2話
「いやいや、それは違うよ、美和ちゃん。恋は情熱、パッションなのよ。情熱的に愛し合うって素敵よねっ!」
「いいえ、大切なのはある程度の妥協なのよ。理想だけでは恋愛は出来ないのよ」
「白魔導師がそんな現実的なことを言わないで」
とある休日。私はカフェでこんな会話をしていた。始めは何気ない雑談だったが、いつの間にか恋愛談義になっていた。追加注文で頼んだケーキやらパフェやらが、次々と消費されてゆく。スイーツは別腹だ。
そんな恋愛談義をしている相手は、毎度の如く私の下僕・高村君では勿論なくて、私の友人・住吉双葉である。
住吉双葉。私の友人、というよりも親友と言った方が良い。向こうがそう言ってくれているのだから、それで良いのだろう。
双葉は私の高校での初めての友人であり、私が恋愛相談を受けるきっかけとなった記念すべき最初の相談者でもある。その後も、彼女の恋愛相談を受け続け、現在に至る。私は友人の恋を叶えるために、様々な手段を尽くしてきたつもりだ。しかし残念なことに、彼女の恋は叶っていない。ほとんどが「やっぱり運命の相手は別にいた」などという理由で恋が終わってしまい、告白までいかない。
そんな彼女の性格を好意的に表すと「真っ直ぐ」である。高村君が「ひねくれ者のお前が、何で住吉と仲良くなれたのか分からない」と言っていた。でもまあ、仲良くなれてしまったのだから、仕方がない。
どうも高村君の語りでは、私はかなりの変人の様に描かれているらしいけれど、そんなことは決してない。白魔導師を名乗る私だって、普通に友人はいるし、彼女らと普通に買い物やカラオケに行ったり、プリクラを撮ったりもする。
こんな風に、普通に恋バナだってするのだ。
「ねえ、美和ちゃん。異性間の友情ってあると思う?」
恋愛談義の方向性が変わった。
「そうね、そういうのもありだと……」
私はミルクレープにフォークを入れながら言った。
「ううん。男女間に友情のような感情が生まれてしまった以上、もうそれは恋なのよ!」
双葉がドーナツを握りながら、力説する。
「そ、それは言い過ぎなような……」
「そうじゃないと、ドラマチックじゃないっ!」
双葉は物事にドラマ性を求める。それは彼女が演劇部の部長を務め、月一で何かしらの舞台を見に行く程の演劇好きであることに由来している。
「それでさ、美和ちゃんと高村君の関係ってさ……」
「主人と下僕」
即答した。
「そうは言ってるけどさ、本当にそれだけなの? あれだけ一緒にいて、恋愛感情が芽生えない方がおかしいよ。だって、一緒に泊りがけの旅行にも行ったんでしょ?」
「本当に何もないのよ。双葉の思っている様なドラマ的イベントは皆無。それに、従兄妹も烏丸君も一緒よ。二人きりで行った訳ではないわ」
彼と私の関係は主従。それ以外の何物でもない。だから恋愛感情なんてあるはずがない。
「本当に、高村君とは何もないんだね?」
「ええ、勿論」
「なら、大丈夫か……」
「何が?」
話の方向性が上手く掴めない。
「私、高村君のことが好きになっちゃった!」
「は?」
双葉の言っている意味が、よく理解出来ない。
「今度のバレンタインデーで告白しようと思うのっ!」
「…………って、嘘っ⁉」
脳内で双葉の言った意味を理解し、平素の自分からは想像も出来ない声を上げてしまう程に、驚いた。
「それで、高村君のこと一番詳しいのって美和ちゃんでしょ? だから、今度も協力してくれるよね?」
「え、ええ」
つい、いつもの癖で了承してしまった。
今後、この時こんな約束をしてしまった馬鹿な自分を呪うことになる。
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