第29話

 俺は屋上から落下しながらゴブリンキングに狙いを定める。

 理由としては、落下から繋げる一撃で確実に倒せる強いモンスターがゴブリンキングしかいないからだ。

 加速しながらゴブリンキングの頭上から毎度お馴染みの踵落としを喰らわせ、脳天からペチャンコにして消滅させる。


「グベェッ!?」

「うわ汚っ。借りた執事服が汚れるじゃないか……って血は出ないんだったな」


 俺はゴブリンキングの血がかからない様に一瞬でその場を離れようとするが、このモンスター達は血を出さない事を思い出して急ブレーキ。

 それで一旦冷静になり周りの目がある事を思い出したので、自分の身を隠すために、勢い良く地面を蹴って大量の砂埃を巻き上げる。


「きゃああああ!? 砂が目に!?」

「急に変なの出たと思ったらどう言う事だよおおお!!」


 突然の事に阿鼻叫喚とする一般客達。

 いきなりの事ばかりで少し可哀想に思わないこともないが、身バレを防ぐためにすることなのでしょうが無いと割り切るしかない。


「よし、取り敢えずこれで俺の姿は見られないだろう。ただこれもずっとじゃないし、速攻で終わらさせてもらうぞ」


 一般客の文句を聞いていると成功したと確信出来るので内心ホッとしながらも、俺は砂埃の中【感知】を駆使して、まずはゴブリンを全滅させるために動く。

 しかしゴブリンは感知能力が高く俺の存在にも気付いていそうだが、ゴブリンは今の俺にとって直接攻撃をするほどの相手にもならないので、近付くことなどしない。

 全てのゴブリンが視界に収まる所に移動したら、虚空に向かって拳を振り抜く。


「ふっ――」

「グギャギャ!?」

「キャ――ッ!!」


 すると当たっていないのにゴブリン達の腹に大きな風穴が空いていく。

 これは、拳を振り抜いた時に生じる風圧をゴブリンたちに当てて行くと言うシンプルな技で、弱いモンスターしか殺せないが、牽制にもなるので重宝している。


 その結果、ゴブリン10体を倒すのに掛かった時間は僅か1秒ほど。

 数値だけ見れば早く見えるが、しかしこれでも異世界の時よりも大分遅く、全盛期なら1秒で100体近いゴブリンの上位存在とも言えるオークを倒せていた。


「そう考えると……この体は貧弱だな。いっそのこと今度1から鍛え直すか」


 体の鍛え方は師匠から耳が腐るほど聞いているのでバッチリだ。

 まぁこの世界には回復ポーションがないので幾つか出来ない物もあるが。


 ――っと、余計な事を考えてしまっていたな。

 取り敢えず今は目の前の戦闘に集中しよう。


 俺はそう考えを改め、今度はオークへと向かう。

 オークは人間よりも体格が大きく、キングにもなると3mを優に超える。

 その分筋力も人間よりも多く力も強いが、その代わりに頭は悪く、尚且今の俺にはそのご自慢の怪力ですら足元にも及ばないので恐れるに足らず。

 

「グオオオ!!」

「おいおい、叫ぶと場所が特定されるから辞めた方が……って低脳のオークに言っても意味ないか」


 オークが棍棒を持ち前の怪力で力任せに振り下ろしてくるが、俺はそれを片手で受け止め握り潰して破壊。

 その後すぐ様地面を蹴って顎に膝蹴りをかますと、力が強すぎたのか頭を吹き飛ばしてしまった。


 うわぁ……これは誰にも見せれないな……。


 これが一般人ならグロいと思うだろうが、生憎俺にはこの程度では何も感じない。

 異世界では食い殺された人間の死体を見たことがあるし、もっとグロテスクな光景を目にしているからな。


 俺は一切動揺することなく、まるで機械の様にオークに接近しては殺し、また接近しては殺すと言うのを繰り返してあっという間に全て消滅させる。

 その時間僅か10秒足らず。

 息も切れていないし汗もかいていない。

 これだけ見れば一見余裕そうに見えるだろうが……実際の所は全然そんな事はない。


「ふぅぅぅ……やっぱりこの体での使用は迂闊だったかな……」


 俺は小刻みに震える手を眺めながら溢す。

 既に体は激しい痛みに襲われており、限界だと警鐘を鳴らしていた。

 しかし残念ながら今はそんな事を気にしている余裕はない。


 俺はオークが終わったので、限界を迎えそうな体を酷使してオークキングの元に瞬間移動の様な速度で移動し――


「カーラッッ!!」

『やっと出番だな、主人よ』


 ――手に愛剣破壊剣カラドボルグを出現させて一刀両断。

 まるで豆腐の如く真っ二つになったオークキングは声を発することも出来ずに消滅した。


『ふむ……倒しがいのない相手だったな』


 そんなおかしな事を宣うカーラだが、1つ訂正しておこう。


「そんな事言えるのはお前だけだ」

『まぁ我は最強の剣だからな!』

「事実だけど自分で言うなよな……」


 ……よし。

 カーラの戯言は置いておいて、まずはゴブリンエンペラーを何とかしよう。

 俺は感知を使用しながらゴブリンエンペラーの方を睨む。


 奴は自身の手下が殺されたのも関わらず慌てる素振りを見せないどころか不敵に笑ってやがる。

 それ程自分の力に自信があるんだろう。

 実際コイツに敵う奴は中々いないだろうからな。

 まぁ目の前に敵う奴が居るんだが。


 しかし弱体化した今の俺にS級の力はない。

 これは厳しい戦いになりそうだな……。

 ならまずは――


「少し場所を変えさせてもらうぞ。――【身体強化:Ⅶ】ッ!」


 俺は【身体強化】の強化度を1段階上昇させる。

 体に纏われた白銀のオーラが少し濃くなり、皮膚を侵食する雷紋の様な傷も増えていく。

 更には全身がミチミチと音を上げるが、唇を食い千切る勢いで噛んで我慢する。


 痛い……全身が千切れるように痛いが……ここで動くッ!


 俺は足に力を込めて地面を蹴り、一瞬の内にゴブリンエンペラーに接近すると――


「――吹っ飛べ!!」

「グガァァァァ!?」


 全力でストレートをお見舞いし、学校とは反対側の山の方へと吹き飛ばす。

 ちゃんと飛んでいくのを確認した瞬間に優奈さんにRainを送信する。


 これで俺の位置と現状を把握できるはずだ。

 優奈さんは組織最強のS級異能者らしいので、仮にまたこの学校にモンスターが来たとしても対処できるだろう。

 エンペラー並みの強いモンスターを何体も召喚することは相手も出来ないだろうしな。


「さて、一体誰だろうな……異世界の人間なのは確実だろうし」


 1人だけ頭に浮かぶが、奴は俺が既に―――

 俺はそこまで考えた後、「それはありえない」と考えを捨ててエンペラーを吹き飛ばした方向へと追いかける様に歩を進めた。


 


 ふと感じた一抹の不安を抱えながら―――。


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