第7話
翌日は、お互い花をどれだけの時間咲かせていられるか、試してみた。
砦の屋上に咲き誇る赤と青を、3人で眺める。
気候は穏やかで、外では兵士たちがおにぎりを頬張っていた。しかし、半日程度で雪椿と青い朝顔は消え、日が照りつける。
「動いてなかったら、こんなに保つんだな」
「全く動かずにいれば1日はいけそうですけど...日常生活を投げ打てばって感じですかね」
3人とも、うーんと唸り始める。
とりあえず上官たちに指示を仰いでみようということで、その日は解散になった。
艶葉は、もう少し雪椿のコントロールの訓練をしたいと申し出て、その場に残った。
舜も何を思ったのか、壁を背に座り、彼女の様子を見つめた。
「帰らないの?」
少し間があって、舜は答える。
「戻ってもすることないしな」
うっすら額に汗をかいていることに気づいて、艶葉は彼に近づき、大きめの雪だるまを作ってやる。やっぱりちょっと、楕円になった。
舜が、吹き出す。
「ほんと、不器用だな。お前」
ジトっと睨みつけてやる。
「涼しくしてあげてるの。文句言わないで。あと、お前じゃない」
舜が、目を丸くする。そして今度は、声を出して笑い始めた。
「ありがとな、艶葉」
何か言い返してくると身構えていたのに、素直な感謝にたじろいでしまう。小さく「どういたしまして」と、返すことしかできなかった。
頬が、熱くなる気がした。
照れたようにそっぽを向く艶葉につい手が伸びて、頭を撫でる。より赤く染まっていく珍しい反応が、舜は面白くて仕方なかった。
その夜、寝ている間に力を放出していればどうなるのか気になり、舜は朝顔を顕現させたまま眠りについた。
目を覚ますと、そこにはまだ朝顔はあり、すぐに消えた。
(眠ってる間なら、出し続けられそうだな)
それこそ、自分の人生をこの土地の為に捧げることになりそうだと、乾いた笑みをこぼすのだった。
毎日僅かな時間だが、雪椿と朝顔を絡ませる。その時間だけは、適度な温度と優しい風が、身を包んでくれる。
2人は砦の頂上で、うつらうつらとしていた。
そこへ、綿雪が顔を出す。艶葉が先に気づき、パッと舜から距離をとった。
「ずいぶん仲良くなったみたいだね。安心したよ」
「別に、そういうんじゃありませんっ」
出会った頃とは違う、人間味のあるコロコロと変わる反応に、破顔する。しかし、すぐに綿雪の表情は暗くなる。
「君たちには、申し訳ない報告をしにきたんだ...」
「生活を犠牲にしろって、お達しですか」
寝転んでいた舜が起き上がりながら言う。その顔から、感情は読めない。
綿雪は、グッと奥歯を噛む。
「私は、この身が役に立つなら、構いません」
「殊勝な心がけだな、艶葉。自分の身より、他が大事か」
嘲るような声色に、艶葉は眉根を寄せる。真意を探るように、茶色の瞳を見つめた。
「それなら、半永久的に気候を安定させられる方法があるかもしれない」
そう続ける舜の、何かを諦めた様子に、胸がざわついた。
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