第二十話 四人でテスト勉強

 ついに初夏がやってきた。

 セミがミンミン鳴くほどではないが、太陽の存在を少し意識するようになっていた。


 学生服も夏服にチェンジ、俺たち一年生もようやく学校に慣れた顔をしている。


 そんな中、修は教科書を片手に登校していた。

 まるで二宮金次郎。っても、知っている人も少ないのかな?


「えーだから倍数をこうしてこうして……なるほど」

「追い込み?」

「それで、あーしてこーして、こーして……」

「修、大丈夫?」


 どうやら聞こえていないらしい。

 集中力は凄まじいが、それなら家でしたほうが効率は良さそう。


 もうすぐ中間試験がある。

 修は勉強よりも部活! 野球だ! と日々宣言しているので、どうやらヤバイらしい。


「しちいちがしち、しちにじゅうし……」


 あ、なんか本当にやばそう……。


 ◇


 教室に入ると、いつもより少しピリピリした雰囲気が漂っていた。

 普段はのんびりした時間だが、修のように教科書と向き合っている人がいる。


 進学校ということもあってテストには気合が入っているのだろう。

 もちろん俺も気にしていないわけではない。

 家に帰ったら勉強はちゃんとしているし、授業中に居眠りもしない。


 まあ、家でやることがないので予習をしているというのが正しいけれど。


「皆様、おはよーっ!」

「おはようございます」


 そして楽々と沙羅がいつもの明るさで登場。

 二人は普段から地力の頭の良さが感じられるので、おそらくだが焦っているということはないだろう。


 当然、教科書を片手に九九を呟いていることもない。


「修、何してんの?」

「はちしさんじゅうに、はちごしじゅう」


 楽々の問いかけに、修は8の段で答えた。

 もの凄くドン引きしているが、本人は気付いていない。


「楽々、勉強の邪魔をしてはいけませんよ」

「え、えーと、これって勉強なの……?」

「各々学力のレベルがあるんです。そういう言い方はよくありません」


 どちらかというと沙羅も言い方も冷たい気がするけど、自覚はないと思う。


 修のおそるべし集中力に諦めた楽々は、俺に気づいて手を振る。


「おっはよ、今日から結構暑いねえ」

「律くん、おはようございます」


 手を使ってパタパタ扇風機。沙羅も少し暑かったらしく、首筋に汗がたれている。

 それを見かねた楽々が、小さなタオルを渡す。


 汗を拭く沙羅がなまめかしくて、思わず見入る。


「ふふふ、沙羅、律に見られてるよ?」

「え? え、えええ……!? 恥ずかしいです……」

「ち、違うよ!? た、たまたま!?」


 どうやらバレてしまったらしい。


 夏服は白と紺色のセーラー服。

 半袖なので、二人の白い腕がより目立つ。


 こうしてみると、沙羅は楽々と比べて少し華奢だ。


「ほらほら、まじまじとみてるよ?」

「あ、う、あ!? 」


 あ……また見てしまった。気を付けないと……。



 二時限目の休み時間、修が初めて俺を視界に入れたかのように立ち上がった。


「だめだだめだめだ! りっちゃん、助けてくれ!」

「……へ?」

「このままでは留年しちまうよ! もう駄目だ! 数学のゼロが野球ボールに見えてきちまった!」


 それはそれで野球バカっぽくていいと思うが、勉強に支障はありそうだ。


「なんとか俺を人間にしてくれ! 頼む!」


 妖怪人間みたいな台詞を元気よく叫ぶ。

 そうはいっても、俺もそこまで自信がない。


 けれども、修とはこの学校で唯一の男友達だ。

 出来れば力になりたい。


 なんとか二人に頼んでみるか……。


 ◇


 放課後、修が鼻歌を歌いながらスキップしている。


「持つべきものは友だ! 青春は素晴らしい!」

「まだ何もしてないし、青春というかなんというか……」


 その反対方向では、最強の姉妹が呆れていた。


「まったく……修の頼みだから聞いてあげるけど、普段から勉強してないのが悪いのよ?」

「わりぃ! 今度、玉山雨流のサインボールあげっからよ!」

「……誰それ?」

「MBAの日本人選手だぜ!? 投げれば三振、振ればホームラン!」


 嬉しそうにバットを振る物真似をしているが、楽々は薄目で睨んでいる。


「修、楽々は絶対興味ないから落ち着いて」

「へ? そうなのか? MBAって誰でも好きじゃないのか?」


 本当に大丈夫かな、と不安を感じていると、沙羅が大丈夫だよと言ってくれた。


「中間試験の範囲内はわかるので、暗記すれば問題ないと思います。といっても、いい点を取ることだけが勉強の目的ではないですが」


 頼りになる発言に、修がむせび喜ぶ。


 今から四人でテスト勉強をする。

 流石に俺だけでは不安なので、楽々と沙羅に頼んだのだ。


 俺自身もテストに自信があるわけじゃないので、色々と確認できるのはありがたい。


 しかし、条件が一つだけあった。


「ここだよ」

「ほーう、いいマンションなんだな」

 

 四人でカフェで勉強するのは流石にやりづらく、学校でやると俺も私も! と人が集まってくるだろう。

 なので、律の家ならいいよと二人から言われたのだ。


 二人の家とも近いので、夜遅くなってもすぐに帰れるのも理由の一つだった。


 俺も一人暮らしなので、親の心配をすることもない。

 楽々と沙羅のマンションほど大きくはないが、四人程度なら問題はない。


 けれども、誰か入れるなんて初めてだ。



 エレベーターホールを超え、扉を開け、俺は人生で初めて友達を家に入れた。




  ——————

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