喪失兵器―ロストウェポン―
星屑コウタ
第1話 第十三書記
「バースの大地はな。こんなコンクリートだらけの世界と違って、水も空気も美味しいし、なにより自然が豊かやねん」
「ふむ、それはいいですね」
「王様が一人と十三人の書記がおってな」
「書記というのは、記録係の事ですか?」
「違うで。書記は王様から領地を任されとってな、王位継承権もあるねん。しかもな、不思議な力を持ってるんや」
「へぇ……」
「実は私は、十三番目の書記なんや」
「凄いじゃないですか。どおりで鎧も
僕がそう言うと、くすんだ桃色の髪を持つ女は、嬉しそうに隣に座った。
この美しい女性とは初対面だ。川辺に降りるための階段に腰かけて、川を渡る鉄橋と、更に向こうに建つビル群を眺めていたら、突然話し掛けられた。どこぞの
「それでな、ちょっと困った事が起きてな。お前に力を貸して欲しいんや」
「何が起きたんですか?」
「王様が死んだ」
「え――!!」
僕は女性を見ながらのけ反った。まあ、驚いたリアクションなら、この程度でいいだろう。十分自然で、相手も満足したはずだ。
「次の王様を決めるために、続々と書記が集まって来とるんや。私も行かなあかん」
「そうなんですか。じゃあ早く行かないと」
僕が急かすように言うと、女性が右手を差し出してきた。
「私はカティア。第十三書記のカティアや。あんたの名前も教えて」
金属に包まれた手を握って、僕は答える。
「僕は黒井ハルトです」
「黒井ハルト。バースの大地に来てくれ。私と一緒に戦おう」
カティアが言うと、ちょうど鉄橋を電車が渡って行くところだった。僕は電車が過ぎるのを待った。
「いいですよ。一緒に戦いましょう」
「よし!」
と言いながらカティアは立ち上がる。
「今から召喚の儀式を開始するで! バースの大地と、こっちの世界をトンネルでつなげるぞ。準備はええか?」
「はい! 準備できました! いつでも召喚して下さい」
夕方の堤防に、ブラックホールのような丸い穴が浮かび上がる。カティアが跨いで入って行った。穴の中から、おいでおいでと手で招いている。
「あっ、自分で歩いて行くんですね。今行きま――す」
しかし、リアルで長い夢だ、と僕は思った。この女性は、何を暗示するのだろう。
現実の僕は、効きの悪いエアコンの部屋で、暑さに苦しみながら寝ているはずだ。今は何時ぐらいだろうか。昼か、昼過ぎか? まあ、どっちでもいい。用事なんてないし。どうせもうすぐ目が覚める。
穴の中を見ると、カティアの長い髪がウネウネと動いて顔を隠していた。あの蒼い目をもう一度見たいと願ったが、僕の夢のくせに、上手く操れない。まあ、いいやと思って穴の
だけど、いつまでも落ちた。
僕は夢の中でも意識を失って、底のない暗い海に沈んでいった。
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