第20話 相手は背水の陣
走りながら僕達は、壮大で美しい景色に息を飲み、様々な不思議な生き物と遭遇して度肝を抜かれ、ここは異世界なんだと、何度も思い知らされた。その結果――。
――ママァァ~! とにかく帰りたいぃ!
酷いホームシックに襲われた。気分が晴れない。人間忙しく情報が制限されている時のほうが、幸せな時もある。先生にオハナさん、六股君の存在がなければ、心が挫けているだろう。
現在僕達は、マールの領地から真っ直ぐ北に向かい、第十二書記ダストンが治める領地を突っ切る形でぶつかった山の
「お前ら、偵察してこいや」
はい、きた命令。すんごい上から。
僕らの雇い主は休む間もなくお仕事をくれる。今回は前向きに、ホームシックが治る事を願って仕事に取り組む事にしよう……。そういや、報酬くれるんだよね? ちゃんと貰いますからね。
――二時間後。
「すんごい数だねぇ……どこの書記の軍だろう?」
僕と六股君は山の斜面にいた。青々と茂る木々の切れ間から見下ろすと、東西に流れる川を背に、地面が無数の生き物で埋め尽くされていた。遠目で分かる異形の群れ。数十万、いや、もっといるかもしれない。眼下を埋め尽くす大群だ。
六股君は、とても自然なウンコ座りをしながら言った。
「なんかサイズもバラバラで、統一感ないけど、数だけは多いな」
「はぁ……待ち構えているね。またやり合うのかなぁ? あんまり戦いたくないんだけど……。あれは何かな? ふむふむ。恐竜みたいなのに人が
僕と六股君の視力は、敵方の偵察をするためにアップグレードされている。カティアの契約の力で、ばっちり改造済みだ。目的が終わるまで、世界中の誰よりも視力がいいだろう。六股君は、僕が泣き言を言うと否定した。
「しゃあねぇよ。カティアには歯向かえないし。玉座に着くまで、こんな毎日が続くんじゃねえの?」
「生き残れる気がしない」
「大丈夫っしょ。また巨人になったらいいよ。 いけるいける!」
「六股君は、前向きだねぇ。羨ましいよ」
「そうか?」
「うん」
六股君は立ち上がって、ブレザーのホコリをはたいた。僕はふと気になって聞いた。
「それ暑くないの? ブレザー?」
「いんや、ちょうど良いぐらい。靴下君は?」
僕は自分の姿を確かめる。ヨレヨレの白いティシャツに半パン。貧相に伸びた足に茶色い革靴を履いている。かなりの夏仕様だ。
「大丈夫。僕もちょうど良いよ」
そう答えた後に視線を感じた。矢で射ぬかれるような鋭い視線。急に気温が下がった気がして、背筋がぞくっとした。
僕は眼下に広がる絶望的な光景を、もう一度確認した。
――どこから感じる?
軍の本陣かと思われる大きな天幕が、川の前に四つ設置されている。その辺りからだ。
嫌な予感がしてきた。ここに長居は無用だ。見付かってしまうかもしれない。いや、すでに気づかれたのかも。
――帰ってカティアに報告だ。
山の南側から登って、山頂を越えた場所から偵察を続けていた。手入れされていない山道を歩いてきて、帰りもそこを通るつもりだった。
帰り道を塞ぐように、巨大な獣が現れた。いや、既に居たのかも知れない。そう感じたのは、風景から急に実体化したように見えたからだ。動物や昆虫が擬態を突然放棄して、隠れることを止めたようだった。
「うわああああ!」
「オイオイ! いつの間に!」
僕は悲鳴を上げた。天幕からの視線はまだ続いている。これは別の脅威だと思った。すぐ側に、こんな化け物がいたのに気が付くのが遅れた。
奇妙な生き物だ。猿のような身体をしているが首がない。毛だらけの胸に大きな目玉が一つあり、ギョロギョロと動いて気持ちが悪い。目玉の下に三日月を寝かしたような大きな口があり、四角い歯がびっしりと並んでいた。大人一人ぐらい簡単に飲み込んで
「……お前達は、第十三書記カティアの手の者か?」
「そ、そうだけど、オタクは?」
六股君が答えた。珍しく緊張しているようだ。
「私はダストン。第十二書記だ」
――だ、ダストン毛深い~。人間じゃな~い。
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