第五話 イケメンの戯れ
金策の方向性が見えてきて、機嫌の良くなってきた俺は、先生気取りで藤孝くんに問いかける。
「では、藤孝くん。商売の基本は何だと思う?」
「上様、その前に……その……差し出がましいようですが、名前に『くん』を付けるのは、どういう意味でしょうか? 上様は武家の頂点に立つお方ですから、呼び捨てで構わないのです。相応の相手であれば、せいぜい『殿』を付けるくらいです」
非常に申し訳ないといった風情で質問してくる藤孝くん。
もっと気楽に聞いてくれてもいいのに。
「君呼びってしないの? そっか。君を付けて呼ぶのはね、えーと、まぁ……愛称みたいなもんかな!」
「そうですか……愛称なのですね。それを知ってしまうと、やめてくださいとは言い難いですね」
ぐぉっ! イケメン藤孝くんの照れたはにかみ笑顔は破壊力が高すぎる!
俺にそっちの気は無い!
断じてない!
いくら時代的に当たり前でも無いったら無い!
俺は可愛い嫁さんが欲しいんだ!
あれ? そういや俺って嫁さんいるのかな?
「話は変わるけど、俺って嫁さんいるの?」
「御方様はおられません。身の回りの世話をする女中が一人おります」
残念! 女中さんと言うなら嫁さんじゃないことは確かだ。
となると、そういう関係ではないことになってしまう。
でも時代的にそういうのもありだったり?
「……身の回りの世話ってことは嫁さんとは違うよなぁ」
否定的な言葉を吐いているが、俺の心は期待に溢れている。
淡い期待を込めて藤孝くんの反応を横目で確認する。
「いえ、そういうのも含めてお側に仕えている女中ですので。しかし上様が……」
きたーー!
って俺が? 既に何かやらかしてるとか?
「気の強い女子は好かぬとお手を付けておられぬようです」
何を言っちゃってんのよ! かつての義藤!
気の強い女性は良いものですよ!
わかっちゃいない! わかっちゃいないぜ、義藤くん!
と内心盛り上がってみたものの、女中さんなんて見たことない。
こっちに来てから身の回りの世話は藤孝くんがしてくれていたし。
「……なんと惜しいことを。でも女中さんなんていなくない?」
「そう言っていただければ、和田殿も安心でしょう。彼女は戦には連れてこれませんでしたから、昨日、朽木谷に落ち着いたと連絡を入れたはずです。そう遅くないうちにこちらに来るでしょう」
和田さんってイケ渋の和田さんでしょうか。
それはつまり、妹さんも美形である可能性が高いということなんじゃないでしょうか!
落ち着け、俺。
和田さん違いということもある。
しっかり確認を取っておかねば。
情報収集は大事だぞ。
「和田殿って
「はい。和田殿の妹君です。忍びの腕も一流とのことで、上様の陰警護も兼ねております」
よっし!!!
しかも、くノ一属性までオンですか!
良かです。とても良かです。
こちらからお迎えに行きたいくらい盛り上がってまいりました!
いかん、今は自分の今後のために藤孝くんと相談しているのだった。
落ち着かねば。
「ちなみにその女中さんの名前とか見た目とかどんな感じ? ほら、今度会ったら、ちゃんと挨拶しないといけないしさ」
「ふふ、そうですね。彼女は
藤孝くん、俺の下心はお見通しって感じだったけど笑顔でスルーしてくれたよ。
これは情報収集だからね。そう情報収集は大事なんです。
言い訳してみたけど、ちょっと気まずい。
……良いよなあ。
目元が涼やかってキリリとした美人さんって感じかな。
気が強めってのも合う気がしますよ。うん。
いかん、また思考が脱線しかけている。
「そうだ、その和田さんに話があるんだった! 呼んできてもらえないかな?」
「おや、楓殿について質問でもなさるのですか? すぐ呼んでまいりましょう」
笑顔とともに切り返すイケメン。
こやつ、わかってて言ってやがるな。
こうまで爽やかだと意地悪も爽やかに感じてしまう。
イケメンとは、こうやって女の子を翻弄するのか。
ラブコメのヒロインだったら顔を真っ赤にして怒るところだろう。
そんなことを考えていたら藤孝くんはいなくなっていた。
少し待つと、藤孝くんが和田さんを伴って部屋に戻ってきた。
毎度の如く、部屋に入る前に膝をついて入室して良いかと問うてくる。
こういうのをやってると、自分は将軍で偉い立場なんだなと実感する。
もちろん、すぐに許可を出して和田さんにも話し合いに加わってもらった。
和田さんって表情があまり変わらなくて感情が読めない。
ミステリアスな雰囲気を醸し出してる。
これも忍者だからかな。
ちゃんと話をするのは初めてだから緊張するな。
ただ、今後のことを考えると和田さんの協力は不可欠だ。
「藤孝くん、さっきの話を覚えてるかな?」
「楓殿の話ですか?」
「ちっがーう!」
「……やはり楓ではお気に召しませんでしたか」
イケ渋な和田さん、ちょっと残念そうだ。
意外と妹のこととなると感情出るのか?
「楓さんのことは大事にしますから!」
「おお! それはつまり……」
なんかすっごい期待の眼差しを向けられる。
将軍の俺と相対した時ですら、そんな眼差しではなかったよね。
「女中さんとしてね! そしてさっきの話ってのは商売の基本の話! 藤孝くんわかってて言ったでしょ?」
「ははは。すみません。それで商売の基本とはどのようなことでしょうか?」
こやつめ。イケメンなら笑えば済まされると思っているな。
俺はそんなにチョロくないんだからね!
「良い商品があっても商売は成り立たない。大事なのは、それを売り捌ける販路を持つことだよ。そして和田さん、その販路を構築するのに忍びである和田さんに手伝ってもらいたいんだ」
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