第7話:完勝!

 函館を制圧した『乃木希典』率いる英霊軍は札幌に向けて進軍する。

 途中、至る所から中露軍が攻撃を仕掛けてくるが乃木率いる第三軍はびくともせずにひたすら進軍していく。

 この時点で東京でも政変が起こり新鋭気鋭溢れる新党“神政党”が明治大帝以下の明治の元勲達の協力により新政権が設立する。

 この行動に野党は猛反対するが中露と繋がっている事を映像付きで暴露されて黙るしかなかった。

「祖国日本を売る売国奴が日本人なら外国人以上に重罪といたせ!」

 総理大臣となった“神政党”元首である『夏目博郎』が内閣調査室長『葛原官兵衛』に伝えると彼は頷く。

「それと……防衛省長官に北海道に駐屯する陸海空自衛隊に全軍出撃命令を出して卑劣な侵略者たちを追い出すか殲滅しろと」

 葛原は深々とお辞儀をすると総理室を出ていく。

 それを見送った夏目は窓の方に行き空を見上げる。

「……この動乱が終れば新たな日本の歴史を歩むことになる! 日下艦長、私はこの世界の日本を護っていきます! 時の漂流者を辞める決断をした時から」

 そう、この『夏目博郎』は時の漂流として数々の平行世界を旅する伊400の乗員の一人であった。

 この世界に流れ着いた時から既に四年の月日が経っていた。

 その間に愛する人と出会って結婚する。

 そして、伊400から永遠に退艦することになる。


♦♦


 乃木希典率いる英霊軍は順調に行進を続けて遂に札幌郊外に到達する。

 絶対に死なない英霊に恐れをなした中露軍の一部が脱走を開始し始めていくが北海道を売った日本人も脱出しようとしたら何かの結界に遮られて脱出が不可能になっていたのである。

「祖国を売る卑怯者の末路はこうなるのだということを日本全国に知らせる必要がある」

 乃木希典は札幌の街並みを見ながら呟くと参謀がやってきて新政権の夏目総理が北海道に駐留する全自衛隊に出撃命令を出したという事を聞くと笑みを浮かべて頷いて自衛隊の力を見せてもらおうと言い全軍に待機命令を出す。

 札幌郊外に布陣した英霊軍が急に進撃を止めて足一歩も動かない様子を見て中露軍の指揮官たちは疑問に思ったがそれも直ぐに解消する。

「何だと!? 北海道に駐留している全自衛隊が出撃しただと!? 専守防衛を捨てたのか!? 憲法違反だぞ!」

 元北海道知事、そして現在の立ち位置は“北海道人民共和国”臨時首相であるが自衛隊の出撃を聞いて鈴原は怒り狂う。

 自分が日本に対して何をしたかということを棚に上げて怒り狂うが何も出来ない。

 彼を護るべき中露軍も各自衛隊を叩き潰すために彼に構う事はなかったのである。

 自衛隊最強と言われる第七機甲師団とロシア第十五機甲師団が夕張の地で激突したが僅か数分の会敵でロシア第十五機甲師団が全滅する。

 突如、空中に出現した小型対地ミサイル数千個の豪雨が第十五機甲師団の頭上に降り注いで一瞬で壊滅する。

「……何が起こった? 今の攻撃は何なのだ?」

 第七機甲師団『神木群像』陸将が次々と爆散していくロシア軍の機甲師団を眺めながら呆けた表情で呟く。


♦♦


「ふふふ、敵味方とも何が何だか分かっていないだろうな」

 岩手県沖十キロ沖合に浮上している巨大潜水空母“伊400”の艦橋甲板で日下艦長と橋本先任将校が話している。

「艦長もお人が悪いですな、まあ放っておいても陸上自衛隊の勝利は間違いなかったのですが?」

「これからの日本を取り巻く環境は増々悪くなるだろう! 北海道の地から邪悪な占領軍を追い出したとしても……尖閣諸島を始めとする各種領土を巡る困難に立ち向かう為にも自衛隊の戦力は少しでも残しておく方がいいからね?」

「ふふ、夏目総理を想っての事ですね? 彼も又、茨の道を選んだものですね? まあ、周囲に有能な閣僚がいるので切り抜けると信じています」

 日下はそろそろ英霊軍も再び動くだろうと言うと橋本も頷いて艦内に戻っていく。

 伊400は最後の決戦を見届ける為に潜航を開始する。


♦♦


 北海道に駐留した第十五機甲師団が全滅した事でロシア軍には自衛隊の進軍を妨げる事は不可能になっていて中国軍も士気が激減すると同時に中国本土で大異変が勃発した事で退却命令が出る。

 だが、その時既に英霊軍が札幌市内に突入して来て中露軍に襲いかかり次々と英霊の手にかかり絶命していく。

 彼らは北海道に上陸した時に無垢の札幌市民の婦女子を暴行していたので無慈悲に斬殺されていく。

 執務室内で『鈴原三郎』はガタガタと恐怖に震えていた。

「こんな筈では……! 何処で間違った!? 脱出も出来ない、このまま捕まったりすれば……」

彼の脳内に死刑の文字が頭に浮かぶ。

 東京で新たな政権樹立した『夏目博郎』という聞いたこともない若造の指示の下、売国奴を見つけ次第、拘束して簡易裁判の後に罪の状況に応じて処罰されていくのである。

 既に自分は最上級UR級の罪人として認識されていると言う。

 捕らわれれば間違いなく問答無用に処刑されるのは火を見るより明らかであったので恐怖に陥っていた。

「国を売って何が悪いのだ? 所詮はただの土地だろうが! 大事なのは己や家族で国の価値はどうでもいい筈だろう!国が無くても人は生きていける!」

 執務室に空しく響き渡るがその数秒後、乱暴にドアが蹴飛ばされてドカドカと英霊軍が入ってくる。

「貴様達! 亡霊と言えど日本軍人だろうが! 礼儀をわきまえろ!」

 震えながらも威勢よく鈴原が怒鳴るとそこに一人の人物が入室してくる。

 鈴原は何者だ? と質問するとその人物が名を名乗る。

「小僧! この伊藤博文によく暴論を吐けるな?」

「伊藤博文!? ふん、韓国を無慈悲に併合して韓国民を苦しめた報いで暗殺された老人に小僧と言われる筋合いはない! 韓国併合でどれだけの韓国民が泣いたことか貴様にはわかるまい、お前達こそ土下座して今の韓国に謝るべきだ」

 そこまで言った時に一人の英霊に思いきり殴られて吹き飛ぶ。

 そのまま鈴原は逮捕拘禁される。

「どうやらこれで終わったようだな……?」

 乃木の傍に児玉がやってきて呟くと乃木も頷く。

 東京の方角を見つめると深々と黙礼する。

「後は……自衛隊に任せて我々は帰る事にしよう」


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