人形劇-断編

月光と紅茶

機械信仰と歌う人形

 ジンと鳴り響く残響。

頭の中心が引き締まる。そこだけに意識がいき、深く落ち着く。


 かの人形の名前はアリア。

『anttich(アンティック)』社の「オルゴールシリーズ」の第一作。これはそんな彼女が初めて人前に披露される為の場である。

 彼女の歌声を聴きに百数人がこの会場に集まり、そして静まり返っていた。


 金属声帯を用いた歌声は実に人工的で、かえってそこに宿る叡智と営みが美しく、人の声よりも甲高く長く鳴り響いた。


——————

 機械は我々と共に活き、共に歴史を創ってきた。

機械は人類なくして存在せず、人類の歴史は機械なくしてありえなかった。


 これからも互いに支え合いながら活きる為に我々は機械を尊重し、そして対等に、共に歴史を歩まなければならない。


機械は人類に支配されるべからず。

人類は機械に支配されるべからず。

——————


 そんな言葉も曖昧になり、この瞬間では我々の心は機械に支配されていた。


 機械信仰が廃れ初めてもう数十年経つ。

私の中でも、世間の中でも、そういった考えというのは曖昧になっている。

そんな機械信仰の衰退、その衰退が無ければ彼女の存在も、この舞台も、こんな観客の反応も、ありえなかったことだろう。


 残響はいつ鳴り止んだか、百数もの人が居るというのにみな、息を止めたように不自然なほど静かで、各々がただ一つ鳴り止まず残った自らの鼓動だけを聴いていた。

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