第30話 私と一緒に学園へ行きませんか?

「師匠。わ、私と一緒にティア学園へ学びに行きませんか?」

「が、学園!?」


 アカリがこんなことを言い出したのは少し前までさかのぼる。


 アカリがやってきてから数ヶ月ほど稽古をつけていたある日。俺はアカリと一対一で話がしたいと呼び出された。

 するとどうだろう。普段は、はつらつとしているアカリには珍しく、赤い顔でもじもじしながら、なかなか用件を言ってこなかった。


「師匠お話があります」


 と言ったきり、迷った様子でチラチラと俺を見ては目をそらすを繰り返していた。

 なんだろう。

「俺、何かしちゃったかな?」

 と笑いながら言うには空気が重く、俺は黙ってアカリが口を開くのを待っていた。

 不安な中、じっとあかりが話してくれるのを信じて。


 そして、言われた言葉が。


「師匠。わ、私と一緒にティア学園へ学びに行きませんか?」


 だった。


 俺も学園の存在自体は知っていた。しかし、行こうと思ったことはなかった。

 理由はツリーさんから直々に、


「ルカラ様は実力をつける目的ならティア学園へ行く必要ないないでしょう」


 と言われていたからだ。


「どうしてですか?」

 と聞けば、

「私が教えているからですよ。そもそも、習うより実戦を繰り返した方が、ルカラ様にはいいでしょう」

 と答えてくれた。

 しかし、

「あくまで、実力をつける目的なら必要ないということですけど」

 と付け加えていた。


 そうだ。他にもティア学園についてはツリーさんから何度か話を聞いたことがあった。


 ツリーさんはそこで教えたことがないこと。また行ったこともないこと。

 そのため、伝え聞く程度しか知らないということ。そして、俺には行く必要がない場所だと言うこと。

 しかし、学園があることや、できたこと。過去にはなかったことについてはやけに興奮しながら教えてくれた。


「師匠には必要ないかも知れませんが、もしかしたら師匠の学びになることもあるかもしれませんし、どうかと思って」

「うーん」


 俺が返事を返さないせいで、アカリは不安そうな表情を貼り付けたままだ。

 これはいかん。


 ひとまず整理しよう。


 そもそもルカラはもう中学生くらいの年齢だが、今まで学校ってどうしてたんだ?

 高速で頭を回転させ、ルカラの記憶を探る。


 アカリやユイシャのようないわゆる平民が行くような学校はないようだ。だが、貴族ともなると、存在しているらしい。


 それとは別で、戦士や魔法使い、獣使いといった、実力者の通う学校もあるようだ。

 しかし、どこも実力至上主義であり、入るためにも実力が求められる。

 そこには生まれの良し悪しは関係ないみたいだ。

 なるほど、俺もアカリも学校へ通うことはできるみたいだ。


 だが、ルカラはゲームでも学校へは通っていなかった。

 先生を呼び寄せていたように、家に教師を呼んで済ませていた。


 となると、アカリはどこで知ったのだろう。

 平民の出であるアカリは知ることもないだろう。なのに、知っているということは、もしかしたら覚えていないだけでゲーム序盤から学校について教えてもらえるようなことがあり、アカリも教えてもらったのかもしれない。

 くそう。この辺の記憶が曖昧だ。


「やはり、ダメ、ですか? 一人で行くとなると師匠と離れ離れになってしまう訳で、それは嫌なので……」

「うーん。うん?」

「あ、いや、これは、その、師匠に稽古をつけてもらえないのが嫌って意味で、離れ離れが寂しいとかってことではないですから!」

「う、うん」


 そんなにハッキリ否定しなくてもいいじゃないか。ちょっとショック。


 まあ返事が遅いのが悪いのだ。

 いやなに。僕は別に学園へ行くことに価値がないとか思っている訳じゃない。イベント的にも何か関係があったような気がしているのだ。だが、主人公は別に入学も卒業もしなくても問題なかったはずだ。

 それでも、何かの理由で学園は色々と出てきたような気もする。から気になっているのだ。

 それが何だったか、行けば思い出すか?

 やっぱり、学校関連でストーリーも大事なイベントがあった気がするし……。


「わかった。行こう」

「本当ですか!?」

「ああ。確かにアカリの言う通りかもしれないと思ってな。今までルミリアさんやデレアーデさん、ツリーさんから教えてもらっていたが、他の人からはなかった。魔物を倒すくらいしか実力を高める方法はないなんて思い上がっていたが、そんなことはない。学園なら、何か学びを得られるかもしれない。なら、行くべきだろう。そう思ってな」

「ありがとうございます!」


 こう言っておけば自然か。

 それに、ツリーさんも、実力をつける目的なら、行く必要はない。と少し気にかかる言い方をしていた。

 他の目的としてならば、行く理由があるように聞こえる。

 もしかしたら、言い方の問題ではなく本当に行く理由があるのかもしれない。


 俺は早速、ティア学園へ向かうための準備を始めることにした。

 そうと決まれば早くするに越したことはない。


「試験もあるよな」

「はい。内容はこんな感じみたいです。あと、場所はここに書いてある通りで」


 やけに詳しく書かれたメモ。

 対策。そして、日時。なるほど、実力がついて、日程も近づいてきたから教えてくれたのか。

 書かれている期日が事実ならもうすぐか。

 だが、この内容ならこれまで続けてきたことをやればいい。

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