第26話 VS本来の主人公 アカリ

「私は準備万端です! いつでもいいですよ!」

「グワウゥ!」


 俺は気づけばアカリたちと戦うことになっていた。

 いや、いやいやいや、待て待て待て。

 これ、あれか! 本当にルカラが闇へまっしぐらな敗北イベントか? そうなのか!?

 ルカラのメンバーは違うが、主人公であるアカリ対ルカラの初戦ってことはそういうことだよな?


「ルミリアさん」

「力を見せてやるのじゃ」

「デレアーデさん」

「ルカラくん、応援してるよ!」

「ユイシャ」

「ルカラなら余裕でしょ?」


 ダメだ。逃げ場なし。

 相手はアカリとレッドドラゴン。


「私、アカリと、この子はアカトカ。アカアカコンビです。よろしくお願いします!」

「ヴォウ!」


 アカリの方はアカトカ含めやる気満々。

 やるっきゃない。


「わかったやろう」

「ありがとうございます!」

「そうだな。今回はジロー」

「にゃ?」


 ジローは自分が選ばれると思っていなかったのか意外そうな鳴き声を漏らした。


「わわん!」


 我こそはと思っていたのだろう。タロは抗議の声を浴びせてくる。


「ごめんな。タロ、今回は見ててくれ」

「クゥ……」


 残念そうに頭を下げる。明らかにがっかりしている。

 感情豊かでかわいらしいが、ちょっとかわいそうなことしたか?


「にゃにゃ!」


 ジローの方は自慢げだ。任せろと言っているのだろう。


 まあ、あんまり誰かとのコンビネーションばかりだといざという時に困るからな。

 それに、タロとジローと俺で三対二はかわいそうだ。


 実力的には、本来十五で旅を始めるところをもう始めていて、しかもアカトカは一段進化までしている。

 おそらく大丈夫だろうが、警戒は必要。


 一応、どうして旅をしているのか聞いたら、


「近頃、魔王の侵攻が激しいので、いち早く戦力になりたくて」


 とのこと。

 真面目である。


 主人公からは直接殺されることはないはずだし、ルミリアさん、デレアーデさんの前で恥はかけない。

 つまり、やりすぎず、やられすぎないバランスが必要な戦い。

 これがおそらく運命の力。出会うことからは避けられなかった。


「魔獣の方なんですね?」

「ああ。ジローの実力は本物だ。かかってこい!」

「はい! いくよ、アカトカ!」

「グオウ!」


 俺の声を合図に、アカリとアカトカは俺たちに向かってきた。


 うん。大丈夫そうだ。

 やはりレベル差が大きい。

 俺たちの練習相手はルミリアさんやデレアーデさん。そして、ここ最近は上位の魔物と戦っていたこともあり、アカリたちの動きが止まって見える。

 全力を出したらやりすぎちゃうし、主人公には魔王を倒すという重要な仕事がある。

 自信はなくされても困るし。


「ジロー。アカトカは任せた。力を引き出してやれ」

「にゃ!」

「力を引き出すなんてずいぶんと余裕ですね!」


 ジローがアカトカの相手をしている中、俺の方へ繰り出されるアカリの突き。

 体術。なるほど。やけに身軽と思ったが、そういうことか。

 まあ、杖を鈍器にするってのもあったんだろうが、置いているし、多分俺との手合わせをしたかったというのは本気だろう。

 だが、あいにく俺はルミリアさんの超人的拳法をくらっているのだ。


「くっ。あと少しなのに全然届かない」

「どうしたどうした?」


 攻撃はくらわない。そして、ギリギリで回避してやることで、反省点を浮き彫りにさせる。

 ルミリアさんやツリーさんにされたように相手が気づけるほんの少しのスキを残しつつ。攻撃を的確に潰す。


「あはっ。あははっ!」


 いい! いいぞ! さすがアカリ。さすがこのゲームの主人公。

 しっかりスキをついてくる。そして、俺のカウンターも優しく入れてやるとしっかり受け流している。

 飲み込みが早い。

 アカトカの方もジローにくらいつき、あと少しの攻防を演じてくれている。


「よそ見ですかっ? スキあり! え?」

「悪いな」


 ちょっとした油断もしっかりと対応。さすがだ。

 だが、今の俺は見ていなくとも相手の動きを把握できる。

 これもデレアーデさんのおかげ。


「はあっはあっはあ……」

「グルウゥ……」

「強い。すごい。これが魔獣とその獣使い」


 そうなの?


「まだやるか?」

「はい!」

「その意気やよし! だが、その状態じゃあ、とてもじゃないがこれ以上続けるのは不可能だろう?」

「ですが」

「ここまで頑張ったご褒美だ。俺のとっておきを見せてやる。ジロー、いけるか?」

「にゃあ!」


 大丈夫と。

 アカリの実力はだいたいわかった。これ以上は必要ない。


 だが、この主人公を高めるきっかけになるためにもできる限り高みを見せる! 絶望しない程度に希望を与えて、自分にもできると錯覚させる。

 数年後、魔王を倒す存在になってもらうため。彼女ならきっとルカラのいないストーリーなぞっても魔王を倒してくれるはず。

 俺は負けなかった。ここで主人公に執心することはない。が、主人公の歩みを止める訳にはいかない。

 ルカラと違い、アカリは正しく上を目指せる。


「『ダークネス・ボール』! 『オーラ・エンチャント』!」

「ふぇ」


 俺はアカリとアカトカの顔、そのすぐ横に漆黒の球を放った。球は高速で通過し、遠くまで飛び、やがて見えなくなった。

 驚いたのか、あかりもアカトカもその場にぺたんと座り込んだ。


「これがルカラさんの本物の実力……?」


 やべー。心を折るつもりじゃなかったんだけど、あの反応は絶望した?

 アカリはゆっくりと立ち上がると無言で歩いてくる。


「あの!」

「はい」

「あの、どうか私たちを弟子にしてください!」

「え……、え?」

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