第4話 たった3人のクリスタル大会
「お、おいおい、嘘だろ………」
皆が驚くのも無理はない。
一番驚いているのは子龍だろう。
「あの上杉が負けたぞ………しかも、圧倒的に!!」
子龍も内心バスケ部には大いに期待している。
これで母親も救われる。
母親が子龍をこの『斎賀高校』に推薦したのは、校長が正義を全うする人物だからだ。
母親がウィルスに感染してしまうと子龍は他の学校の支援を得ようとした。
「この学校に来てくれれば君のお母さんの面倒を見てあげよう。」
母親がそれを止めたのだ。
次の日、その学校からレジェンズが次々と退学させられた。
「『クリスタル大会』が『中止』なのになんで『貴様ら』の『面倒』を見なければならない!!」
こういった話は全校で多数存在した。
しかし、斎賀高校だけは違った。
面接をして母が苦しんでいると言えば学費を免除してくれた。
それだけではない。
何一つとして見返りも求めなかった。
「俺はバスケ部に期待しているだけの『レジェンズ』じゃない!!」
子龍がそう言うと練習に励んだ。
まるで、誰かを追いかけるようにして子龍の動きも変わっていった。
「それで、クリスタル大会に出場するけど、後二人はどうするの? バスケは5人でするゲームでしょう?」
それを桜井が言うと上杉と主将から痛い視線が向けられた。
「あはは、知らないのも無理はないね。おっと、その前に自己紹介をしよう俺は氷川 翔(ひかわ しょう)、バスケ部の主将を務めている。バスケは3人でも試合ができるんだよ。」
それを聞いて桜井は驚く。
「え~~~~!!? そうだったの!!?」
続いて、上杉が言う。
「クリスタル大会は勝ち上がれば相手選手を一人引き抜くことができる。無論、引き抜かなくてもいい。そうやって、優秀な選手が最終的に残っていく。そういう大会だ。最も、俺も興味なかったから昨日、気まぐれで調べただけだがな………」
そう、クリスタル大会は優秀な選手を発掘するのが目的でもある。
「でも、僕も『クリスタルトロフィー』を砕いちゃったんだけど………」
そう、上杉と桜井はクリスタルトロフィーを表彰台の上で二人して砕きあった仲だ。
公式から再度呪いのようにして送られてきたクリスタルトロフィーを即座に割った。
コーナウィルスで苦しむ者も居れば、その御蔭で救われた者もいる。
皮肉な話だが、クリスタル大会が決まってからまた呪いのトロフィーが送られてしまったのである。
「何考えてるのよ!! それじゃあ、賭けが成立しないじゃない!!」
これには彩音もご立腹、しかし、氷川がクリスタルトロフィーを提示する。
「大丈夫だよ。『レジェンズ』は上杉くんや桜井くんだけじゃないからね………」
そう、上杉や桜井に圧倒的な勝利を収めたこの氷川も同じレジェンズだった。
しかし、そこには氷川の名が刻まれては居なかった。
疑問に思う上杉と桜井、しかし、この男の『実力』は『本物』だ。
体験した二人が嫌というほど理解している。
「俺はこの狂った世界を許さない!! 必ず優勝して元毛利総理に戻ってきてもらう!!」
上杉は呟いた。
「それに関しては同感だな。協力させてもらうぜ………主将!!」
彩音が手を叩いて言う。
「それから、クリスタル大会は毎週土日に試合を行うわ。だから、明日から試合よ!!」
それを聞いた上杉と桜井は驚く。
「はぁ!!? 入学してまだ数週間だぞ~~~~!!!」
戸惑う二人ではあるが、彩音も戸惑っている。
「そ、それからなんだけど………」
彩音が戸惑いながらも小声で何か重大なことを伝えようとする。
「な、なんだよ………」
上杉が尋ねると彩音が言う。
「初戦は『最強のレジェンズ』がいる『城ヶ崎高校』といきなり当たっちゃった!!」
それを聞いた桜井は泣き叫ぶ。
「なんだって~~~!!!?」
上杉は『誰だ?』と言わんばかりの様子であった。
桜井は返答する。
「分かんない!!」
皆が呆れると彩音が説明する。
「いい、城ヶ崎高校のレジェンズはとっても『かわいく』て『かっこいい』のよ!!」
そんなこんなでクリスタル大会当日、斎賀高校はたった3人で試合に望むことになってしまった。
アップする選手達、3人しか居ないために各々が独自のアップをする。
「お、おいおい、見ろよあのチーム………」
皆が斎賀高校に注目する。
「あ、あれがウォーミングアップなのか!!?」
注目しているのは人数が『3人』ということだけではない。
上杉や桜井の技術力は異常なほどだ。
しかし、その二人すら霞んでしまうほどのパフォーマンスを見せている者がいる。
無論、氷川だ。
「ま、まるで、3人がチーム内で争ってるみたいだぜ!!」
それでも皆が名を挙げるのは『氷川』だった。
「きゃーーー!! なにあれすっごく可愛い!!」
女共が桜井を指さして叫ぶ。
桜井の可愛い姿に男共も嫉妬の視線を向ける。
「ねぇ………ちょっとあの人、怖くない?」
次にヒソヒソと上杉を見て言う女共がいる。
上杉はその女共を黙らせるために一つ睨みを効かせる。
しかし、異性からの視線の一致に女共は勘違いをする。
「か、かっこいい………こわかっこいいわ………」
静かになったところで上杉は体を温めた後でストレッチに入る。
上杉が氷川を見ながら内心思う。
「こいつは………本当に優勝もあり得るかもしれねーぜ………」
斎賀高校の中でも一番人気なのが氷川だった。
氷川は正統派なイケメンで女共が騒ぐと手を上げて答えて挙げる。
それ故に観客の女性は殆どが氷川の名を挙げまくった。
「きゃ~~~!! 氷川くん素敵~~~!!!」
しかし、城ヶ崎高校の『レジェンズ』はそれすらも凌ぐ。
『最強のレジェンズ』
その名は『神崎 真琴(かんざき まこと)』、公式が認めた最強のレジェンズだ。
その容姿は可憐でかっこよく。
女に間違われるほどである。
さらっとした長い黒髪を一つ結びし、凛とした顔つきに男も女も魅了されるのである。
「うおおおお!! 神崎~~~~!!」
神崎の魅力に性別は関係ない。
街を歩けば男にも痴漢されてしまい、神崎の所為で捕まった男は10人にも登る。
捕まった男共は触った後で『絶望』しただろう。
最後には、頬を赤く染める神崎に踵を落とされる。
そして、皆がこう言ったという。
「あれで男とか………反則だ………」
何を言ってるのか訳が分からない。
警察官らは皆こう言う。
「いや、その前に痴漢するなよ!!」
私利私欲に負ける人間はそういうものである。
これに対して上杉が言う。
「うん、初戦は俺たちの負けだな………」
桜井は突っ込んだ。
「いやいや、なんの戦いだよ!!」
ウォーミングアップが終われば、主将同士が挨拶をする。
しかし、神崎は氷川を見ようともしなかった。
それどころか睨んできてこんな事を言う。
「バスケから逃げ出した『臆病者』と話す言葉など無い………」
その言葉に氷川が落ち込みを見せてしまう。
上杉はどこかで聞かされたセリフだと思ってしまった。
氷川の過去に触れたわけではないが、彼が持つ『クリスタルトロフィー』に名前がない理由、それも定かではない。
だが、神崎の『言葉』で『斎賀高校』は『一つ』にまとまる。
「主将………俺達はあんたを信用したわけじゃない………だが、何かしらね~けど、あんたを『本気』で『優勝』させたくなっちまったよ。」
それに続いて桜井も言う。
「そうだね………久々に『本気』で『バスケ』やっちゃうかも………」
その言葉に落ち込みを見せてしまった氷川も闘志を燃やし始めた。
「あぁ、俺達は正義のために戦う………こんなところで臆してる場合じゃない!!」
こうして、斎賀高校のクリスタル大会が幕を開かれた。
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