第20話 案の定勧誘され……
俺と颯太は宮園たち異能者に案内されて1番大きな建物に入る。
勿論誰にもバレない様に常に自分の周りは感知しているし、颯太は俺と手を繋いでいるので、例え颯太に危険なことが起きても、よっぽどの事がない限り俺が対処できるだろう。
そしてそんな颯太は、俺の心配など欠片も気付いていなく、屋敷の様な家にテンション爆上がり中で俺の手を繋ぎながらぴょんぴょん跳ねていた。
「わぁ……凄い……。隼人お兄ちゃん! このお家めちゃくちゃ広いよっ! 僕もここに住めるのかな!?」
「まぁ沢山お金を稼げば住めるかもな? それかお姉さんに頼んでみな」
「え? お姉ちゃん? うーん……でもダメって言われそうだし……」
そう言って意気消沈となる颯太が少し可哀想なので、秘技を教えてあげることにした。
「颯太、お姉さんにこうしてあげるといい。まず目をうるうるさせて……その後に少し首を傾げて―――」
「そこら辺で話をやめてくれるといいんだけど?」
俺が後ろを振り向くと、そこには怒りにピクピクと眉が動いている宮園が仁王立ちしていた。
その余りの迫力に俺と颯太は顔を見合わせてからお互いに頷き、颯太が前に出る。
そして先程俺が教えた秘技を繰り出す!
「ごめんなさい……清華お姉ちゃん……」
「うぐっ!?」
突然宮園が変な声を上げて仰け反ったかと思うと、何歩か後ろに下がって声を絞り出した。
「も、もういいから、は、早く代表に会って来て……私はここに残っているから……」
よし……予想外に効果覿面だな。
これは意外に使えるかもしれん。
「隼人お兄ちゃん! どうだった!?」
「おう、めちゃくちゃ良かったぞ。この調子で頑張って行こうな」
「うん!!」
純粋な目で俺を見つめてくる颯太があまりにも純粋で眩しかったため、サッと目を逸らす。
自分が大人のクズ思考になっていた事に物凄く罪悪感を感じてしまったのだ。
俺が罪悪感に押し潰されそうになっていると、宮園に代わって私服の男が案内し始めた。
その男は黒髪黒目のthe日本人って感じの顔で、一見何処にでも居そうな感じだが、ダボダボな服からでも分かるほどの筋肉が付いている。
そして歩き方からして、確実に何かしらの武術をやってそうだ。
姿勢もとてもよく、重心もしっかりとしている。
もしかしたらスキルを使わなかったら俺といい勝負が出来るかもしれない。
それでも様々な経験をしてきた俺が負ける事はないが。
これは自惚ではなく断言できる。
そもそも彼とは死線を潜っている数も質も違うので、幾ら強い相手でも決してビビる事はない。
そもそも俺は常に命が危ない状況に何年もいたし、普通に死にかけた事などザラにあるからな。
その全てを換算すると俺が負ける事はない。
と言うか初めの殺気の出し合いで勝てる気がする。
『もし戦っても我が居るからスキルなくても勝てるだろう?』
そんな事を耳元で言う剣は無視して辺りを警戒しながらついて行く。
やはり大きいだけあって廊下も長く、2分ほど歩き続けると、やっと目的の場所へと着いた。
「藍坂様、三河様、此方が代表室になります」
男が扉を開く。
中はドラマとかでよく見る社長室の様になっており、真ん中の椅子には1人の壮年の男が座っていた。
その横には2人の護衛の様な黒服が立っており、さっき俺たちを案内してくれた男よりも更にゴツい。
あれくらいなら異世界の冒険者でも見劣りしないだろうな。
まぁ強さは全然釣り合っていないだろうが。
ただ先程から―――と言うのもこの部屋に入ってから、スキルの発動を阻害されている様な感じがする。
俺なら無理矢理発動することも可能だけど、今の所この部屋に俺に害意を向ける奴は居ないので何もしないが。
一通りこの部屋のことは把握出来たので目の前の壮年の男に問いかける。
「―――それで? 俺たちを呼んだ理由はなんだ?」
「おい、代表にその態度はなんだ」
護衛の男が殺気立つが、壮年の男がそれを手で止める。
「やめなさい。まだ彼らは私たちの組織に入っているわけではないんだ。それに彼らは客人だ」
「……承知いたしました……」
そう言うと渋々と言った感じで後ろに下がった。
すると壮年の男が話し始める。
「先程はウチの護衛が失礼した。まずは自己紹介としよう。私の名は
そう言う壮年の男―――龍童は、椅子から立ち上がってお辞儀をして来たので、俺もそれに倣って自己紹介とお辞儀をする。
「……此方こそ初めまして。先程は私も少し考え無しでした。私の名前は藍坂隼人と言います。それといきなりで申し訳ないのですが……私たちはどうしてここに連れてこられたのでしょうか?」
何となくは分かっているのだが、颯太は分かっていないだろうし、俺も確信はしていないので一応聞いてみる。
すると龍堂は「すまない。説明不足だったな」と言うと、
「隼人君のことは清華君から、颯太君のことは君のお姉さんから聞いているよ。何でも大活躍なんだってな。それで私から1つ提案なのだが……ウチの組織に入らないか?」
「……私たちが入ることによって何かメリットはありますか?」
俺的にはそれが1番重要だ。
正直自分の身は幾らでも守れるし、家族も大抵のことなら守れる。
なのに入ってタダ働きなんてのは絶対に嫌だ。
「それなら大丈夫だ。まず君たちへの監視は外そう。そして君たちの家族の安全も此方が守る事を誓う。後は……給料がだいぶ出るぞ」
「……因みにどれくらい?」
「…………月150万にその月の出来高によって更に追加報酬が用意される」
「是非契約しましょう。龍童代表、今から俺はどうすればいいですか?」
「そ、即決かい……? もう少し考えても……」
「いえ、この世界は金が殆ど全てなのでそれで十分です。それに家族も守ってくれるんでしょう?」
俺的には家族が安全で今後汗水垂らして働かなくて良くなるならこれ程いい待遇はない。
もし守れなかったらその時点で組織は壊滅するが。
と言うか俺が組織をぶっ壊す。
「はっはっはっ! 勿論さ! 君の家族は私たちが守ることを約束しよう! それでは―――」
龍童代表が契約書を俺の前に置こうとしたその時、
「―――ちょっと待ってください! せめて実力を測る必要があります!」
そう言って来たのは俺と同学年ほどの1人の少女だった。
珍しいピンクゴールドの髪をしており、勝気な目には敵意を一杯に込めて俺を睨んでいた。
どうやら俺の力を疑っている様だ。
俺の実力を把握できない時点で彼女に勝ち目など皆無なのだが。
……やっぱりどこの世界でもこうなるんだなぁ。
てっきり異世界の冒険者だけかと思ってたよ。
『昔の冒険者になる時を思い出すな』
『……ああそうだな……』
昔の俺がA級モンスターを1人で倒せるようになった事で、師匠から冒険者登録のお許しが出たのだが、その時に俺が子供だったため喧嘩を吹っ掛けてくる輩が沢山いたのだ。
まぁ全員二度と刃向かえないようにボコボコにしたが。
今回も大した事のない雑魚相手だが、それでも面倒なことには変わりない。
俺は結局こうなるのかとため息を吐いた。
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