第28話 ゲヘナの正体
脅しの効いた口上を終えると、不気味な人形は黒雲の中に消えた。
――な、なんですか今のは!?
僕とオハナさんは空を見上げて硬直する。この世界の人形は、全部あんなのなのか!? 絶対買っちゃダメなやつ!
「あれが、第九書記ニーチェが使役している
とカティアが言った。両手を交差させて肩を抱きしめている。ダストンが雪で出来た騎馬の踵を返した。
「夢魔のニーチェだ。人形だけではないぞ。貴族であったゲヘナをたらしこみ、自分の世話をさせているらしい。どこにも姿が見えないから気をつけろ」
「夢魔ちゃんやったか! 珍しい悪魔やなぁ。私、初めてや」
カティアが興奮した声を出したので、ダストンは苦笑する。
「ふふふっ。ではカティアよ。私は急いで本陣へ戻る。後は任せたぞ!」
「了解や。まかしとき!」
ダストンが毛だらけの背中を向けて、雪の軍勢の隙間を縫うように抜けていく。雪の精霊たちはピクリとも動かなかった。来るべき号令を、今か今かと待ち構えているかのようだ。
そして――。
……戦場に鳴り響く
辺りが静まり返り、声が木霊する。
「戦の神よ、我らに祝福を
ゲヘナが剣を振り下ろした。
地竜に跨った人形が、器用にラッパを吹き鳴らし、方々で太鼓を打ち鳴らし始めた。そこに地竜が一斉に吠えるので、まず、分厚い音の壁が僕達を吹き飛ばそうとした。
――ひえ! ――ムリムリ無理! ママ助けて!
秒で吹き飛ばされてしまう僕の心。洗濯バサミをつけ損ねた洗い物のように空を舞う。
大地が震えた。生き物が起こす大地の震えだ。最強の突撃力を持つという
――何だ? あれ?
「オハナさん見えますか? 何か通った!」
僕の視力はとても良い。偵察に出た時と同じように、遠くの物がはっきりと両目に映る。喪失武器化しているからに違いないが、そうだとしたらオハナさんにも見えるはずだ。今、突撃を始めた竜騎兵の前を、物凄いスピードで横切って行ったダチョウの姿が――。
「え? 何も見えないわよ! ああああ、来る来る来る――!! どうすんの――!!」
駄目だ。オハナさんも限界が近い。これ以上意識を向けてしまったら、パニックが僕にもうつってしまう。そして思い出したぞ。前にも同じようなシルエットを見た。
カティアの号令が響く。イントネーションが独特だから、澄んだ声が良く聞こえる。
「私は、第十三書記のカティアや! 私が玉座に行くのを邪魔すんな! 行くでぇみんなぁ!! ここは絶対死守やぁぁ!! 突撃せぇぇ!!」
「オハナさんもういいです! 行きましょう!」
僕はオハナさんに声をかける。実はそんな事をしなくても、カティアに命令されると、嫌でも足が前にでるのだが――!
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!! また、こうなるのねぇぇ!!」
オハナさん。ちょっと五月蠅いかも!!
僕達はカティアを乗せた戦車を引っ張る。太い鎖が千切れるぐらいにぴんと張る。喪失武器化した状態で引っ張ると、あれだけ重かった青銅の戦車が、風の精霊の加護を受けたかのような速度を出した。風景が溶けて、どんどん後ろに流れていく。両軍の激突は思ったより早くなった。
ゲヘナが一瞬で目の前に迫る。水平にした大剣でカティアの首を落とそうと狙ってくる。
「第十一書記のゲヘナだ! 首を貰うぞ十三書記よ!」
「簡単にやるかぁ! 私を守れ
ゲヘナは、戦車を引っ張るオハナさんの横をすれ違おうとしている。ゲヘナの駆る地竜が速過ぎて、やや突出し単騎での攻めとなっているが、それでも数百数千の竜騎兵が、隙間を作らず追随している。
オハナさんの右腕が吊られたように上がる。その腕を構成する歯車が勢いよく回転している。大剣と腕がぶつかり合って、大きな火花が舞った。ゲヘナの大剣が跳ね上がってカティアの首から軌道がそれた。カティアが胸を撫で下ろす。
「あ、あぶなぁ!! オハナさんありがとおぉぉ! 大好きやでぇぇ!」
「そんな、求愛はいりませぇぇぇん!! 腕が勝手にぃぃぃ動いたのぉぉぉ!!」
オハナさんは、ゲヘナが通り抜けたのを確認してから、腕をひっこめた。すぐに僕達の戦車は、追随していた
僕の身体中にある歯車が高速回転を始める。回避行動を取らない地竜の群れが正面から突っ込んでくる。事故に遭遇したような、激しい衝突音がした。
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