想い遙かに~帝国軍総統ユリウスの肖像

来夢来人

第1話 想い遙かに~プロローグ



「グスタフ殿下、総統が、極秘でお見えになっています」

と、執事はマルデク情報省長官オスカー・フォン・ブラウンの父グスタフに伝えた。


 グスタフは

「そうか・・・」

とつぶやくと、総統が待つ客間へと、姿を消した。

 そして二人は、どこかへ出掛けてしまったのだが、オスカーはそんな二人をいぶかしく思った。


 オスカーは執事に、

「父が総統とどこへ行ったのかわからないか?」

と、期待はしていなかったが聞いてみた。

 すると執事は驚いたことに、行き先を知っていた。


「たぶんフォン・ブラウン家の霊廟かと・・・」


 驚くオスカーに、執事は静かに告げた。


「今日はグスタフさまの妹エリザベートさまの命日です。

エリザベートさまは、親が決めたマルデク総統ユリウスさまの許嫁(いいなずけ)でしたから・・・」

と言った。


 初めて聞く、話だった。

 そもそもエリザベートという名の叔母がいたことを、オスカーは知らなかった。


「不幸な出来事があって、その出来事のせいでエリザベートさまは心の病を発症し、入水自殺されたのです。

 総統にとってもフォン・ブラウン家にとっても、自殺はやはり不名誉なことでしたから、一族の歴史からエリザベートさまの記録はすべて消されることとなったのです」


 執事はその遠い記憶を懐かしむように、慈しむように、しかし哀しげに言った。


「エリザベートさまは、それは優しく、美しいかたでした。

 あの方が生きていらっしゃったならば、ユリウスさまも、今の恐ろしい、残忍な総統にはならず、もっと違っった姿になっていたはずです」






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