第32話 試験開始

 ティア学園、入学試験が始まった。


 内容は獣使いと本契約したモンスターの協力によるターゲットの破壊。

 具体的には、並の戦士や魔法使いでは壊すことのできないような硬さを誇る立方体の破壊だ。

 今は順番待ち、各々が自分の番に備えて相棒と最終調整をしているようだ。


「とうとう、僕の番、か」


 そして、俺たちを煽ってきたやつが、やたらとコチラを見てくる。

 アカリに惚れたのか?

 いや、なんか今回は他でもなく俺を見てきている。もしかして俺か? うう、寒気が。

 なんか近づいてきた!


「お前ら、この僕とレッドドラゴンのコンビネーションを見て、吠え面かくなよ?」

「……え、あれがレッドドラゴン……?」


 ざわざわとし出す控え室。

 そしてニヤニヤする煽り男の取り巻き。


 不思議がるアカリ。

 まあ、当然の反応だろうな。

 でも、少し確認。


「なあ、少しいいか?」

「なんだ? ここは実力の世界だ。貴族様だろうが、実力がなければ落とされる。聖獣のような希少モンスターを連れているのがお前だけだと思うな」

「いや、そういう話じゃなくて。このアカリのアカトカはレッドドラゴンなんだが、お前のそいつはレッドドラゴンじゃなくてレッドワイバーンだろ? 名前がレッドドラゴンなら間違いじゃないんだが、そこのところどうなんだ?」

「……」


 もしかして本当に犬に猫とか、猫にライオンとか名前つけるタイプのやつか?

 なら、間違っていないんだが、ワイバーンが少しかわいそうな気がする。


「えーと、どうなんだ?」

「……」


 しばらく待ってみたが、何も言い返してこない。

 これは、わざとじゃなくて知らなかったパターンか?


「……あれ、レッドドラゴンじゃないのにレッドドラゴンって言ってたのか……?」


 赤くなってプルプルしている。近くにいる取り巻きみたいな奴らは動揺してるし、また別の意味で控え室がざわざわしている。

 これは、確かめないと、


「なあ、もしかして気づいてなかったのか? どうみても違うだろ。特に翼の部分が、ほら」


「ほ、本当だ! じゃあ、あれが本物のドラゴンなんですか……?」

「そうなんですか? 僕たちに嘘ついてたんですか?」

「なあ、気づいてなかったならしてきして悪かったよ」

「う、うるさい! 種族でなく試されているのは実力だ! 今に見てろよ!」


 逃げるように煽り男は走って控え室を出て行った。

 本当に知らなかったのか。


「師匠。あれは本当にワイバーンで、ドラゴンじゃないんですか?」


 落ち着いたところでアカリが聞いてきた。


「あれはワイバーンだよ。アカリも見ただろ? ワイバーンは翼に爪が生えたような見た目、ドラゴンはほら、アカトカみたいに翼と別で腕がある。まあ、個体によっては四つ足だったりするが、どちらにしろ違うだろ?」

「確かにそうですね」

「それに、あれはオスだな。ワイバーンのメスよりはおとなしいはずだ」

「へー。そうなんですね。勉強になります!」


 あれ? アカリなら気づいてると思ったが、いや、俺を立ててくれてるのか。

 本当にできた弟子だ。


「俺たちももうすぐだし、どんな感じか近くに見に行くか」

「そうしましょう!」


 さて、あれだけ言っていた煽り男、実際に見といてやるか。




「行け!」

「グルゥアァ!」


 レッドワイバーンによる翼撃、火炎弾。

 ターゲットは確実に崩れていた。


「悪くはないな」

「そうですね。よく育てられていると思います」


 動きも悪くない。口だけのことはある。


「まあ、余には敵わないがな?」

「それはそうですよ。期待してますよ?」

「えへへー」


 ルミリアさんの頭を撫でると、嬉しそうに表情を緩めた。

 こんなところで緊張されては困るからな。

 冷静になってきたみたいでよかった。


「そういえば、ルミリアさんから見てどうですか? 攻撃しているターゲットは」

「余裕じゃな。本気を出せば一撃じゃろう。じゃが、獣使いと協力がキモなのじゃろう?」

「そうですけど」


 じっとターゲットを見つめている。

 細工はなさそうだけど、何か気になるのだろうか。


「まあ、ルミリアさんが一撃で壊してしまうとなると、一番派手になりそうなのはアカトカっぽいな」

「ほう、言ってくれるなルカラ殿」

「アカトカですか? そんな、ルミリアさんには華があるじゃないですか」

「アカリもこう言っておるぞ?」

「確かにルミリアさんは綺麗だけど、ワイバーンの実力と見栄えでこの歓声。ターゲットを壊すだけにこんなに観客を入れているとなると、単にこの試験は実力を試しているわけじゃないんだろう。学園って言っても金は必要だからな」

「つまりは見栄えも評価になると」

「そう思います。なので、アカトカに分があるんじゃないかと」

「弟子にはもったいないお言葉です!」

「はは。頑張ってくれよ」

「はい」




 おっと、途中から話し込んでしまったが、会場が静かになっている。

 どうやら煽り男の試験が終わったようだ。

 息も絶え絶えで控え室へ続く通路まで戻ってきた。


「どうだ? 僕の実力に恐れおののいたか? それとも、ここにいるということは無謀にも僕に挑む覚悟があるということか?」


 肩で呼吸してる奴に言われてもな。っと、感想感想。


「そうだな。口だけのことはあると思った。正直、自信がある理由はわかった。けど、その程度だな」

「おいおい。どうしてそんなに偉そうなんだ? 僕より上である自信があると?」

「うーん。それはどうだろ。ま、試験だし一応勝負だ。やるだけやるだけさ」

「ほう?」

「そんなに気になるなら見ておくといい。アカリはきっとお前の常識を超えてくれる。行こう」

「はっ。自分じゃないなんてな。なら僕はゆっくりと見させてもらうことにするよ」

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