしない以上、内部の光景と音を完全に遮断する結界だ。
私が展開した結界の性質を見て、集まった人々が各自驚きを表した。私はその驚きが収まる前に再び魔力を使った。
――紫光技特性模写『契約』
――『契約』専用技〈天の契約書〉
みんなの目の前に紫色の紙の形が現れた。魔力で作られただけだけど、本物の紙のように手に持って読める物だ。
みんなが〈天の契約書〉を読んでいくことを確認し、私は再び口を開いた。
「皆さんに先に言っておきます。これからのお話は〈天の契約書〉に同意して〝契約〟を結ぶ方にのみできます。もし〝契約〟の内容に同意しない場合は、今すぐ退室してください」
〝契約〟の内容は簡単だ。この場で私が提供するすべての情報を、どんなことがあっても無条件に秘匿すること。
『契約』の魔力は強力だ。一度同意して〝契約〟が締結されれば、両者の同意なしには決して撤回されない。特に今回の〈天の契約書〉の場合、本人の意志で口外することだけを防止するものではない。他人が魔力を使って記憶を覗いたり、頭の中を探ることさえ遮断する強力な奴だ。さらに、第三者が契約を破壊することもほとんど不可能だ。
率直に言って、高位の王侯貴族の子どもたちに差し出すだけの契約書ではない。当然難色を示す人もいる。
「この契約書、例外はないのですか?」
「ええ、絶対に」
ケイン王子は低いうめき声を上げた。
王子の場合、王国のためにも一人で動くことはできない。しかも彼が使うのは結局王子として国王陛下から〝借りた〟権限。すなわち陛下の代理者の資格で王子としての力を使う彼としては、国王陛下にさえ秘密を維持しなければならないことに難色を示すしかない。
逆に何の迷いもな〈天の契約書〉に署名した人もいた。
「今更のことだぞ」
ジェリアだった。すでに署名済みの〈天の契約書〉が光の粒子に変わって散らばっていた。私と彼女の胸にかすかな光が浮かんでから消えた。暖かい感じと共に、〝つながった〟という妙な実感が胸を満たした。
ジェリアはニヤリと笑って私を見た。
「なぜ急にこんなことを要求するのかは分からないが、どうせ君のやることだ。それだけの理由があるだろう」
「盲目すぎるんじゃない? 私が悪いことを考えているならどうするつもり?」
「君はそんな奴ではない。ボクの経験と勘がそう言っている」
ジェリアの笑顔が少し眩しかった。
……ゲームでは私のいない世界に生まれたかったとか、そんなことを言っていたのに。ジェリアのこのような姿を見ると、私が少しずつだけど未来を変えているというのが実感できる。
リディアとロベルも似たような反応だった。
「テリアだから。リディアにはそれで十分よ」
「お嬢様を補弼してきた時間は誰にも負けません。こんなことなんて、わざわざ必要でもないです」
二人の〈天の契約書〉もすでに光の粒子となって散った。私を見つめる笑顔には一寸の疑いも不安もなかった。
ジェフィスは少し困ったような笑みを浮かべていた。けれど、私と目が合うと照れくさそうに笑いながら〈天の契約書〉に署名した。
「知り合った時間は短いけど、姉君の判断と僕が見てきた姿を信じる。師匠は信じられる人なんだ」
残りはケイン王子、ガイムス先輩、シドの三人。
この三人は私も確信がない。攻略対象者の二人は今後のために必要で、ガイムス先輩もとても役に立つ人。だからこそこの場に呼び出したけれど、彼らに十分な信頼を与えたかは私にも分からない。特に相対的に近くなかったガイムス先輩と会ったばかりのシドはなおさらだ。
静かに笑っていたガイムス先輩が先に口を開いた。
「いったい何の話でこんな『契約』まで必要なのかい?」
「ごめんなさい。契約が成立するまでは言えません」
「ふうん」
ガイムス先輩はわざとためらうふりをしたけど、すぐにニッコリ笑って〈天の契約書〉に署名した。
「団長としてテリアさんを見てきた年月はずいぶん長かったからね。契約に隠された罠もないようだし、この程度ならいくらでもできる」
「ありがとうございます」
残りは二人。
その二人がどうするかはらはらしながら見守っていたところ……一人が口を開いた。
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