第25話 結局そうなるのか!
第十二書記ダストンが治める領地は、北から西にかけて、ダリューンという英雄の名が付いた浅くて広い川に面しており、川の近くに霊峰の入り口である山々と、中央から南にかけては平野がある。
豊富な水源があり、耕作に適した恵まれた土地だと言えるが、普段のダストンは霊峰エデンザグロースに引っ込み、およそ俗世間には関与しない生活を決め込んでいるので、実質的に管理しているのは別の者である。その者は英雄ダリューンの血筋にあたる者。その者に権限を預け、ダストンはよほどの有事がないと山を降りて来ない。
領民にしてみても、世捨人のような
だが、大問題が起きた。
北東に領地を持つ第十一書記ゲヘナが、第九書記ニーチェを伴って南下して来たのだ。
その軍勢は二十万。ゲヘナが契約している下級の地竜に、操縦者としてニーチェが契約する
「どうして、さっさと玉座に行かないのかしら。ほんっと、戦うのが好きな人が多いよね」
人間の姿を取り戻したオハナさんが、ぶつくさ文句を言っている。僕もあまり戦闘はしたくないので、その意見に大賛成だ。争いながら玉座を目指すのは、意味が分からないというか……
「色々考えられるんや……。ダストンをまず支配下に置いて、戦力を増やしてから川を渡るつもりやったんか、もうちょい欲張って川から南を全て手中に治める気やったんか……。あんまり
「カティアさんって、意外に色々考えてるんですね」
僕は割と、誉め言葉のつもりでそう言った。そうしたら、カティアに思い切り頭を殴られた。拳の部分まで金属で覆われているので、それはそれは激痛が走る。目から火花が出るとは、こんな事を言うのだろう。
「意外とはなんや、意外とは! 私は指揮官や! 常に考えとるっちゅうねん!」
「いっ――――たぁぁぁぁ!!」
僕は葉っぱの上を転げまわった。
僕達とダストンは、崩壊が収まった山道で輪を作っていた。
沢山いた雪男達は、川の手前に布陣した軍に対応するべくさっさと山を降りてしまった。今後の方針を決めてからでもよさそうだと僕は思ったのだが、ダストンが言うには、仲間とは離れていてもテレパシーのようなもので、いつでも連絡が取れるそうだ……。
――雪男……。器用過ぎませんか!
「ゲヘナとニーチェは、問答無用で攻めてきた。途中にあった五つの村が、すでに焼き払われたそうだ」
ダストンは倒木にもたれて呟いた。ダストンの口臭だろうか、話す度に甘い木の樹液のような香りが広がる。
「そんだけやられても停戦しようなんて、あんたも随分とお人好しやな」
カティアは呆れたように言った。
「そうだな……。話の通ずる相手では無かったようだ。使者も殺されてしまった。もはや戦うことに、なんの
ダストンがそう言うと、眼鏡を熱心に拭いていた先生が顔を上げた。
「また巨人になって焼き払うのですか?」
「そうやなぁ……」
カティアは考える。
「巨人化は一週間に一回や。霊的エネルギーというのが回復せんとあかんらしい。あと三日は無理そうやなぁ」
「え? そうなんですか? だったらヤバいんじゃ……」
僕は狼狽えた。巨人になるのにそんな制約があるなんて。
――あの大軍が押し寄せてきたら、打つ手が無いんじゃ……。
「まあ、型式一から四で対抗するか」
「はぁぁぁぁ…………」
カティアが得意げに言うと、先生とオハナさんが大きな溜息をついた。びくっとした後で、六股君が二人を心配している。
「ど、どうしたんすか二人とも。ここは大人が元気出さないと……」
「簡単に言うけど六股君」
「はい?」
オハナさんに詰め寄られて、六股君がたじろぐ。女性経験が多そうな六股君だが、オハナさんのような大人の女性には、まだまだかなわないらしい。
「型式一から四って、さっきのあれよ。歯車グルグル回るやつ。見た目以上にめっちゃきついから覚悟しといたほうがいいわよ。私今、筋肉ばっきばきだからね」
「えっ……、そうなんすか……」
「でも、きっと、それも霊的エネルギーが足りなくて変身出来ないんでしょ?」
僕はカティアの顔色をうかがう。びっくりするほど邪悪な微笑みをたたえていた。
「大丈夫や。
――嫌です。
嫌って声に出して言いたいから、ママ、力を貸して! この人は、ガツンと言わなきゃダメなタイプだぁ!!
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