第28話 ユイシャの嫉妬

 ユイシャがユイシャ以外の女の子? であるルミリアさんとデレアーデさんと接して、少しずつ慣らしてきたおかげでヤンデレモードは大丈夫そうだ。

 そんな風に思っていたが、


「明日一人で来てくれない?」


 とユイシャから呼び出された。


「どうかした?」

「明日話す」


 結局、昨日は内容を教えてもらえなかった。


「抜けられた?」

「正直に頼んで出てきた」


 しかし、どうなることかと思ったがユイシャは冷静だった。

 アカリがやってきた時はどうなるかと思ったがほっとしている。


「それで、どうして俺を一人で呼び出したんだ?」

「ルカラ。今日は一対一でわたしだけに教えて。アカリは旅の疲れもあるだろうしさ」

「どうしてさ。アカリは今日からでも大丈夫だって」

「お願い。休ませてあげて!」


 うーん。まあ、確かに無理に疲れてるところに教えても学びが身につく訳でもないしな。

 そこはユイシャの言う通りか。

 でも、一対一で?


「そろそろユイシャも俺に気を使わず、ルミリアさんやデレアーデさんから剣や魔法を学んでもいいんだぞ? 俺はどちらかと言えば自分のために教えている。だから、それぞれ得意なものを得意な方から教えてもらった方がいい」


 その方が、結局俺の安全にもつながりそうだし。


「獣使いについてはこれ以上教えるとなると実践だしさ。結局、剣や魔法なんだと思う」

「ルカラいつだか言ったよね。昔のように接してくれって」

「うん?」

「わがまま言わせて」

「うん」


 暴走してないのに前置きしてわがままを言うなんて怖いな。


「ルカラ、急に周りに女の子が増えた。ルミリアちゃんとかデレアーデちゃんとか連れてきて、今ではアカリまで弟子。しかもみんなお泊まりでしょ? もっとわたしを見てよ!」

「……っ!」


 そうだな。ユイシャはヤンデレなんかではなく、単に寂しかったんだな。いつも遊んでいた友だちが他の子に取られたようで。

 しかも最近は、特訓ばかりで遊んでいなかったし……。


 そういや、俺もアカリに対する練習メニューは考えてなかった。こういうのは別のことしている時の方が案外思いつくものだしな。


「わかった。いいよ。今日はユイシャと俺の二人だけだ」

「本当に!?」

「ああ」

「やったー!」


 それに、魔法、人の使う五属性は俺も独学のせいか他のことより遅れている。

 ユイシャと試行錯誤できるのは楽しみだ。

 いや、その前に、


「それで、ユイシャは俺に何を教えてほしいんだ?」

「内容はいつものでもいいんだ。ただ」

「ただ?」

「いつもよりもっと厳しく教えて?」


 ねだるようにユイシャはそう言ってきた。

 うーん。たまに、ルミリアさんもそんな時あったしな。


「それじゃ、ビシバシいくぞ?」

「うん!」




 さて、と言ったもののどうしたものか。

 まずは剣技から。


「ユイシャはまず持ったまま動き続けることに慣れろ」

「こう?」

「ダメだダメだ。遅い! そんなんじゃもっと強力な魔物が攻めてきた時、親を守れないぞ! むざむざ殺したいのか?」

「ううん! でも、いいよ! ルカラ」


 えーと……。次は魔法。

 人の使える五属性。火、水、風、雷、氷。


「これは、さすがに、俺もイマイチだからなー」

「ルカラ!」

「あ、えーと。今は手のひらに意識を集中させろ。一瞬たりとも意識をそらすな!」


 そして、聖属性と魔属性。


「俺と同じく一応聖属性、魔属性どちらも使えるようだが、火や水なんかより遅すぎる」

「でも、一呼吸置かないと使えなくて。えい!」

「違う、そうじゃない! もっと速く魔力を体に巡らせるイメージで発動しないとだ!」

「なるほど。ああ、いい!」


 うーんと、最後は獣使い。


「獣使いに関してはツリーさんから教えてもらって基礎的なことはマスターしているんだ。あとはどうやって実戦に生かしていくか。それだけだ」

「でも、ルカラみたいには」

「反復が足りないんだ反復が! こうだ! 『ハビット・ジェイル』!」

「ああ! すごくいい! こ、このまま続けて!」


 いや、何を……? 動けない状態で何を続けろと……。


 というかやってしまった感がすごい。


 俺、今日完全に【シックザール・モンスター】のルカラになってた。いや、ルカラなんだけど、ユイシャへの当たりがルカラのものを再現していた気がする。

 これ、何もよくないだろう。さすがにここまで、ルミリアさんもやってない。

 ルミリアさんの厳しさは、笑いながら急所ばかり狙ってくるとかそういうことだった。


 でも、ユイシャには今日のやり方が合っていたのか、今日一日で確実に剣術も魔法も上達した。今は俺に動きを封じられほほを赤く染めているが。

 才能はないはずなのに中級まで魔法を扱えるのは本来あり得ないらしい。

 すげぇ。

 まあ、俺が人へ教える才能もあるかららしいが……。


「なあ、ユイシャ」

「ああ! わたしはこうして抗えず、ルカラの好きなように……」

「ユイシャ」

「な、なに? ルカラはずっとこうしててくれるの?」


 うーん。難しい質問で先手を打たれた……。


「ずっとはきついな」


 このままだと俺の人格が元のルカラのものに上書きされそうだし。


「え……」

「でも、時々ならな。ユイシャもその方が身につくみたいだし」

「そう! ルカラに強く当たられるといろんなことを早く覚えられるの! 時々でいいからお願いね」

「おう」


 これは完全にルカラのせいですね。

 アカリにはしないように気をつけよう。

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