第21話 蘇我馬子考

 前回、蘇我馬子に関心があることを述べました。気になったので色々と調べていたのですが、新しい発見があったので備忘録的にまとめてみたいと思います。ただ、僕の主観や思い込みが強い内容になるので、くれぐれも真に受けないでください。僕の妄想です。


 僕の計算になりますが、蘇我馬子は父である蘇我稲目が46歳の時に生まれました。兄弟とされる堅塩媛や小姉君とは親子ほども離れています。そこで僕は馬子は妾の子供ではないのかと想像しました。ところが調べてみると意外な事実が判明したのです。欽明11年、西暦550年の出来事として日本書紀に次のような記述がありました。


 ――美女媛と并(あは)せて其の従女吾田子(あたこ)をもちて、蘇我稲目宿祢大臣(そがのいなめのすくねのおほまへつきみ)に送りき。


 この頃、大和王権は百済からの要請にこたえて朝鮮半島に出兵しています。将軍である大伴狭手彦は、敵国である高句麗の討伐に成功しました。狭手彦は、多くの珍宝を携えて大和に凱旋します。欽明天皇にその財宝の数々を献上するのですが、大臣である蘇我稲目には高句麗から捕虜として連れてきた美女媛と従女である吾田子を与えるのです。稲目はその二人の女性を自分の妻としました。美女媛の経歴は分かりませんが、そのまま読むと美しい姫です。姫という漢字が当てられているので高句麗の皇族の可能性があります。この翌年、欽明12年、西暦551年に蘇我馬子が誕生します。この流れで考えると、この美女媛が馬子の母親と考えるのが妥当だと思うのですが如何でしょうか。


 ここで蘇我一族の始まりについて確認してみたいと思います。蘇我は武内宿祢(たねのうちのすくね)を祖としています。武内宿祢は、初期の大和王権で活躍したとされる伝説の忠臣で、景行・成務・仲哀・応神・仁徳の5代にわたって仕えたとされます。その期間がなんと244年間。さすがにこの年月は信じられませんが、大和王権に強い影響力を持っていたことは間違いないでしょう。実は、この武内宿祢の子孫は蘇我氏だけではありません。大和の有力豪族である紀氏・巨勢氏・平群氏・葛城氏もこの武内宿祢の子孫とされます。そんな蘇我の一族には系譜が残されています。


 武内宿祢→蘇我石川→蘇我満智→蘇我韓子→蘇我高麗(馬背)→蘇我稲目→蘇我馬子


 蘇我韓子は、雄略天皇の御代に朝鮮半島に出兵して馬に乗り戦っている記述が残されています。また、蘇我高麗は、馬背という別の呼び名があります。この頃の日本は馬の飼育が活発になっていく時期と重なっているので、蘇我の一族は大和王朝において馬の文化をリードしていた可能性があります。蘇我の出身地とされる橿原市曽我には5世紀後半の遺跡とされる南曽我遺跡があるのですが、この遺跡からは馬墓が発見されているそうです。僕は秦氏の馬匹飼育と無理にこじつけようとしていましたが、馬に関しては蘇我の一族の方が本家本元かもしれません。


 ところが、馬に関係した蘇我一族の中で蘇我稲目は馬の関係性がみえません。この名前の由来はどのように考えたらよいのでしょうか。蘇我高麗は宣化元年に逝去するのですが、息子の稲目は直ぐに大臣のポジションに就任します。このとき31歳。稲目は尾張や備前での屯倉の設置に奔走しました。屯倉とは、田んぼから収穫された米を収納する倉のことですが、そこから転じて大和王権が管理する農地のことを屯倉と呼ぶようになりました。当時の米は、現代でいうところの貨幣にも相当するので、屯倉を管理する稲目は現代でいうところの財務大臣に相当します。そこから、稲目という名前が定着したのでしょう。


 一部の研究者たちは、蘇我の一族の名前に注目しています。満智、韓子(からこ)、高麗(こま)は和名っぽくありません。いかにも朝鮮半島からきた渡来系の名前に感じられます。蘇我の一族は奈良盆地の南西を支配していた葛城一族の分家とされているのですが、その葛城の血と渡来系の血が混ざり蘇我の一族が誕生したのではという推測もあります。更には、満智、韓子、高麗は存在していなかったという研究者もいたりします。本当のところは分かりません。でも、そんなミステリアスな蘇我の一族のことが、僕は非常に面白いと思います。


 渡来人が、大和王権に大きな影響を与えたことは確かです。その渡来系の血を持つ蘇我稲目と、高句麗の美女媛との間に蘇我馬子が誕生した。飛鳥時代の渡来系氏族の中で有名なのは秦氏(はたうじ)、東漢氏(やまとあやうじ)、西漢氏(かわちあやうじ)になります。そうした渡来系氏族に対して蘇我馬子はカリスマ的な影響力を持っていたのかもしれません。ただ、こうした推察は現代ではあまり好まれません。天皇家の血筋に関わる問題だからです。忘れてください。僕も、もう少し頭の中で熟成したいと思います。

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