第22話 ゆっくりと死ぬ
「心は体に影響する」
こんな話を一回は聞いたことがあるんじゃないだろうか。
一番有名なのは『病は気から』っていうのがあるだろ?
病気じゃないかって思うから、病気になるんだってこと。
……あれ? 違ったっけ?
あとは筋トレも理想の体をイメージしながらトレーニングした方が効果が上がるってやつ。
これも結構有名なんじゃないかな。
あと、もう一つ。
これはKから聞いた話。
ある死刑囚が目隠しをされた状態で、手首を少しだけ切られる。
その死刑囚は、切られたところから血が流れ、ピチャンピチャンと血が落ちる音だけが聞こえる。
その数時間後、死刑囚は出血多量で死んでしまう。
でも、実は手首を切ったのは嘘で、ただ刃物を手首に当てただけだったんだ。
で、死刑囚の手首に水を垂らすってわけ。
つまり死刑囚は思い込みで死んだってことになる。
俺はこの話を聞いて、すごく面白いと思った。
「なあ、K。これ、実際に試してみないか?」
「は? できるわけねーじゃん。もしできたとしても、殺人になるんじゃねーの?」
「違う違う。そうじゃなくってさ。Oいるじゃん。クラスの」
「あー、あの地味なオタクタイプのやつか」
「そうそう。あいつにさ、お前に強力な呪いをかけたって言うんだよ」
「……なるほど。俺たちは何もしてねーけど、Oが勝手に呪われたと勘違いして死ぬってことか」
「そういうこと」
俺の話にKもノリノリで乗っかってくる。
ただ単に呪いをかけたって言っても信じないだろうから、俺たちは色々と呪いについて勉強した。
陰陽師なんかのことも調べて、それらしいお札も作った。
あとは呪いの言葉なんかも作ってみる。
さらにハトとかカラスとか捕まえて殺して、死体も用意した。
準備が整ったところで放課後に、Oを空き教室に呼び出す。
Oは教室の異様な雰囲気に戸惑っている。
そこで俺が飛び出して、自作した呪いの言葉を言う。
Oはなんだかわからなくて、慌ててた。
すげー面白い。
そして俺はこう言ってやったんだ。
「お前に強い呪いをかけた。お前は7日後に死ぬ」
Oは叫びながら教室を出て行った。
そして俺とKは大笑いしながら、ハイタッチした。
「あいつ、すげービビってたな」
「これ、成功するんじゃね?」
「あいつ、本当に1週間後に死んだりして」
「成功したらさ、今度は2組のIにやらない?」
「いいねいいね」
次の日、Oは学校を休んだ。
さすがにその次の日は、親に言われたのか登校してきた。
そして、俺のところに来て、呪いを解いてほしいと言ってきた。
「ぜってー解かねえ」
そう言ってやるとOは絶望した表情になる。
Oはどうしてこんなことをするのか、みたいなことを言ってきた。
「別に理由なんてないよ。お前、キモいから」
俺がそう言ったらいきなりOが泣き出した。
小学生かよってくらい、ギャン泣き。
さすがに俺も引くレベル。
けど、そのせいで俺は先生に呼ばれて怒られた。
さすがにイジメってほど問題にはされなかったけど、2時間くらいは説教された。
すげームカつく。
絶対に呪いは解かねーと心に固く誓った。
Oに呪いをかけてから6日が経った。
ついに明日、Oが死ぬ。
俺はワクワクしながらその日を待った。
その日はずーっとOのことを観察した。
Oはずっと挙動不審で、涙目になっている。
それがすげー面白かった。
次の日。
普通にOが登校してきた。
どうやら死ななかったようだ。
残念、失敗だ。
けど、まあ、1週間は楽しめたから俺は満足だった。
今度は違うやつにやってみようかなと思っていた、その日の夜。
俺はいつも通り、深夜の2時くらいまで動画を見ていた。
さすがに眠くなって、ベッドで寝ようと寝転がる。
そしたら、いきなり部屋の電気がパッと消えた。
停電かと思って、スマホに手を伸ばそうとする。
でも、体が動かない。
金縛りってやつだ。
うわー、このタイミングでかよ。
眠った状態じゃなくて、起きていた状態で金縛りになるのは初めてだった。
深夜の2時を過ぎてるから、周りは静かだ。
俺は段々怖くなる。
そしたら、部屋のドアがギイと開く音がした。
最初は母さんかと思い、ラッキーと思ったが、母さんが無断で俺の部屋に入ってくるはずがない。
そもそも、部屋には鍵を閉めている。
ヒタヒタヒタ。
濡れた足音が聞こえてくる。
おかしい。
そんなわけない。
だって、俺の部屋にはカーペットが敷いてあるから、そんな音がするわけがない。
足音がドンドンと近づいてくる。
そして、ついに俺の枕元までやってきた。
ピタリと音が止んだ。
そしたら、右の手首に激痛が走った。
なんていうか……そう、噛まれたような感じだ。
痛くて叫ぼうとしたけど、金縛りで声も出せない。
身動きも取れない。
その後は血が抜けていくような感覚がする。
そう。
噛んだ奴は俺の血を吸っている。
やばいやばいやばい。
何とかしなくっちゃ。
そう思っている間に、俺は貧血のような感じで意識がなくなった。
朝。
目を覚ますと、部屋の電気はついていて、ドアも締まっている。
手首を見ても、別に何ともない。
変な夢だな。
俺はその時はそう思って気にしなかった。
――けど。
その日も同じことが起こった。
寝ようとすると、部屋の電気が消え、金縛りになる。
そしてヒタヒタと足音がして、右の手首から血を吸われる。
そんなことが4日続いた。
俺はOを呼び出して、ぶん殴った。
「お前! 俺に呪いかけただろ。仕返しに!」
そしたらOはきょとんとした顔で、なんのことって言い出した。
だから、俺はイラついて、何度も何度もOを殴って蹴った。
先生たちが集まってきて、止められ、俺は1週間の停学になった。
もちろん、停学中も変な夢を見ていた。
停学2日目、学校帰りにKが俺の家に様子を見に来た。
「お前、なんでOなんか殴ったんだよ?」
「いや、あいつさ、この前の呪いの嘘の仕返しに、俺に呪いをかけてきたんだよ」
「呪い?」
俺はKに変な夢のことを話した。
「そうじゃなくて、なんでOがお前に仕返しなんかするんだよ?」
「何言ってんだよ。お前と二人で、Oに呪いをかけたって嘘ついたじゃん」
「……は? なんのことだ?」
最初、Kがしらばっくれてると思ってたけど、本気で知らないようだった。
だから俺はKと一緒に作った呪いの札や呪いの言葉を見せようと、机の引き出しを開いた。
けど、なかった。
なにも。
何冊か、勉強のために買った本もなくなっている。
念のため、母さんに捨てたかと聞いてみたが、知らないと言われた。
どういうことだ?
俺は混乱した。
毎日変な夢は続いている。
そこで母さんに頼んで、お祓いに連れて行ってもらった。
でも、治まらなかった。
毎日毎日、同じ変な夢を見る。
もしかして、俺の思い込みで、呪いなんかかかってないんじゃないかと思い込もうとした。
けど、俺はよく貧血になるようになったし、体重も1ヶ月で10キロ以上減った。
このままじゃ死んでしまう。
でも、どうしたらいいかわからない。
誰に相談しても解決しない。
今日も夜が来る。
そして、またあの変な夢を見るんだろう。
おわり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます