勇者とタイミング

「ミリアの両親の話は聞いたかね?」

「はい、前に亡くなってしまったと」

「そうじゃな。ではミリアの両親は何が原因で亡くなったのか、聞いているか?」


 身体が弱かったと言っていたから勝手にやまいだと思っているが、どうなのだろう。

というかいきなり話しの内容重くないか?


やまい、ですか?」

「正解じゃ。は、じゃがな」

「表向きは? 一体どういう事ですか?」


 明らかに裏が無いと出てこないであろう口振りだ。


 ミリアは、両親の死について何か隠したいことがあったという事だろうか?

そもそも言わなくてはいけない事ではないからそこは良いのだが、表向きということがどういう事かわからない。


どうやら難しい顔をしてしまっていたようで、村長さんは補足をしてくれた。


「安心して欲しい、ミリアはお主に何も隠しちゃおらんよ。あの子は本当に身体が弱くて死んだと思っておるからな」

「それって、ミリアも本当の死因はわかってないって事ですか?」

「ああ、そうなる。言おうとは思っておるのだが、まだあの子が受け入れれるとも思えなくてな」


 情け無い限りだとうつむいた村長さんの顔に影ができる。

成る程、ミリアのことを想って言えなかったのか。しかし、長年言えない程の理由があるとは。

もしかしたらミリアが今明るく生活を送れているのは奇跡的な程の理由なのかもしれない。


「俺に、その理由を教えて貰えますか?」

「知って、どうするつもりじゃ?」


 村長さんが顔を上げこちらをじっと見つめる。


「確かに、こんなぽっと出の男に教える内容ではないかもしれません。でも、ミリアはこれから一緒に旅をする仲間です。その旅の中で言える機会が来るかもしれません、俺が村長さんの役割を引き継ぎますよ」


 ミリアを村から連れ出してしまう事になった原因も俺ですしと付け加えた。


 俺がこの先共に旅をしていく中で、適切なタイミングを見極めて話をしよう。そんな間柄になるまで時間はかかるかもしれないが。


村長さんは少しばかり難しい顔をした後、一呼吸置きわかったと小さく呟いた。


「そうか、ありがとう。申し訳ないがそれでは、一つ頼まれてくれるか?」

「はい。というか、多分元々そのつもりだったんですよね?」

「お見通しか。察しが良いな」


 罰が悪そうに言う村長さん。

実際、タイミング的には予想しやすかった。

ミリアに真実を言いたいが、年齢的にまだ受け入れられないかもしれない。でも旅立ってしまうのだから、真実を伝える役割は他の人に託すしかないだろう。


「でもまあ、どのタイミングで言おうと俺が先に事実を知っていることにまず怒っちゃいそうですけどね」

「それも、すまないと思っている」


 しかしまあ、重要な役割を引き継ぐと言ってしまったものだ。

普段なら面倒ごとなんて避けて通るのだが。勇者という肩書きがそうさせているのかな?


「いいんですよ。それじゃあ、教えて下さい」

「ああ、ミリアの両親はそもそも・・・」


バーンッ!!


村長さんの声が遮られる。


「ミリア・ホーネットただ今準備完了しました!! ささっ、大冒険ですよ!」


 目を宝石の様にキラキラさせ、ウッキウキを体現しているミリアが興奮のおもむくままドアを勢いよく開けて入ってきた。


((えぇ、このタイミングで?!))


 俺と村長さんはあんぐりと口を開ける。

さっきまでのノックしてくれてたミリアは何処かへと行ってしまったようだ。


後ろに目をやると、詰め込まれ膨れた荷物を小型の車輪がついた台車に乗せているのが見える。

あれ全部持っていくの? 多っ!!

というか・・・・・・


「準備早っ!!」


 これ程までにタイミングが悪い子を、俺は知らない。

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