匿名勇者といっしょ

赴く農民

――次の日。

　最低限の朝の農作業をやり終えた俺は、あまり気乗りはしないが馬車を使用して王城へと向かった。

「人生でまさか王城へと赴（おもむ）くことがあるとは思ってもみなかったな……。」

　布に包んだ剣を見つめ憂鬱な気持ちにこそなるが、それ以上に大金が手に入るということを思うと何に使おうかなどを考えて胸が膨らむ。

「良い肥料や土、いっそのこと農具一式変えるのもいいな、いやでも手に馴染むのが1番。でも欲しいなあ」

　貰える額なんてわかってはいなかったが、王から高く買い取ると言われたのだ、夢見ても不思議では無い。

「お客さん、そろそろ着きますよ。王城に用があるだなんてあんた何者だい？」

「ただの農民ですよ。本当にただの」

　気づけば目と鼻の先に立派な王城が見えていた。やはり国の象徴の住居なだけはあって建物ではあるが威厳に満ち溢れている。

城のすぐ近くにともなると気が引けるので少し手前で降ろしてもらう。

「ここまでで大丈夫です。じゃあ、ありがとうございました」

　礼を言って、入口へと進む。

こうして目の前にするとなかなかに緊張するというものだ。

　門の近くまで来ると、布に剣を包んで歩いて向かってくる俺に気づいたのか、門前で警備をしていたであろう兵士が近づいてきた。

「貴様、何者だ。何か持っているな、この城へ何しに来た？」

「え？　あ、この剣を王へと運んで参りました。文を頂いたもので」

　鍛え上げられた身体、硬そうなかっちゅう（甲冑）、いかにも屈強そうな兵士に少し怖気ずくも悪いことはしていないので捕まることはない。

懐に入れていた王からの手紙を見せる。次第に兵士の表情が厳しいものから何やら焦っているような顔へと変化する。

「お客人様でしたか！　これは大変失礼致しました！　さあ、中で王がお待ちですっ。どうぞ」

「え、あ、はあ」

　急に態度が一変した兵士に対し驚くも、言われるがまま門をくぐり中へと入った。

「……凄い」

　入るや否や、煌びやかな装飾に目を奪われる。床のタイル、天井の派手な照明。その一つ一つの高級さに王の偉大さを感じてならない。

ここは別世界なのではとすら錯覚してしまう。

慣れない光景に周りをキョロキョロしていると、奥の方からハリのある声がした。

「お早いご到着感謝いたします。早速ですが、王の間へとご案内いたします」

「あ、はいお願いします」

　どうやら執事とか側近のような感じの方の様だった。言われるがまま後ろをついていく。

長い廊下をしばらく歩く。いやこんな広いものなのか、廊下だけで俺の家何個分あるんだよ。

そんなことを考えた矢先、脚が止まった。

「それでは、この扉の先が王の間でございます。」

「デカァ！！」

　あまりにも無駄にデカい扉だったので、思わず口に出てしまった。慌てて口を手で覆うが気にはされていないようで、胸をなでおろす。

「では、扉を開けてお入りください」

「はっはい」

　大きなリング状の取っ手を握り、力いっぱいに引く。

ガッ！！

あれ、開かない

あぁしまった、押すタイプだったか。

ガッ！！

あれ？

「……引き戸でございます」

「この扉の感じで！？」

　俺は顔から火が出るほど真っ赤になるが、平静を保っている体でゆっくりと王の間へ入った。