第6話…秘めた関係

「エマ、君の力が必要だ。何とか、あの女を排除してくれ」

「わかっていますわ、ネヴィル様」

「君でなければ駄目なのだ」

「まぁ、嬉しい言葉だわ」

「茶化すな、俺は本気だ」

「邪魔する者は誰であろうと決して容赦致しません。私の未来が掛かっているのですから」

「頼むぞ」

「ところで、ネヴィル様。覚えていらっしゃいます? 私と二人きりで湯浴みした事。貴方は優しく私を抱き締めて下さったわ」

「そ、そんな事を覚えていたら可笑しいだろ!」

「あら まぁ? そういえば、そうでしたわね」

「全く……。誰が聞いているかわからないのだぞ」

「大丈夫ですわ。同部屋の方が扉の向こうで監視して下さっているのでしょう?」

「あぁ。とにかく、エマだけが頼りなのだからな」

「お任せ下さい」

「愛しているぞ、エマ」

「私もです、愛しています」



☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆



 図書室の本棚でぶらり探しながら上段へと手を伸ばしていると、私より遥かに大きな手がその先に伸びていく。

 いつの間にか隣にいたのは知らない殿方で、背が高くスラリとした優しい穏やかそうな雰囲気。

 驚いた私は思わず凝視してしまった。


「あぁ、これは失礼。貴方が探していらっしゃるのに届かないようでしたので」


 本棚から取ったその殿方は、私の手にそっと乗せた。

 初めてお会いする方に突然親しげに話しかけられた。

 親切からの行動ではあるらしいが、誰かに見られたらどんな噂をされるかわからない。 すぐに第三者的な人を間に置かなければ。

 そこで、私はジャクリンの姿を探した。

 ところが、彼女はどこかに目的でもあったのか姿が見えない。

 周りには数人の男女がいるが、それぞれ読書に夢中で何も気づかない。という事は、もしかしたら少しだけ話をしても大丈夫なのかもしれない。

 私はホッとし、殿方に礼を言った。


「ありがとうございます」

「いいえ、お気になさらず。それより、これは難しいでしょう。貴方のような方が読むならもっとわかりやすい物が良いのに」


 私が探していたのはこの国、トリスタノルン王国の歴史本。

 過去を知る為の、よくある書物なら他の物をいくつか読んだが、これはただのありきたりな歴史ではなく、功績を残した人物や罪を犯した人物といった、歴史に関わる人物像を詳しく書き記した書物なのだ。


「いえ、これが読みたかったのです。これは歴史の道しるべのような物ですもの」

「なるほど。では、貴方が読み終わった後は俺も読んでみる事にしよう」


 あまり長く立ち話をしない方がいい。

 本棚から取って頂いた礼は言ったし、ジャクリンを探さなければ。


「失礼、自己紹介しても宜しいですか?」

「ええ」


 なんという事だ。礼は言ったものの、自己紹介もしないで立ち去ろうとしたなんて。


「俺はデューク。ブランドル男爵家の次男、デューク・ブランドルと申します。ここは学校ですので、気軽にデュークとお呼び下さい」

「私はフロタリア・コーンエル。コーンエル男爵家の長女です」

「あぁ、貴方がフロタリア嬢」

「私の事をご存じですの?」

「いえ、男のくだらない雑談の際に綺麗な男爵令嬢がいらっしゃると聞きまして」

「それはきっと他の方とお間違えなのですわ」

「ですが、貴方がネヴィルの婚約者なのでしょう?」

「知っておいでですの?」

「同じ年ですし、共に学んでおります」


 外の世界とは違う、共に学ぶ場所なのだから、デュークはそう言う。

 彼はとても気さくで話しやすく、私がジャクリンを探そうとしていたところを一緒に動く行動力も持っていた。そして貴族とは思えないくらいの穏やかな性格が好ましく、誠実さを絵に描いたような人柄も感じた。

 何より、噂の種を撒く事のないように配慮も忘れない。


 腐ってしまいそうな日々の中で、立ち止まって笑える時間が今の私にはとても貴重に思えた。

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