第16話 剣術一年、次は

 得意なことを教えたり、好きなことを話したりしている時は陰キャコミュ障ぼっちの俺でも思わず饒舌になってしまう。

 それはルミリアさんも同じらしく、俺と剣を交えている時は子どものような見た目に似合う心から楽しそうな笑顔を見せてくれる。

 俺もルミリアさんから教えてもらったことで剣にも慣れてきた。


 今日で、ルミリアさんから剣を教わり始めて一年。

 気づけば今まで見たこともない動きを取り入れた剣術を教えてもらっていた。聖獣に伝わる剣術らしく初めは困惑したが、今となっては日常だ。


「体が保つとは思っていなかったが、ルカラにはこれくらいでちょうどよかったな」

 は?

「そんなにきつい内容だったんですか?」

「そうじゃよ?」


 時に森で、時に丘で練習した剣術。

 一年間、少しおかしいなと思いながら続けていたが、できてしまったルカラの体が恐ろしい。

 相変わらず才能の塊みたいだ。

 まあ、そのおかげで剣の実力は、大人の人間から身を守れる程度にはついてきた。


 そろそろデレアーデさんにも媚びたい。護身術として剣術を身についてきたからこそ、今度は魔法の先生が欲しいのだ。

 なぜデレアーデさんと魔法なのか、それは以前、タロやジローに関して聞いたことがあった。

 タロやジローに関しては、屋敷の者にバレているが、問題は起きていない。このことを素直にどういうことだろうと聞いてみたのだ。

 そしたらデレアーデさんが、

「あたしが認識を誤魔化してるからだよ」

 と教えてくれたのだ。

 ゲームでも魔獣を仲間にしてからは魔獣の魔法で姿を隠すことができた。納得のいく話だ。


 しかし、タロに関してはデレアーデさんと知り合う前から屋敷に来てたことを思うと、ツリーさんあたりが気を回してくれたのだろう。師匠ありがとうございます。


 さて、そんな訳で優秀な魔法使いとしてデレアーデさんに師匠になって欲しいのだ。

 それに今日は都合よく、森の外にも関わらずデレアーデさんが来ていた。

 来ていた?

 やばいじゃん。


 ルミリアさんやデレアーデさんが聖獣、魔獣の人間態ということは俺しか知らない。

 だが、それは人間への擬態が完璧だからだ。

 今は別の問題がある。全裸で森の外に出る訳には行かないだろう。


「やっほー。ルカラくん」

「デレアーデさん。その、えっと。あれ、その服」

「き、気づいてくれた?」


 少し声を震わせながら、デレアーデさんは尋ねてくる。

 デレアーデさんは服を着ていた。


 俺が冷えるだろうと言って渡した服を改造して、デレアーデさんでも着れるようにしたらしい。色々隠すべきところがしっかり隠せるサイズにしてくれたみたいだ。が、俺が着ていた服をデレアーデさんが着ていることに、何だか変な感じがする。

 今度は別の理由で目線をそらしてしまう。


「どう、かな?」

「え、えーと」

 落ち着け、俺。

 ここはしっかりと伝えておかないと、後に関わる。

「似合ってると思いますよ。僕の服、着てくれていてありがたいです」


「……」


 え、無言? なんかデレアーデさん真っ赤だ。ダメだった?


「ふふ。ありがと」


 少し間をおいて感謝はされたものの振り返ってしまった。

 喜んでくれた、のか? それなら、よ、よしとしよう。


 ミスを誤魔化すためにもここで布石を打っておこう。

 一年かけて俺の服を改造してくれたのだし。慣れない服を着てくれているのだし。俺への気持ちがまだ悪くないうちに。


「あの、デレアーデさん」

「な、なに?」

「デレアーデさんは剣よりも魔法が得意だとルミリアさんから聞きました。俺に、魔法を教えてくれませんか?」

「え、ルカラくん。これだけ獣使いや剣術の才能があるのに、魔法使いの才能もあるの?」

「あるみたいです」

「ちょ、ちょっと待ってね? どれどれー?」

 なんだか、体中触られながらジロジロ見られている。

「ほほーう? これはなかなか」


 教会でのお告げはこんな感じではないはずなのだが、これはデレアーデさんの特性なのか?

 それにしてもじっくり見られてるからなのか、なんだかすごくくすぐったい。


「うん。すさまじいね。獣使いや剣術に適した才能だけじゃなく、魔法、その他、全てと言ってもいいくらいの才能。寿命に限りのある人間に生まれたことが不運だと言えるほどになんでもできそう。でも、魔法ね……」

「ダメですか?」

「ううん! ダメじゃないよ。全然ダメじゃないんだけど」


 何かを迷うように腕を組んで考えるデレアーデさん。胸を突き出さないでください。


「おい。休憩を終わりにして練習を再開したいのじゃが、どうしたのじゃ」

「あ、ルミリアさん。あのですね? ルカラくんが魔法を使いたいと言っていて」

「ほう。確かに魔法に関しては余よりもデレアーデの方が適任じゃな。しかし、余やデレアーデの使う魔法は聖属性や魔属性。人間が一般的な素質として備えている五属性とは全く違うものゆえに、種族固有のものとして伝承されてきている。あいにく人間の魔法となると余はてんで知らん。そういうことなら役に立てぬ。すまんな」

「いえ、あたしも人間の魔法は使えないですよ」

「そうだったんですね……」


 なるほど、通りで聖獣、魔獣は魔法がオリジナルだったわけだ。

 そして、主人公たちとは全く違った。

 となると、俺は別で魔法の師匠を探さないとダメか。

 デレアーデさんにはどう媚びよう。


「でもルミリアさん。人に聖属性、魔属性の魔法が使えないという話は、これまで現れた人間に才能が足りなかったから、ですよね?」

「使われていないということから考えればそうなるかの」

「なら、ルカラくんならできるかもしれないってことですよね。少しやり方を考えてみます。ルカラくん。あたし頑張って考えるから、その間待っててもらえるかな?」

「もちろんです。できるかもしれないならいつまでも待ちますよ。ありがとうございます」

「ふふ。任せてね」


 どうやら、やってくれるらしい。よかった。

 これで、魔法の師匠を探さなくていいし、デレアーデさんにも得意なことで頼れる。


「して、ルカラ。魔法の才能を隠していたこと。剣術、獣使い以外の才能を隠していたこともそうじゃが、そなた、剣術においても余に隠していることがあるな?」

「え、ええっと……」

「余はいつも、そなたの見えない余力が気になっておるのじゃがな?」


 おそらく、ルカラのユニークスキルのことなのだろうが、どうしてバレた!?

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