第44話 不和の森2
「くっ!」
やはり、同時攻撃でないとダメか。ニーベル・トレントの体は切ってもすぐに再生する。
同じ属性の魔法なら五箇所同時に攻撃できたが、やはりそれでもダメだった。一箇所ずつ攻撃するのと同じですぐに再生してしまう。
一撃で全身を消し去っても、同じところに全身が復活するだけ。
これ、対処法を知らなければ倒せないと勘違いするだろうな。
やっぱ、別々の攻撃方法で五箇所か……。
俺は後ろを振り返った。
「……」
信頼度が足りていなければ、すでに同士討ちが始まっていてもおかしくはないのだが、そんなことは起きていない。
代わりにみんな少し前よりは落ち着き始めている。
克服したなら加勢してほしいのだが、どうしたのだろうか。
「うおっ」
なんて見ているとニーベル・トレントの枝に体を絡め取られてた。
こいつの攻撃はダメージが入るほどの強さはないから完全に油断していた。
「耐久力と厄介なスキルばかりのやつめ!」
悪態をつきながら枝を切り落とそうとするなり、目にも止まらぬ速さで枝が切られ、枝は即座に再生するが俺は解放され、お姫様抱っこの形でアカリに抱えられた。
続けて黒い球、ドラゴンの尻尾によるなぎ払いが続く。
それらは全て正確にニーベル・トレントへ当たり、森の奥へと吹き飛ばした。
「すまぬ。時間を取らせたな」
「ルミリアさん」
「お待たせ。でも、なんだかいつもより動ける気がするよ」
「デレアーデさん」
「確かに、不思議とみなを信頼できる。それに、体の一部だけを元に戻せるようになった」
「アカトカ」
「……」
「あ、アカリ?」
アカリは俺を抱きかかえたまま一言も話さない。えっと一人だけしゃべらないのは何かありそうで怖い。
やはり、主人公は俺に思うところがあるのだろうか。
どうしよう。このままナイフで刺されたら。
大丈夫だよね。アカリはそんな子じゃないよね。
「アカリ。下ろしていいぞ?」
「あ、あの師匠。私は大丈夫なので、このまま抱えていてもいいですかね?」
「何を言っておるのじゃ! ダメに決まってるじゃろう!」
「で、ですよね。すみません。ありがとうございました」
「いや、感謝するのは俺の方だろう。助けてもらったんだし」
「いえ、感謝なんてもったいないです。もう一生分の幸せをいただきましたから!」
叫びながら、アカリは俺を丁寧に下すと、顔を真っ赤にしたままそっぽを向いてしまった。
今の、なんだったんだ?
しかし、俺の体、重いだろうに重心をブラさずに支えていたのはすごいな。
まあやっぱり男を抱っこしても楽しいことないだろうしな、悪いことしたな。
「……師匠、いい匂いだった」
頬を叩いて戻ってきたアカリは、いつも通りに見えた。
しかし、みんなしっかりと克服できたみたいでよかった。
この霧は本来、能力を上げたうえで同士討ちを狙い、自滅させるためのもの。
ニーベル・トレント本体が弱いからこそ、魔王城周辺で生き残るためのスキル。
だが、信頼し合っている仲間は同士討ちせず、能力が上がる効果だけがこの霧を抜けてからも持続的に残る。
「あやつは怯んでおる。じゃが、ルカラ殿の攻撃でも倒せないとなると……」
「あいつの攻略方法はファイントの書に書いてありました。五箇所以上を別々の攻撃で同時に攻撃するんです」
「つまり、私たちが同時に攻撃すればいいんですね?」
「なるほど?」
「あたしには見える。頭、腕、足を全員で攻撃している姿が。できるよ。あたしたちなら」
全員、顔がスッキリしているように見える。
つきものが落ちたみたいだ。
俺は霧を克服した訳じゃないが、俺もやっと呪いから解放された気分だ。
「ルカラ殿。指示を」
「わかりました。ルミリアさん、デレアーデさんは腕となる枝を」
「わかったのじゃ」
「任せて」
「アカリ、アカトカは足と思われる根の部分」
「わかりました」
「確実に吹き飛ばす」
「俺は、顔の部分を狙う」
作戦は決まったが、俺は敵前にも関わらず、手を前に突き出していた。
不思議そうにするみんなも俺に合わせて手を出してくれる。
「行くぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
全員の声が合唱する。
かけ声のような文化はなかったみたいだが、俺たちは息を合わせて走り出す。
ニーベル・トレントは俺たちに気づいたようにあたふたし出したが、先ほどの攻撃のせいか動けていない。
好機!
この霧は厄介だが、克服できたならば恐るるに足らず! 今ならタイミングを合わせずとも同時に攻撃が当たる気がする。
「いっけえええええ!」
純粋な剣による顔への一閃。
そして同時、横に伸びた太い枝がセイクリッド・ソードとファントム・ソードによって切り落とされる。
さらに、根を突きで穿ち、ドラゴンの鉤爪によって引き裂いた。
体を五箇所同時に破壊したことで、ニーベル・トレントの体は崩れ、霧と共に消えた。
「やったのじゃ! ルカラ殿。これが恐れていたものじゃろう? できると言った通りじゃろう?」
「え、ルカラくん。こんなのを恐れてたの?」
「本当に師匠は心配性ですね」
「ああ。アカリも言っていただろう。私たちを信頼してくれ」
「本当だな。でも、ありがとう! 俺はみんなと一緒でよかった」
さあ、残るは魔王城。
俺にとっての最難関を超えた以上、大丈夫なはず。
しかし、霧が晴れると空が直接見えるんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます