第5話

5話


 倉庫でキスをしたあの日から僕は佐藤さんを2人きりの時だけユウと呼ぶようにした。

 

 ある日曜日。僕達は初めて登下校以外のデートをした。

 僕はユウがなぜ途中から積極的になったのかをその日知ることになる。

「お父さんの仕事が変わってね。茨城に引っ越すの。独立するのはお父さんの夢だったし、お母さんの仕事は場所を選ばないからどこにでも行けるし。私はもうすぐいなくなるの。茨城は近いようで遠いわ。新しい家は水戸市にあるの。八千代台からは片道でだいたい2時間半。学生の私達じゃ頻繁には行き来出来ないわ。分かるでしょ。だから、大好きだって今言いたかったの…」

 ショックだった。手に入れた幸せはすぐに消えるのか。学生の僕達に遠距離恋愛なんて出来る気がしない。

「引っ越したら別れて…」

 そう言ってユウは涙を流した。

「やだよ…」

「別れて…ほしいの…わがままだけど、縛りたくないの。どうせ滅多に会えないし、私はホラ、気が多いからきっと浮気して傷つけるでしょ?ハハハ…」

「そんなことで嫌いにならない。だからお願いだよ。もう少し…。そうだ、いつ引っ越すの?卒業まではいるの?」

「全然、来週引っ越すわ。今日が最初で最後の1日デートよ」

 そんなことある?!

「急すぎるよ!」

「…もう。何言っても仕方ないのよ。千葉県にいるのはあと4日だけ。その4日間あなたはたくさん私とお話しして。出来るだけ楽しく過ごさせて。それだけが、願いなの。私もそうするから」


「…うん」


 その日はつらくてつらくて帰ってから布団を被ってわんわん泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る