第13話 帰ってこない魔獣の子:魔獣の長視点
「はあーあ……」
うちの若い子が飛び出して行ったきり帰ってこない。
ずっと同じ場所にいると退屈なのはわかるけど、外の世界は危ない。
あたしたち魔獣は人間に嫌われている。もし、大人の人間に出会ったら殺されちゃうかもしれない。
あの子、うちじゃまだまだ若いし。
「はあーあ……」
「心配か? デレアーデよ」
「そりゃそーですよー。ルミリアさん。そりゃもー心配ですよー。人に見つかってたらって思うと、はあ……」
落ち着かないあたしの話を聞いてくれるのはルミリアさん。
理由は違うけど、人間に住む場所を追われた種族同士、ひっそりと同じ森で暮らしている。
聖獣の方が先にいたので、ルミリアさんたちはあたしたち魔獣の先輩だ。
こうして話しているのを見たとしたら人間は驚くだろう。
人の間では聖獣の清らかな見た目と魔獣の暗い見た目を比較して、勝手に仲が悪いと言いふらされているが、あたしたちの中は全く悪くない。
ルミリアさんも最初はとっつきにくい方かと思ったけど、今ではすっかりあたしのいいお姉さんだ。
「大丈夫ですかね?」
「大丈夫じゃろう。そもそも、人間にもいい人間もいるからな」
「ルミリアさん!?」
ルミリアさんは他の聖獣、いや、誰よりも人嫌いだったはず……。
少なくとも、力をつけるためには関わることも仕方ないかもしれない。そんな考え方だったはずだ。
なのに、どうしてこんなことを……?
「何、余も知見が狭かっただけじゃ」
「ルミリアさんでもですか?」
「そうじゃ」
でも、人間の方が寿命は短いし、人間から気づけることなんてあるのかな?
少し落ち着いてきたあたしにはようやく足音が聞こえてきた。
もしかしたら、ルミリアさんは最初から聞こえていたのかもしれない。
うちの子は無事だとわかってたんだ。
「デレアーデ様! デレアーデ様!」
「よかった無事だったのね!」
若い子は勢いよく飛び上がるとあたしの胸に飛び込んできた。
どうやら、殺されずに済んだみたいだ。
でも、なんだか焦ってるみたいに走ってきた。
抱きしめて顔を確認する。うん。飛び出して行った子で間違いない。
この感じだと、なんとか逃げ切れたってことみたいだけど、それにしては元気。うん。嬉しそう。どうして? 追いかけっこだと思ってたのかな?
「どうしたの? 何かあったの?」
「デレアーデ様! 人間に助けられました!」
「人間に!?」
「ほらな? ここらには面白い人間もいるのじゃ」
なんだか自慢げに、そして知っていたかのようにルミリアさんは言っている。
うーん。どうしてだろう。
それに、
「なんだか毛並みがよくなってない? つやもあるし……」
手入れを欠かさないあたしより綺麗なんじゃないかしら? しかもこれは、あたしより若いからじゃない。ここを出た時より見るからによくなってるもの。
「どうやらタロを直してくれた時よりも格段に成長しているようじゃな。やはり、ルカラは優秀じゃ、いや」
「あの方はルカラ様とおっしゃるのですね!」
「ああ。間違いない。少年じゃろう?」
「はい! 急に襲ってきた三人の男児を、どこからともなく取り出した丸太で追い払ってくださいました。その後は、ここらでは見ることのできないほど上等なきのみを食べさせていただき、そのおかげで傷は一瞬で治ってしまいました」
「やはりか。そんなことができるのはルカラしかいないじゃろう」
「ルミリアさん。どうしてそのルカラという者がやったとわかるのですか?」
「それは簡単な話じゃ。ここに来る前にルカラから聞いていたからの」
「来る前に?」
どうして、ルミリアさんが人間と一緒にいたの?
「不思議そうじゃな。しかし、おかしなことではないぞ? 余はタロの見守りを任されていたからの。タロはルカラと本契約した聖獣の子じゃ」
「本契約した!?」
「そうじゃ。そこで戻ってきた時に、魔獣の子を助けたと聞き、急いでここまで来たというわけじゃ。どうじゃ、ルカラはすごいじゃろ? 聖獣と本契約じゃぞ? できる人間なぞいなかったのではないか?」
どうしてルミリアさんが自慢げに?
それに、タロ? それは知らない子。新しい優秀な子に名前をつけたのかな? なのに、本契約?
まさか、そのルカラって子が勝手に名づけを? 力がつき長候補となった者がようやく長から名前をもらえるというのに? それを人が!?
そもそも、あの獣使いと本契約したというの? 聖獣からすればにっくき出来事を思い返すような存在だというのに……。
これまで人間は聖獣を戦争の道具にしたり、物のように扱ってきた。そんな仕打ちを道具も使わずに一人でできる獣使いと本契約……?
けど、本契約にはそれなりの実力、何よりお互いの信頼が必要だったはず。ううん。それだって捏造したのかもしれないし。
「ルミリアさん。その、ルカラという者は何者ですか?」
「ほう。デレアーデ。そなたも気になるか。余としてもこれからが気になっておる。会ってみるか? 余はルカラと友だちじゃからな」
「トモダチ……」
ルミリアさんはそのルカラという者に、トモダチというよくわからないものにさせられてしまったみたいだ。
初対面ではルミリアさんって少しとっつきにくいだけで、一度心を許すと甘いところがある。
これは、直であたしも見ておかないと。
成長して脅威になられては困るもの。
「わかりました。そのルカラという者にあたしも会ってみましょう。魔獣の長として」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。