第三章 王子と友人
プロローグ 王子
……また夢だ。
ぼんやりとした意識の中で、茫然とそんな思いが浮かんだ。
見慣れない場所……かどうかはわからない。夢だからか、何か霧がかかったように風景がぼやけてよく見えない。
けれど……仁王立ちになっている二人の姿だけは、いやなほどとてもよく見えた。
「本当に呪わしい女だ。まるですべてを台無しにするために生まれたようだ」
背が高くてとてもハンサムな人が、そのハンサムな顔を精一杯歪めて言葉を吐いた。
いつも自信に満ちていた人。でもその自信を維持するために、すべてを徹底的に把握して計算しなきゃ満足できない皮肉な男だ。
そして彼の不快感歴然とした視線を受ける人は……私。
今の〝私〟より少し背が高くて、とても冷たい顔。微笑んではいるけれど、暖かさと優しさは爪の垢ほども感じられない。
ああ……覚えてる。これはゲームの回想シーンだ。
ゲームのストーリーが始まる前、攻略対象者全員に大きな傷を残した事件。その事件が終わった直後、攻略対象者の一人と私が交わした対話。
中ボスとしての私の運命が、この日決まった。
「あら、それは傷つく発言ですわね」
嘘。その冷たい嘲笑のどこに傷があるってこと?
男も同じ考えをしたらしく、顔がさらに大きな不快感に歪んだ。
「……虫酸が走る女め。こんな時さえ心にもないことを言うのか」
「そういう殿下は思ったより感情的な御方ですわね」
「何だと……!?」
「いつも冷静で理性的な判断が重要だと力説されていた分にしては、かなり激情的な発言のようでですわね」
「これは誰のせいだと思うのか!」
耳を差すような怒声だった。
しかし、私の態度は気持ち悪いほど平然としていた。
「そりゃ当然殿下とジェリアさんのせいですの」
「何だと!?」
「生徒たちを守るのは修練騎士団の義務でしょう。その役割をまともに遂行することもできなかったくせに、失策の責任を修練騎士団所属でもない私に押し付けようとするのですの? 本当に……良心がないですわね」
「貴様が邪魔をしたからだろうが!」
男は再び叫んだけど、私は気にしなかった。いや、むしろ嘲笑しかなかった目に新しい光が宿った。
それは――軽蔑。
「虫酸が走るわね」
「なっ……!?」
「生徒たちを糾合することもできず、きちんと守ることもできず、その隙を埋めようとしていた私の足まで引っ張って。今回の事態で修練騎士団が一体何をどれだけまともにしたんですの?」
……虚言。
修練騎士団が失策を犯したのは事実だけど、そもそもその原因を提供したのは私だったのに。
生徒たちを分裂させ、修練騎士団を弱体化させ、勝手にアカデミーを掌握しようとしたくせに。生徒たちが被害を受けることも気にせず、ただ目的を達成することだけが重要だったくせに。
罪を押し付けているのは修練騎士団ではなく貴方――私でしょ。
「そもそも貴様が修練騎士団を事あるごとに邪魔しなかったら……」
「修練騎士団に私より強い人は誰がいますの?」
「……は?」
「団長のジェリアさんも、副団長の殿下も、そして他の誰も……皆が私より弱いですわよ。そんな貴方たちを信じることができなくて私は自分なりに勢力を構築し、多くの生徒を救いました。今回のことも上手くいっていました。貴方たちの一員であるシド君が愚かな行動をしなかったら完璧だったのでしょう」
「うっ、それは……」
男の勢いが鈍った。私はさらに彼を縛りつけようとするかのように、ずる賢くしゃべった。
「シド君の失策がなかったら、予定通り私の友人たちが東の庭園に到着していたでしょう。そうだったら悲劇は起きなかったでしょう」
「それはそもそも貴様が東棟を爆破して道を塞いだからだ。それさえなかったら、我々修練騎士団が十分に耐えられた!」
「お話したと思いますけど。それは魔物がさらに多く流入するのを防ぐための措置だったと。人が足りないと不平を言っていた貴方たちがそれに耐えるって? 戯言を。そして私の友人たちがちゃんと到着さえしていたら、何の問題もありませんでした」
私は一歩前に踏み出した。すると男は表情を歪めながら後ろに下がった。まるで私から離れようとしているかのように。
私は口元だけを動かして彼をあざ笑った。
「私の友人たちが間に合わなかったのは、あくまでシド君の失策のせいですの。そして貴方たち修練騎士団は彼をまともに統制できませんでした。それでもそのすべてが私のせいだということですの?」
「そもそも貴様が生徒を分裂させなかったら修練騎士団が人手不足に苦しむことはなかった。そして貴様の部下たちは今回も修練騎士団を妨害……」
「私のやり方が気に入らなかったら、生徒をよく糾合すべきでしたわよ。それもまともにできなかったくせに修練騎士団の……いや、この国の王子と言えますの?」
「この……!」
本当に卑怯だ。
最初から修練騎士団の勢力を弱体化させようとあらゆる裏工作をしたのに。修練騎士団の能力が低下したのも、そしてそのように弱くなった修練騎士団をさらに妨害したのも私だったのに。そうしながら発生した結果の責任さえ修練騎士団に押し付ける。
あの嫌な様子が〝私〟の未来になるところだったなんて。あまりにも気持ち悪くて吐きそうだ。
「他に言うことがなければ、私はもう行きます。修練騎士団の無能さの後始末をしなければならないんですわ」
そんな言葉を残して、私は本当に去ってしまった。残された男は歯を食いしばったまま、私の後ろ姿を見つめていた。
私の姿が視界から消えた後、男は空を見上げた。彼の表情と同じくらい曇った空だった。彼の顔も空も、今にも泣いてしまいそうだったけれど……涙の代わりに感情を飲み込む息づかいだけが響くだけだった。
「……ジェフィス」
男の唇が詠んだのは、もういない友達の名前。
「すまない。君は私を信じていると言ったのに、いざ私の判断がとても足りなかった」
そういうことじゃないのに。
すべては私の罪だ。彼が罪悪感を持つ理由は全くない。
しかし、それを言葉で伝えることはできない。〝私〟はこの場に存在しない見物人にすぎないから。
「せめて……二度とこんなことがないように、もっと徹底するようになろう」
その誓いがどんな意味があるのか、どんな傷になるのか……多分男自身も知らないだろう。
そのため彼は――。
***
「お姉様、大丈夫ですか? 朝から顔色が悪いです」
「テリアお嬢様、ご不便なことがございましたらお声がけください」
「大丈夫。何でもないわ」
アルカとトリアの心配を適当に受け止め、鏡の中の自分の姿を見る。
――テリア・マイティ・オステノヴァ、十五歳
リディアがディオスを倒して三年が過ぎた。
この時点ですでに成人女性の平均身長を超えてしまったのもそうだし、幼い感じが消えてさらに鋭くなった目つきもそうだし、そろそろゲームの自分の姿に近づいていくのが実感できる。
まぁ……今にも窓の外に飛び降りたりするような憂鬱な表情は、特に外見のせいじゃないけどね。
「また悪夢をご覧になったのですか?」
「まぁ……そうなの」
ロベルの質問に頷いて、もう一度夢の内容を反芻してみる。
夢のシーンは確かにゲームの回想シーンだ。私の十六の時に起きる事件……つまりゲーム通りなら来年起きる事件直後の会話。
攻略対象者全員に大きな傷を残し、彼らが私を憎むきっかけになった事件。もちろん、今は人間関係的な面でゲームとは多くのことが違う。もしその事件が起きたとしても、同じ結果にはならないだろう。
もちろん百パーセント確実なものはないので安心することはできない。その意味では当初から事件が起きないようにするのが一番良いし、実際に今までそれを目標にしてきた。
しかし……突然夢でその場面を見た理由は一体何だろう。
夢に理由を探すのもバカなことだけど、前世とゲームに関連したことになるとどうしても不安になるの。リディアの時は編入直前だったからって納得できるけれど、今日夢から出てきたあの人は来年に来る予定なのに。
「もし体調が悪ければおっしゃってください。今日は大事な日ですからね」
「……? 大事な日?」
私は首をかしげた。
何だっけ? 今日は特別な日程があったっけ? 今年のアカデミー入学式が今日ではあるけど、特に私にとって重要な日だというほどではない。
ところが、私の反応を見たトリアはむしろ私の方が変だというように眉を集めた。しかもアルカのテンションもおかしかった。
「知らなかったんですか? 今日王子様が編入されるそうです! あの天才という第二王子様ですよ!」
「殿下との接点はこれまでにありませんでしたが、公爵家の令嬢として王子殿下との出会いは大切なことですからね。そして貴族のお嬢様としてだけではなく、騎士としても王子というコネは大切です。特に第二王子のケイン殿下は、現在最も継承の可能性が高いと言われている御方ですから」
アルカの言葉にロベルが補ってくれた。でも正直、私はそれを聞いている状況ではなかった。
え? 第二王子が編入するって? いや、そんなはずないけど?
今私は十五歳。今日夢から出た事件が起きるのが十六の時。そして第二王子はその事件が起きる年、すなわち来年編入する。
……そうすべきだったのに。
「本当に第二王子が?」
「はい! 今年の編入リストにもありましたよね!」
いや、これは一体どういうことなの?
アルカもゲームよりはるかに早く編入したけれど、この子はゲームよりはるかに関係が良くなった私についてきただけだ。第二王子が早く来る理由は見当がつかない。
まぁ、今考えてみても意味はない。直接会って調べるしかない。
……それにしても、いきなりケイン第二王子か。
私が今日見た夢に出てきた男。つまり彼もゲームの攻略対象者だ。他の攻略対象者も同じだけど、彼も非常に重要な攻略対象者だ。ロベルが言ったこととは違う意味で接点を作ることは重要ではある。
しかし……気になる部分が一つある。
……だってあの奴、前世の私が一番
―――――
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