佳鈴ルート①:期末テストと勉強会
雨が降る中、佳鈴が空也に好きだと(※本人は誤魔化したつもり)言った日から幾日かが経過した。
あれから特に大きな変化が起きる事もなく平和な日々が続いていたのだが、その平和はあるものによって唐突に破られることになった。
長い休みの前に必ず発生する学業イベント。多くの学生を苦しませる風物詩。
その名は――期末テストである。
◇◇◇
「あぁぁぁぁ、きーーーつーーーーいーーーー」
「右に同じ~~~ッス」
「ガンバレガンバレ二人共っしょ」
三人揃えば文殊の知恵と集まってみれば実際のところはかしましい。
ずっ友、あるいはBFF。
噂の女神ギャル・光笠 佳鈴を筆頭に、仲良し三人ギャルズは教室の片隅で期末テスト対策をしていた。
ただし全然進んでいない。
特に佳鈴はお手上げ状態で、他の二人に比べて諦めの色が濃い。誰かが指摘するまでもなく彼女は勉強が苦手であり、三人の中でも一際期末テストがお辛い。アップでくくった金髪も大分しょんぼり元気がなくなっている。
「さ~りゃ~ん、なんかコツとかないのー?」
「地道にコツコツやるのがコツっしょ。それともヤマでも張る? やるなら外したら地獄行き一直線の大博打になるっしょ」
「うわ、こわっス」
スポーティーな黒髪短髪ギャルのさーりゃんがケラケラ笑っているのは、彼女がそれなりに勉強もしているからだ。より正確には元々頭が良い方なので余裕がある。
一方勉強不得意組な残り二人は余裕なんてない。佳鈴に至ってはついこの間に居残りをするハメになった経緯もあるため、尚更下手な点数は取れないでいた。あまりにもポカしすぎた場合、その先にあるのは留年の二文字となる。
当たり前だが、佳鈴にとってそれは避けねばならないものだ。
せっかく空也と同じ学校に居られているというのに、学年が変わってしまったらどうすればいいのか。向こうも気まずくなって接する機会が減るかもしれない。
「ないわ、それはないわ」
「ないない言っても学力があることにはならないんだから、どうにかするしかないっしょ~。出来る事からやっていきまっしょ、とりま目標でも立ててみるとか」
「全教科赤点だけは回避したいワ」
「志が低いッス!」
一番ミニマムなお気楽ガール・あやちーのツッコミは的確である。
「そーいうあやちーはどーなのさ」
「ふっふっふ、なんと驚け。あやちーさんは平均点をふたつ取ろうとしてるっすよ」
「佳鈴とあんま変わんないでしょソレ」
「「かふっ」」
さーりゃんの言葉の矢によって吐血したかのように倒れる二人。
されどソレで何がどうなるわけでもなく、ゾンビのように起き上がってテスト範囲の教科書のページをパラパラ。何もしないよりかはマシだが、丸暗記でイケるものならまだしもそれで突破できる程テストは優しくない。
「しゃあない。やっぱココは助っ人を呼ぶしかないでしょ」
「え、そんな人がいんの?」
「いるでしょ。佳鈴がいつもバチバチやってるのが誰か、もう忘れた?」
「なるほど! ココで闇の力を借りようとするとは、さすがさーりゃんっす!」
「ちょい待ち。その助っ人って美夜子のこと?」
「他に誰が?」
「そんな言い方をするってことは、もう話はつけてあったり?」
「ないでしょ。これから佳鈴がつけてくるんだから」
「唐突かつ無茶が過ぎない!?」
つっこむ佳鈴をスルーして、さーりゃんは話を進めるために腰を上げ、そのままスタコラ別の教室へ向かう姿勢である。
「そんならこのさーりゃんめが頼んできてしんぜよう! なーに、ダメで元々でしょ」
「ちょ、本気か。さーりゃんって美夜子と仲良いんだっけ?」
「んなぁこたないでしょう。んじゃにー」
手をフリフリしながらさーりゃんはどこかへ行ってしまった。
そもそも彼女がいなければ勉強を教えてもらうも何もない佳鈴とあやちーが残ったところで、何がどう進むはずもなく、ただ自体が好転するよう祈りながら待機する程度しかやれることはない。
――しばらくして。
獲物を捕まえたどーと言わんばかりに元気よく戻ってきたさーりゃんが引っ張ってきた人物。それは――。
「ドヤー見事連れて参ったでしょ!」
「……えっと、僕に何か手伝って欲しいことがあるって聞いたんですけど……一体何をしろと?」
「こっちがさーりゃんに訊きたいってーの!?」
何がアレしてどーしたらこうなるのか。
さーりゃんが引っ張ってきたのは、ロクな説明もされずにきた少年・時銘空也だった。
◇◇◇
「はぁ~~もう、ほんとごめんねぇ? さーりゃんが無理矢理しちゃってさぁ」
「もういいですってば。僕もテスト勉強はしないといけなかったんで、いい復習になりましたよ」
突発的な勉強会を終えた佳鈴と空也が帰り道を歩いている。
さーりゃんが空也を連れてきたのは「美夜子が見つからなかった」からと弁明されたが、だからといって偶然発見した空也を巻き込んでいい理由にはなるはずもない。
(ってーか絶対わざとだ!)
ニマニマしているさーりゃんの顔を思いだし、佳鈴は憤慨する。あやちーも似たような表情を浮かべていたので、もしやグルかとすら疑っていた。
そうなれば空也が連れてこられた理由も簡単だ。佳鈴に良かれと思って、あの友人達がお節介を焼いただけになる。
(もーーあの二人めーーー。ありがとねぇ!!)
おかげで、至って自然に意中の相手と一緒に下校できている佳鈴は感謝の言葉を叫んだ。心で。
「ところで佳鈴さん。僕が気にしていいことじゃないとは思うんですが、その」
「んー?」
住宅街沿いの歩道を歩きながら、夕焼け色に照らされた空也が神妙な面持ちで佳鈴をじっと見つめる。
「今度の期末テスト、大丈夫そうですか?」
「…………そ、それなァ~」
返事をする間でもなく、まったく大丈夫ではないのは明白であった。
四人で行なった勉強会は、実質マンツーマンのような形で行なわれた。さーりゃんはあやちーに教え、空也は佳鈴に教える組み分けでだ。
その結果、勉強会の間に空也は何度苦笑や絶句をしたかわからない。
佳鈴としては仲睦まじくお互いに得意・不得意をフォローしあって和気あいあいとした空間形成をお望みだったが、そんなものはなかった。一方的に佳鈴が教えてもらっていたし、それで勉強が上手く進んだかどうかで言えばいい塩梅にいったわけもなく……。
端的に言って、足を引っ張りすぎて空也の邪魔になってる感が半端なかったのである。
「うぅ、アホの子でごめんよぉぅ~」
「佳鈴さんはアホじゃないですよ! 単に勉強が苦手なだけです!」
「グサァ!? それはそれでエグリみがヤバイ……」
フォローの矢が胸にぐっさり刺さった佳鈴が項垂れ、歩くスピードが一段と遅くなる。空也が口にしたように期末テストは近い。猶予はあるが、ありすぎるわけでもない。何か対策を打つなら今の内だった。
「なんかいい手はないんかなぁ。クーちんなんか思いつかない?」
「地道にしっかり勉強するのがいいんじゃないかと」
「そんな当たり前の意見は聞きとぅなかった!!」
「ええ!?」
夕日が沈んでいき、道沿いの外灯がチカチカと点灯していく。
陽が長くなったとはいえ夜も近い。一日が終わって、また明日が訪れる。
今の佳鈴にとってソレは、期末テストという地獄のカウントダウンに等しく、げんなりしまくりだ。
おまけに暑い。この時期は突然気温が爆上がりする時もあるため油断はできないのだが、散々っぱら成果は出ずとも頭を使った佳鈴のお脳味噌はオーバーヒートしそうだった。
「あーあー、どうせ勉強するならクーちんがずっと教えてもらえたらなー。したらもっとやる気も出るっつーのに」
「僕が教えるとやる気が出るんですか?」
「出る出る、そりゃーもう出まくりっしょ」
何故出るかと問われでもすれば大変なはずなのに、佳鈴はとても気楽に答えながら交差点を曲がっていく。
彼女に付いていく空也は、何故か不意に推理をしている探偵のように口元に手を当てながら何やら考えている様子だ。
「なーにクーちんが悩んでんの! もしかしてアレかな、あたしにどーやって教え込もうかって算段立ててる的な? 二人っきりの秘密の授業でナニをどう教えてくれるのかな~? ん? ん?」
「二人っきりの方がやる気出るんです?」
めちゃくちゃからかい口調でネタを振ったはずなのに。マジレスが返ってきた佳鈴は少なからずペースが乱された。ついでに自分から軽いエロ系ネタを振ってきながら自爆したかのように恥ずかしくなってしまう。
「ま、まあ少ない人数の方が余計なチャチャも入らなくて集中はできる、かも」
「わかりました。……それじゃあコレは提案なんですけど」
「おおー、なんか秘策あり!?」
「都合が合う範囲内で、僕と一緒のマンツーマンで期末テスト対策勉強をするのはどうですか?」
「……マジで!?」
そうなったらいいなーと思っていた願望を、空也の方から切り出してきたために佳鈴は動揺しまくりだった。
「場所は……そうですね。図書館の勉強用スペースを借りれば静かでいいかも。普段とは違う環境なら気分も違うでしょうし」
「そ、それもいいんだけど! 他にもいいとこあるんじゃないカナー!」
「そんなトコあるんです?」
「クーちんの家とか! あっ、あたしの家でも勿論OKだしょ!!」
こうして、佳鈴のかなり強引提案は功を奏し――。
彼女にとってのお勉強会&疑似おうちデートが実現することになる。
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