第24話 事故物件
あれからもう15年になるのか。
もう時効かな。
別に犯罪ってわけじゃないから、時効とかそういうのは関係ないとは思うけど。
ただ、やっぱり気持ちがいいものじゃないから、あんまり話さないようにはしてたんだよね。
今は日雇いのバイトをしてるけどさ、俺、15年前は不動産の会社に勤めてたんだ。
あれだよ。
賃貸の仲介会社の営業。
簡単に言えば賃貸を探している客に紹介する仕事ね。
こう見えても、当時は成績が優秀だったんだよ。
人気のない部屋でも、結構、ゴリ推しして借りさせたりさ。
だから、営業所で人気のない部屋の担当を押し付けられたりしてんだけどね。
まあ、その分、給料は上乗せしてもらってたけど。
でさ、勤めてて3年目くらいの時だったと思う。
俺が紹介して部屋借りた人が、自殺したって連絡が来たんだよね。
もちろん、その部屋は事故物件ってことになってさ。
元々人気がなかったのに、余計、借りる人がいなくなっちゃったんだよね。
さすがに当時の俺でも、その部屋を借りさせるのは無理だったよ。
持ち主も諦めたみたいでさ、3年くらいは放置を覚悟したって話。
それだけならさ、単に運が悪いってだけだよね。
だって、別に俺が自殺に追い込んだとか、事故物件を紹介したわけじゃないんだからさ。
それから1ヶ月後くらいからな。
また連絡が来たんだよ。
俺の担当の部屋で自殺者が出たって。
うわー、ついてねーなって思ったよ。
連続かよ、って。
そしたらさ、その次の週に、今度は強盗に入られて借主が殺されたって連絡が来たんだ。
そっからかな。
俺の担当の部屋が次々と事故物件になっていったんだよ。
自殺、他殺、病死、事故、放火。
世間では特にニュースにはならなかったよ。
まあ、どこかで毎日、人なんて死んでるんだからね。
でもさ、会社の中ではさすがに噂になったよ。
俺が担当した部屋がドンドン事故物件になっていくんだからさ。
別に俺自身は犯罪をしてるわけじゃないし、不正もしていない。
まあ、当然だよね。
だって、俺に何の得もないし。
それは疑いようもない。
けど、徐々に、俺がいる会社が呪われているって噂が立つようになった。
そういうの、調べる人って結構いるんだね。
さすがにヤバいってことで、俺は転勤を言い渡されたよ。
理由はなんだっけな。
さすがに担当した部屋が事故物件になるから、なんて理由じゃなかったのは覚えてる。
一応は左遷じゃなくて、栄転って感じだったと思う。
俺が転勤したら、ピタリとそういうのは止んだらしい。
まあ、元々、俺の担当の部屋しかそういうのがなかったから当たり前っちゃ当たり前だけど。
だけどさ、それで終わらなかったんだ。
今度は、移動した先で、俺が担当した部屋で事件が起こるようになった。
何回か、警察にも呼ばれて事情聴取されたよ。
もちろん、任意でね。
でもさ、やっぱり俺に何の得もないし、被害者には全く共通点がない。
家族もいれば、学生もいるし、それこそ老若男女、色々ね。
当たり前だけど、事件が起こったときに俺にアリバイはあるわけ。
仕事してたわけだしね。
最後の方は、バカバカしいことで呼んでごめんねって警察の人も言ってたよ。
念のためなんだって言ってさ。
その後も、3回くらいかな。
転勤して、行く先々で、俺が担当した部屋が事故物件になっていくんだ。
もう、完全に呪われているって噂になったね。
社内で。
誰も話しかけて来なくなったし、俺がいるからって、転勤希望を出した社員もいたみたい。
その頃になったら、俺もなんかあるなって思ってさ、営業からは外してもらったよ。
雑務ばっかりしてたね。
で、あるときさ、営業所にある男が部屋を借りに来たんだよね。
それがさ、学生の頃に俺をイジメてたやつ。
まあ、あっちは完全に忘れてるみたいだったけど。
だからさ、俺は無理を言って、そいつの担当にしてもらった。
で、そいつの話を聞いて、希望の部屋を案内して、契約に漕ぎつけた。
大体、半年くらいした頃かな。
そいつさ、部屋で変死体で見つかったんだよね。
不思議なことにさ、死因がわかんないんだって。
変な角度で首が捻じれてたらしいよ。
部屋の中には争った形跡もなくてさ、周りの住人も、そいつ意外に部屋に人が入ったとかいう証言が出てこなかったみたい。
密室だって言ってたかな。
確か、事故っていうことになったんだっけ。
さすがに、その話を聞いて背筋が寒くなったね。
期待通りのことになったわけど、期待してたわけだからさ。
だから、俺はそのことをきっかけにその会社を辞めたってわけ。
何回か、正社員で働いたけど、すぐに辞めたよ。
別に何かあったってわけじゃないんだけどね。
なんていうかな。
やっぱり、自分は呪われているっていう感覚があるんだよね。
一緒に働いてる同僚に悪いなって感じで、長続きしなかった。
だから、日雇いに落ち着いたってわけ。
ね?
犯罪じゃないけど、なんか不気味だし、後ろめたいでしょ。
あ、そうそう。
この部屋なんだけどさ。
俺が昔の同僚に頼んで、自分で選ばせてもらった部屋なんだ。
つまり、俺が俺に紹介したって感じ。
もしかしたら、何か起こるんじゃないかなって期待してるんだよね。
あははは。
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