第37話 騎士のプレイヤー
その後、荷馬車から降りてきた人の良さそうな顔つきの行商人の男性が俺とルヴィアに礼を言った後、伸びてしまっている盗賊から武器などを回収すると、あっという間に縄で縛って一纏めにしていく。なんとも手際のいいやり方で、あっという間に結び終わっていた。
ルヴィアは荷馬車に興味を持っていたので、行商人の男性に許可を取ってからそっちの方に向かっていいと伝えておいた。
ある程度縛り終わった段階でランスがミリィと共に戻ってきた。メタルオーは召喚時間が経過したのかそこにはもう居なかった。
まさか槍を掴まれて吹き飛ばされるとは思ってなかったようで、ランスはかなり気落ちしていた。それをミリィが必死になだめている状況だった。
「いやー、助かったわ。私1人ではとてもじゃないけど抑えきれなかったのよ。けれど、まさかこんなところで他のプレイヤーに出会うとは思わなかったわ。ほら、だいたいこの辺って辿り着いてないか、先に行ってるかくらいの場所だし……」
僕らが一箇所に纏まったときに騎士の女性が颯爽と現れ、頭部の鎧を非表示にしてから僕らに感謝を述べる。どうやらこの人もプレイヤーだったようだ。
進行具合からすると、おそらくは僕らよりも先にプレイしているベータテスターなのだろう。確かベータテスターは全部で1000人居たので、その中の一人という事になる。ウルカもその1人だ。
身に着けている鎧は流石にそこまで上等そうなものではないものの、僕らが纏っている初期装備とは違って、ちゃんとステータス値加算などの装備補正が存在していそうだ。
髪は金色でボリューム多めなポニーテール、目つきは少しだけツリ目だが、アニメーション補正のお陰かだいぶ可愛らしい顔つきをしている。まぁ、このゲームは意図的に崩しでもしない限り、どんな人でもアニメの美男美女になれるのだが。
顔つきからしておそらく外国の方かハーフだろうか。日本人よりもアニメーション補正が合っていて、より美人に見える。
歳は流石にわからないが、雰囲気的におそらくは僕らとそこまで大きく離れてはなさそうである事はなんとなく察することができた。
「私の名前はアイギス。ジョブはご覧の通りの『騎士』よ。パートナードラゴンについては……まぁそれはもう少し仲良くなってから教えてあげるわ。宜しくね?」
「僕はリュートです」
「ランスです!」
「……えっと、ミリィ、です」
僕ら全員に手を差し出してきて、握手を求めていく騎士の女性改めアイギス。かなり人懐っこそうな感じの女性だった。
因みに握手には混ざっていないルヴィアだが、彼女は荷馬車を見ているうちに、行商人の家族の幼い娘に懐かれてしまっていて、彼女の相手をしていた。本人もまんざらではなさそうなので向こうは向こうに任せることにした。
アイギスの今回の件についてだが、彼女は先行して進んだ先にある、とある村落においてファスタの街に向かおうとしていた行商人の護衛を引き受けていたらしく、あと少しでファスタに辿り着くといったところで、この手の護衛依頼ではお決まりの盗賊遭遇のゲームイベントが発生してしまったらしい。
しかも、そのゲームイベントがパーティー向けの難易度のものであった為に、敵の数が想定よりも多く、次第に手が回らなくなってしまっていた。
そんな頃合いにちょうど僕らが現れて、何とかなったという事のようだ。
当の本人は、ゲームイベントで難易度が変わることが多々ある事を知ってはいたが、まさかここまで苦戦するとは思ってなかったようだ。本当に間に合ってよかった。
「しかし、君ら
ここはファスタの森の奥と同じ推奨レベルとなっており、そのレベルは8となっている。……ということはアイギスのレベルも既にレベル8には到達しているということなのだろうか?
「俺はレベル5ですね。因みにほとんど敵とはあってませんよ?」
「私も……」
そういえば2人はさっきのグレーウルフ戦でレベル5に到達していたんだっけか。僕はまだレベル1だけど。
因みに敵があまり出てこないのはルヴィアが無意識下に使っているであろう【威圧】のせいだと思う。基本的に弱い敵は強い相手にはあまり近寄らなくなるからだ。
おそらくだが、草原でスライムを探すのに苦戦したのもこれが影響しているのだろう。検証するにはルヴィアを送還する必要があるが、消費コスト的に難しいのでまた今度にしよう。
「あら! 戦闘とかに慣れていないとそこまで上げるのにも時間かかるのによく頑張ったわね! しかもあまり戦ってないってことは強敵とバトルしてたってことよね? ……うん、才能あるわ!」
にっこり笑顔でサムズアップするアイギス。さっきから思ったがこの人、一言で結構長く喋るな。お喋り好きなのだろうか?
だがアイギスの言うとおり、確かに戦闘に慣れないとスライム1体倒すのにも時間はかかるだろう。
ランスたちの場合は、ルヴィアという手本にならない強者の戦いを見て、僕が『リリーブテンション』で動きやすい状況を作ったというのもあるたんろうが、一番は本人たちが一生懸命頑張った結果の賜物であると思う。
勿論、適正レベル以上の敵が出てくる森の奥でグレーウルフと戦ったのもあるだろう。そうでなければ、現時点でレベル4になれてたかどうかぐらいだったと思う。
……まぁ、それでも僕はまだレベル1なんだけど。
「……で、そこの子はドラゴンよね? ということは君が噂になってる、人型ドラゴンと契約したプレイヤーかしら?」
「えっ、噂になってるんですか?」
アイギスが案の定、行商人の娘と遊んでいるルヴィアを見てドラゴンと認識した(まぁ、目の前でドラゴンブレスを吐けば誰でも分かる)のだが、そこで人型ドラゴンとその契約者の事が掲示板を中心に噂になっていることを初めて知る。
その手の掲示板は覗くことは無かったので、僕は今の今まで知らなかったのだ。
「……え? むしろ、どうして噂になってないと思ってたの?」
「いや、だって誰も聞いてこなかったからそうでもないのかなーって……」
僕がそう言うと、アイギスは額に手を当てて顔を上に向ける。何やら呆れられているような気がするのだが。ランスとミリィも何故かこっちに目線を合わせようとしてくれなかった。
えっ、僕が何をしたっていうんだよ……?
「ま、まぁ、それくらい図太い方がいいのかもね。でも、これから街に戻るのでしょう? 質問攻めに合わないように気をつけたほうがいいわね……」
一応、アイギスもその掲示板を中心に、話題になっているプレイヤーに対してはあまり無理に関わらないようにと注意喚起はしてくれているようだ。助かる。
しかし、質問攻めかぁ……。街に出る前の冒険者ギルドでの騒動を思い出すな。うん、あんまりしつこいのは嫌だな。
一応、粘着質なプレイヤーなどに対しては迷惑行為をされたとして運営に通報するという手段もありはするので、相当しつこい場合はそれを使うことにしよう。
アイギスが言うには、一応掲示板では暗黙の了解として、目立つプレイヤーに興味本位で凸する事は控えましょうという話になっているようだ。
なんでも、ベータテスト時代に例のSSランクドラゴンと契約したプレイヤーがしつこく纏わりつかれたという事があったらしい。
その際に運営に通報した結果、そのつきまとっていたプレイヤーのアカウントが停止され、本サービスでもアカウントの作成ができないという処分が下されたらしい。
結果として、当時を知っているベータテスターたちは他のプレイヤーが同じ轍を踏む事がないように注意喚起をしているようだ。
それならそこまで気にする必要は無いのかもしれないな。まぁ、気をつけることに越したことはないが。
「ところでリュートたちはまだ先の方に進むのかしら? それとも街に戻る?」
一応、この古い街道を先に進めばおそらく村落には到着するだろう。
「さっきの話聞いたから戻りたくはないんですけど、でもまぁそろそろログアウトしたいんで戻ろうとは思ってます」
ゲーム時間で14時に近づいている今、そろそろ戻り始めれば1時間も経たないうちに戻れるだろう。その後、冒険者ギルドなどに立ち寄ることを考えれば、現実のお昼前後にはログアウトすることができるだろう。
このゲームでは、市街地エリア以外でログアウトすると、その場にゲーム内のボディが残る仕様になっているため、例えばこの場でそのままログアウトしてしまうと、その間にモンスターに襲われて死に戻りしてしまっているなんて事が普通に起きてしまう。
勿論、死に戻りしてなければその場からの再開になるのだが、リアルのたった15分でゲーム内で1時間経過する仕様かつログアウト後は最低15分はログインできない仕様なので、間違いなくその間に襲われて死に戻ってしまうだろう。
なので、市街地エリア以外の適当な場所でログアウトするという事はあまり推奨されていない。
ただし、セーフティーエリアの場合はモンスターが出現することがないので安全にログアウトできる。また、野外で使える宿泊アイテムを使ってログアウトするという手もある。値段はそれなりにするが戦闘中やイベント中でない限り、どこでも安全にログアウトすることができる。
因みに先に進んだ村落も普通に市街地扱いなのでそこでログアウトするという手もあるが、アイギスによればここから更に2時間程度も移動にかかるらしいので、それなら戻ったほうがマシだろう。
なんにせよ依頼の報告には冒険者ギルドに行く必要がある訳だしな。
「そう。なら、私もこの依頼でファスタに向かわないといけないから、どうせなら街まで一緒に行かない? 私も噂について知ってるからほっとけないし」
「それは別にいいですけど……」
ふとランスとミリィの方を見るが、特に異論は無さそうだ。まぁ、少しでもプレイヤーが多い方が安全ではあるだろう。
行商人の家族も護衛が増えた事を喜んでいるようなので、特に問題はなさそうだ。
おそらくはそれも見越して僕らに同行を頼んだのだろうが、その点は助けに入って時点で仕方ないだろうと思っている。
まぁ、『旅は道連れ世は情け』ともいう。似たようなイベントがもしこの後も発生するとしても、これだけ来訪者が居れば盗賊だって狙って襲っては来ないだろうし、モンスターもルヴィアがいれば安心だ。
それに噂を聞いて僕らに凸してくるプレイヤーに対してはアイギスが遮ってくれることだろう。むしろアイギスが根掘り葉掘り聞いてくるかもしれないが、そこら辺は弁えてくれるだろうと願っている。
「じゃあ、よろしく頼むわね。ついでにみんなでフレンド登録しておきましょう!」
そして僕らはアイギスとフレンド登録する。これで僕のフレンドの数は4人になった。まだ数時間なのに地道に増えているな。うん、良いことだ。
こうして再びファスタに向かう最中、僕らは先程までの戦いなどの話を色々と話すことになったのだが、流石は実際に体感してきたベータテスターだけあって、知識だけの僕よりもゲームの仕様などについてはかなり理解している様子で、とても参考になった。
まぁ、知識だけでそれだけやれているのも凄いとアイギスには言われたが。
因みに僕とルヴィアがまだレベル1だと説明すると、目玉が飛び出すかという勢いで驚いていた。
まぁ、そりゃ驚くよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます