勝利に向けて

 ち、やっぱり周りの被害を完全に抑えることはできないのかしら。


 これまで繰り返された魔力の爆発だけですでにこの区画は完全に平地になってしまった。それでも私の〈選別者〉に制圧されて倒れていた人々は少しでも動ける『隠された島の主人』の信奉者たちが移したようで幸いだ。せめてこれからの余波はこの区画だけで抑えたいんだけど……そんな余裕を見せられる相手じゃないわよ。


「はああっ!」


「おりゃぁ!」


 もう一度斬撃と槍撃を交わした直後、私はすぐ上に飛び上がった。そしてボロスの周辺空間を走り回りながら斬撃を浴びせた。


「なァんだ、今度はハエ戦略かよ?」


 ボロスは槍や拳で四方からの斬撃を防いだ。それだけでなく、私の移動経路を見つけて前に槍刃を突然突き出したりもした。私はそれを剣で打ち返したけど、その時を狙ってボロスが魔弾の弾幕を展開した。


「ふん!」


 ――天空流〈月光蔓延〉


 目の前を埋め尽くすほどの斬撃の乱舞が弾幕を圧倒した。けれどボロスはたった一度の振り回しで斬撃の乱舞を破壊した。


 ちょうどその瞬間、私はボロスの前の地面に着地して剣を振り回した。


 ――天空流〈三日月描き〉


 至近距離からの斬撃がボロスを襲った。ボロスは槍で魔力を爆発させて斬撃を相殺しようとしたけど、斬撃が逆に爆発を切って食い込んだ。瞬間横に下がったボロスの肩が浅く切られた。


 さらに推し進めようとしたけど、その時後方から多くの人の気配が感じられた。そして。


「お姉様!」


 私を呼ぶ声。アルカだった。それに他のみんなも一緒だった。私に仕事を指示されたロベル以外で。みんな私が戦っているのを見るやいなや武器を取り出して加勢しようとした。


 私は彼女たちを止めなかった。ただ魔力を高めてボロスを攻撃しただけ。そしてボロスも槍を振り回して私の攻撃を打ち返した。


 ただそれだけの衝突。けれど、その衝突で爆発した魔力だけで私を助けようとしたみんなが吹き飛ばされてしまった。


「きゃあ!」


「うお!?」


「くっ……!」


 どうせこの戦いの中で耐えられる人は私だけだ。


 けれど、ボロスはみんなが来たのを見てニヤリと笑った。


「おおっと、観客が増えたんだなぁ。沸き立ってるぜ」


 突然、ボロスの服から魔力が湧き出た。そこから流れ出た邪毒がボロスの体に浸透するのかと思ったら、ボロスの魔力が急激に増大した。


「頭数が劣勢だから道具に頼るの?」


「は、あんな奴らを相手にこんなこと使う必要はねぇんだよ。ただ……これを使えばとにかく気持ちがめっちゃいいぜ!!」


 そうでしょう。その道具は麻薬に酔ったような気分を感じさせてくれるから。


 微量の邪毒で所有者を強化する黒騎士の魔道具……だけど、実はあれは安息領が使う不法改造バージョンだ。安全のためのリミッターを解除して出力をさらに高めた代わりに、使用者を少しずつ邪毒に染めて中毒させる禁断の品。乱用すれば命さえ危険だ。ボロスくらいになると命が脅かされることはないけど。


 そしてボロスは力の優劣以前、ただあの魔道具を使う時の快感が好きだから乱用するタイプだ。


「もっと楽しくしてよぉ!!」


 ――ボロス式槍術〈精一杯突き〉


 叫び声と共に、ボロスは力いっぱいの突きを放った。すでに突きのレベルを超えて魔力砲になってしまった一撃だった。私はそれを魔力たっぷりの剣でぶん殴った。


「くっ……!」


 あまりにも強大な魔力。軌道をそらすのが限界だった。しかもあまりにも強い力に大きく押されてしまった。そうでなくてもめっちゃ強い奴が強化の魔道具まで使うから面倒ね……!


「もっともっと行くぜ!」


「来なくてもいいわよ!」


 ――天空流〈フレア〉


 ボロスが槍を振り回すより先に、閃光のような超高速斬撃で牽制した。ボロスの肩から血が飛んだ。


 しかし、ボロスは少しもためらわなかった。


「もっともっと暴れよぉ、おい!!」


 ボロスは私のところに駆けつけて槍を振り上げた。私もそれに対抗して剣を振り回した。お互いの攻撃がぶつかり、何度目かも知らない魔力爆発が起きた。


 正面の力比べに押されて姿勢が崩れたのは……私。


「うくっ!?」


「ハハハハ! そろそろ限界かぁ!?」


 ボロスは力をたっぷり集中し始めた。


 今用意しているのはおそらくボロス式槍術の奥義、〈三倍突き〉。ただ全力を尽くして突くだけの技だ。けれど、あまりにも強大な力が空間まで歪曲させる絶技だ。今の私は発動すれば防げないし、姿勢が崩れた今は発動前に阻止することもできない。ボロスはそれを狙ったのだ。


 、ね。


 ――紫光技特性模写、『鋼体』・『怪力』・『加速』・『増幅』・『切削』・『倍化』・『看破』・『万壊電』・『獄炎』九重複合


 たった一度も、誰にも見せたことのないを今解放した。


「なっ!?」


 ボロスは驚きで目を見開いた。私が今まで以上の速度でボロスの正面に現れたからだった。


 私は剣を振り回し、ボロスはまだ力が十分じゃない槍を急いで振り回した。大量の火薬が爆発したような轟音と衝撃波を散らしたまま、ボロスの槍が大きく弾き飛ばされた。さっきとは逆に今度はボロスの姿勢が崩れた。


 ボロスはいつ驚愕したのかというように笑い出した。


「クハハハ! すげぇな!」


 ボロスは私を押し出そうとするように体から魔力を噴出した。けれど私の剣を中心に展開された魔力場がその魔力を根こそぎ吸収した。


 ――天空流〈半月描き〉


 吸収した魔力が剣に集まって巨大な刃を形成した。私はそれをボロスに叩きつけた。ボロスは左拳に魔力を集めて迎撃を試みた。


 魔力と魔力が激突し、衝撃波の中で血が散った。


―――――


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