自分に対する考察

「ボクに勝った奴にそんなこと言われてもあまり感興がないんだが?」


「本当よ。もう〈竜王撃〉を覚えただけでも驚きなのに、しかも派生技まで一部でも習得したでしょ? それだけでもすごいことよ」


「それでも負けたんだがな」


 ジェリアはそう言ったけど、私は本気なのに。


〈竜王撃〉はそれ自体も強力な奥義だけど、その真価は斬撃の渦を自由自在に操って繰り広げる各種派生技だ。円熟すればあらゆる状況に対処できる万能技。けれど、派生技を身につけるためには格の違う制御能力が必要だ。普通は数多くの派生技の中で一部を習得するのにかかる時間だけでも数十年なのに。


 幸い、ジェリアも自覚はあった。


「まぁ、ボクも正直自分が〈竜王撃〉の境地にもう上がれるとは思わなかった。だが努力してみるとできたな。……それでも〈五行陣〉に至らなかった君に勝てなかったのはちょっとショックだったが」


「〈五行陣〉を知ってる?」


「天空流にとって〈竜王撃〉に似た奥義だろ? 見たことはないが知識では知っている。〈竜王撃〉よりずっと高位の境地だということは聞いたが……」


「それほど到達するのも難しいわよ。一生努力してもその近くにも行けない人がほとんどよ」


〈五行陣〉は到達しただけでもあのピエリと対等に戦うことができると自信できる境地だ。……残念ながらそれだけは無限の魔力という便法ではどうにもならないけれど。


「とにかく、もう少しで逆転されるかもしれないわね」


「心にもないお世辞は結構だぞ」


「本気なのに」


 嘘じゃないわよ。


 正直言って、ゲームの中ボスの才能に無限の魔力というチートまで重なった私を自力でこれだけ追いかけてきたということ自体がかなりショックだったから。ジェリアの才能と努力に心から敬意を表したい。


 もちろん〈竜王撃〉は容易じゃない境地であり、今のジェリアはそれを自由自在に扱うとは言えない。すべての派生技を自由自在に駆使できるレベルだったら、今の私も勝利を断言できないくらいだから。逆に言えば、ジェリアにもまださらに高く上がる余地が十分だという意味だ。


 ……それにしても、今は熱くなった体をもう少し動かしたいわね。そういえば最近森の結界の外に出たことがあまりないんだけど、久しぶりに一度暴れてみようかな。


「私は久しぶりに結界の外に出てみるつもりだけど、貴方も行く?」


「そうしたいが、リディアがかなり情熱的な目で見ているぞ。ボクはあちらを相手にする」


「わかったわ。じゃあ、後でね」


 私はその言葉だけを残して、周りのことをまともに気にせずすぐ屋敷から飛び出した。その直後、結界外の地に私の足が触れた。


 邪毒と魔物が私を飲み込もうとするかのように襲い掛かってきた。紫色の雷光がそのすべてを滅ぼし、続いて近づいてくる奴らまで荒らし始めた。私の口から豪快な笑いが沸き起こった。


「ハハハハ! 久しぶりわね! 早くかかって来なさい!!」


 ……ちょっと視線が感じられるけど、今は気にしない。




 ***




 ……間違いなく負けたのか。


 テリアにはショックとか何とか話したが、実は予想はしていた。


 純粋な剣術の手合わせでは勝ったこともかなり多かったが、魔力を動員した本気の模擬戦では一度も勝ったことがなかった。〈竜王撃〉と派生技の一部を身につけ自信がもう少しついたのは事実だったが、その程度では狭められないほどテリアとの差が大きいということも理解していた。


 ……そう思ったが、心の片隅には結果に失望するボクがいる。


 ボクの〈竜王撃〉を受け止めた魔力の球体。まるで本物の太陽を見るように、あまりにも巨大で燦然と輝いていた。それを見た瞬間、ボクの〈竜王撃〉があまりにも小さくて不格好に感じられたのがまだ生々しい。その瞬間ボクは敗北を直感した。


 テリアは強い。そして彼女に追いつく自分の姿をまだ想像できなかった。いつか必ず対等な力を手に入れると誓う自分と、それが可能かと疑う自分が共存している。


 つまらない嫉妬。でもこんな気持ちを感じさせるテリアを恨むかというと、全然。むしろ以前よりもさらに努力していることを自らも知るほど刺激を受けている。こんなモチベなんて、むしろ感謝しても足りないほどだ。


 そう思ってつい眼鏡をまた取り出そうとしたが、その直前にリディアがボクに近づいてきた。


「今日は終わり?」


「うん? ……ああ、そういえば君かなり意欲的な目で見ていたな?」


「ええ。リディアも久しぶりに思いっきり暴れてみたい」


「いいぞ。ところで他の奴らは? 何かよく知らない奴らを連れてきたようだが」


「その子たちはテリアを追いかけた」


 何をしに来た奴らなのか全然わからない。リディアが連れてきたのを見ると、何か悪い意図があるわけではなさそうだ。だが目的が何なのかはっきりしないから。


 リディアはボクの考えを推測したかのようにクスクス笑った。


「大したことないよ。貴方とテリアのことをもっと詳しく知りたいと言ったの」


 というのはやはり選挙関連か。偵察に来た奴らか、それともまだどちらに立つか決められない奴らかもしれない。


 どちらにしても、今彼らがテリアを追いかけたなら、ボクは何もしなくてもいい。そちらはテリアに任せるだけだ。


「よし、すぐに始めよう。準備はできたのか?」


「大丈夫? あんなに激しく戦ったのに、すぐに?」


「フッ、ボクが誰なのか忘れたか?」


 ボクはわざと挑発的な笑顔でリディアを刺激した。プライドを傷つける言葉と共に。


「そんな心配は一度でもボクに勝ってからやれ」


「……痛いところを突くね」


 リディアの顔にも好戦的な笑みが広がった。


 ……本当に、初めて編入した頃とは全く違う奴になったな。リディアをこうした人もテリアだと思うと、やはり彼女の能力に驚嘆してしまう。戦闘力や魔力の扱い方だけでなく、人間に対する面まですべて。


 ……遅れているわけにはいかない。すぐ追いかけてやるぞ、テリア。


―――――


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